第41話 情報屋

 王都に入るとまずはギルドに顔をだす。受付でギルマスのキンバリーに会いたいと言うとすぐに奥のギルマスの執務室に案内された。


「久しぶりだな、カイ」


 握手をしてから執務室の中にあるソファに向かい合って腰掛ける。お互いの近況を報告、と言ってもカイがギルマスに近況を報告するのがメインだったが。


「なるほど、1本は無事アマミの街に帰ったんだな。よかったじゃないか」


「それで2本目の情報を集めるために国の中をうろうろしているところなんだ」


 情報屋のことは言わずに差し障りのない話をするカイ。


「それで王都にはどれくらいいる予定だ?」


 ギルマスの問いに2、3日と言おうとしたが、せっかく来たらイレーヌにも会わないといけないし、国王陛下にも顔をだせと言われているなと思い出して、


「どうだろう。情報次第だな。2週間、長くて1ヶ月くらいか。せっかくきたからダンジョンにも潜ってみたいし」


「なるほど。こっちも何かわかったら教えてやるよ」


 ギルマスに礼を言って執務室から1F受付に戻るとカイを知っている冒険者から声をかけられてそのまま酒場に移動する。


 時刻が夕刻だったこともあり多くの冒険者がいた酒場、その中にはランクAのバーセルとゴメスもいてカイを見つけると手を上げてくる。そのテーブルに座ると、


「久しぶりだな」


「こちらこそ」


「クズハも元気そうだな」


 挨拶を交わし、王都に来た目的を聞かれたので情報集めにウロウロしているんだが王都だと新しい情報があるんじゃないかと思ってやって来たと言う。


「なるほどな。でも残念ながら俺達の中では新しい情報は無い。すまんな」


「全く構わない。もとより雲を摑むような話だってことは当人が一番理解しているからな」


 その後はお互いの近況報告となった。


「またソロでダンジョンクリアしたのか。流石だな」

 

 カイの話を聞いたゴメスが感心して言う。そしてそのダンジョンの様子を聴きたがったのでカイが説明していくと、


「複数体のランクSをそうあっさりと倒せられるのってカイくらいじゃないのか?」


「キアナでも言ったけど、このダンジョンの中は安全地帯が多いのと一本道になっている。通路でしっかり休憩をとりながらであればランクSの撃破は難しくないと思うよ」


「そうは言っても相手はランクSだろう?」


周囲の誰かがそう言うと、カイはそちらを向いて普通の口調で、


「キアナの連中は今の俺の話を聞いてその場で皆で攻略について話し合っていた」


 その言葉を聞いて声を出した冒険者が下を向く。


「偉そうなことを言う気はないが、やる前からだめだと決めつけてるといつまで経ってもクリアできないぜ?」


「カイの言う通りだな。逆にここまでダンジョンの情報をもらって手を出さないってのは冒険者として恥ずかしい話だ。俺達もそのうちそのダンジョンに挑戦することにしよう」


 バーセルの言葉に頷くその仲間達。カイが頷くと後からクズハも同じ様に頷く。


 しばらく旧交を温めてからギルドを出たカイ。以前と同じ宿に部屋を取って旅の疲れを取ると日付が変わる頃に宿を出てアニルバンから聞いている酒場の場所に向かう。クズハは眠く無いのかいつも通りカイの肩にのってご機嫌だ。


 その場所は大通りから路地を入って中でまたさらに細い路地に入っていったところにあった。見つけにくい場所にあったがアニルバンが書いてくれた地図が正確なので迷わずに着いたカイ。店の前には『Jim’s Bar』と書かれた小さな看板が。


 看板の明かりが消えていないのでまだやってるだろうと酒場の扉を内側に押して開いて中に入る。


「いらっしゃい」


 カウンターから声がかかる。店を見ると客は誰もいない。アニルバンが言った様に真夜中に来たのがよかったのかと思っていると、店に入ってきたカイを見た男が、


「キアナのランクS、シノビのカイかい?」


「こんばんは。その通り。それにしてもよく分かったな」


 そう言ってカウンター席の中央に座る。カウンターに向かって椅子は8つしかない。こじんまりとした酒場だ。


 カイが注文した薄めの酒をつくり、それをカイの前に置くと、


「久しぶりのランクS、それもシノビだ。冒険者相手に商売してる奴で顔はともかく、そのことを知らないやつはいないだろう」


 カウンターの中にいる男が言う。カウンターに他に人はいない。目の前の男がアニルバンの言う情報屋だろう。年齢もアニルバンと同じ位か少し年上、50歳前後のがっしりとした体型の目つきの鋭い男だ。


「なるほど」


 そう言って一口薄めの酒を飲むと


「ジムズバーか。」


「ああ。店の名前が俺の名前さ」


「アニルバンさんの地図がなかったら迷うところだった」


 アニルバンの名が出てジムというマスターの手の動きが一瞬止まる。


「ほう。あのアニルバンがお前にこの店を紹介したのか」


 カイがアイテムボックスからアニルバンが書いた手紙をジムに手渡す。それを受け取ったジムはその手紙を読むとズボンのポケットにしまって。


「奴は元気にしてるのか?」


「元気だ。旅館に張られている結界の強度を見る限り今でも現役でも十分通用すると思う」


 カイの言葉を聞いたジムはなるほどと頷いて、


「アニルバンの本気の結界が見える奴は少ないと言われている。なるほど、あのアニルバンがベタ褒めするだけはあるな」


 そうしてカウンターの中からカイを見ると、


「飲みにきたわけじゃないんだろう?」


 その言葉をきっかけにカイは幻の刀について最初から説明していく。その間自分でも酒を作って飲みながら黙って聞いていたジム。


 カイの話が終わるとグラスに残っていた酒をグイッと飲んで空にすると、


「話はわかった。もう1本の刀についての情報だな」


 カイは自分を見つめてきたジムの目を見て


「無論ただで情報をもらおうとは思ってない」


「わかってるじゃないの。若いのにたいしたもんだ」


 そうして自分用に新しい酒を作るジム。こんな調子で店の酒をガンガン飲んでいると店は儲かってるはずがないだろうと見ていると、新しい酒を一口飲んだジムは、


「報酬についてだが、金はいらない」

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