第40話 2度目の王都

 方針が決まったカイ。翌日は休養に当て朝の鍛錬が終わるとギルドに顔を出した。既に朝のクエストはほとんどが冒険者によってとられていて時間帯も中途半端だったせいかギルドの中は閑散としている。


 受付にいたスーザンにギルマスへの案内を乞うとすぐに奥に通された。

 

 ギルマスに昨日のアニルバンとの話をして近々王都に向かうと告げるカイ。


「なるほど。その情報網を使おうということか。悪くないアイデアだよな。ダンジョンを片っ端から攻略していくと同時に情報を集める。悪い作戦じゃない。出発の日が決まったらスーザンに言ってくれ」


 ギルマスに仁義を切ったカイ、今度はエルフのコロアの店に顔を出して同じ様にアニルバンの話をする。


「いろんなところから情報を取るのはいい事だね。王都に行っといで。それよりまたソロでダンジョンをクリアしたそうじゃないの。ボスから良いのは出たかい?」


「アダマンタイトのインゴットとこの腕輪。怪力の腕輪だがこの前のより効果が高いらしい」


 腕にはまっている腕輪を見せるとそれをじっくりみるコロア。


「確かに。今までのより効果が上がってるね。それにアダマンタイトか、あれはなかなか手に入らない鉱石の1つだ。金策にはよかったんじゃないの?」


「その通り。高く買い取って貰ったよ」


 その後しばらく雑談をしていると、コロアが


「王都への行きでも王都からの帰りでも良いからエルフの森に行ってみるかい? あまり知られてないがエルフもこの大陸の情報を結構持っているんだよ」


「エルフの森?」


 カイにとって初めて聞く名前だ。


「そう。エルフの森。ほとんどの人間はその場所を知らないだろう。カイなら森に行っても門前払いをくらわなさそうだから教えてあげるよ」


 コロアが言うにはこの大陸の中央部、ハスリアとローデシア、そしてモンロビアの3国の国境が接しているエリアにエルフの森があるという。


 「王都から西に行ってそして少し南に下がる場所だね。とりあえず3国の国境が接している場所を目指して歩くんだ。そうしたら結界が貼られてる大きな森が見えてくる。その中に入っていくとエルフの森さ。結界は特殊で普通の冒険者ならまず見えない。カイなら見えるだろう」


「わかった。王都の帰りにでも寄ってみるよ」


「ついでにこれを持っていくといい」


 そう言ってその場で手紙を書き出すコロア。文字はエルフ語なのでカイには全く理解できないが、書き終えた手紙をカイに渡し、


「エルフにあったらこの手紙を見せるといい。少しは便宜を図ってくれるだろう」


「かたじけない」



 そうしてキアナでのんびり近場の魔物を倒して3日を過ごしたカイ。


「今日王都に向かいます」


「気をつけてな。いい情報が入るといいな。そうだ酒場に行ったら彼に渡してくれ」


 と手紙を預かる。アニルバンに部屋の鍵を渡し、頭を下げるとその足でギルドに顔を出して受付にいたスーザンにも王都に向かうと告げる。


 キアナの街を出たカイとクズハ。街道を北に向かって歩いていく。武道会に参加して以来の王都への道。今回も綺麗に整備されている街道を歩き、日が暮れる頃に街道沿いにある村や街に泊まって王都を目指す。


 キアナを出て2週間後、王都とキアナの中間あたりにあるコルダという街に夕刻についたカイは今日の宿を探すべくギルドに顔を出した。


 ギルドに入るとそこにいた冒険者達の視線がカイに注がれる。


「シノビか」


「おい、シノビと言えばあいつランクSになったシノビのカイって奴じゃないのか」


 周囲の注目を集める中、カイは受付にギルドカードを出して


「すまないが今日の宿を紹介してもらいたい」


「かしこまりました!」


 ギルドカードを見た受付嬢がすぐにカウンターの下にある資料を見て旅館をいくつか勧めてくる。黙って聞いていたカイは受付でお礼を言うとギルドを出ようとしたが、そこにいた冒険者達から声がかかるとそちらを向く。


「あんた、ランクSのシノビのカイだろ?」


「そうだ キアナから王都に向かう途中だよ」


「ランクSなんて見ないからさ。ちょっと話しをしてくれよ」


 言われるままに受付に併設している酒場のテーブルに座るとその周囲に冒険者達が集まってきた。


「ここはランクAが1人いるだけであとは皆ランクBなんだよ」


 カイは聞かれるままに自分がソロで活動している話をする。


「去年の武道会で優勝してランクSになったんだよな。あの武道会の話しはこの街でも話題になったもんだ。初出場したシノビが3年連続で優勝している騎士を倒しちまったんだからな」


「あの騎士は強かったよ。本物のオーラが出ていた」


「ところで今回王都に向かうのは何かあるのかい?武道会はまだずっと先だけど」


 カイは聞かれるままに話しをする。情報屋のことやエルフの森の事は言わず、幻の刀を探す為に国内のあちこちを移動していて王都近郊のダンジョンに潜る予定だと。


「刀か」


 そう言って周りを見るが誰も情報は持っていない様だ。


「すぐに見つけられるとは思ってないさ。ただもし何かわかったらキアナのギルドに連絡をしてもらえると助かる」


「わかった。そうしよう」


「申し訳ない」


 周りの冒険者達はランクSのカイの態度にびっくりしていた。ランクSになると強いが態度がデカく、孤高で傲慢な奴というイメージを持っていたらしく、低姿勢で相手のランクに関係無く誰とでも普通に話すカイを驚いた目で見ている。そんな目で見られているとは思っていないカイ。当人は普段通りの態度で接しているだけなのだが。


 しばらくしてギルドを出ていったカイ。その姿が消えると


「ランクSだろ?そうは見えないよな」


「アマミのシノビのランクSっていう位だから強面の男を想像してたけどいい奴じゃないか」


 コルダのギルドの冒険者の間でカイの評判が上がっていった。


 翌日コルダを出ると再び北に向かうカイ。キアナと王都を結ぶ街道は国内最大の物流があるために道路は常に冒険者が魔獣を討伐していることもあり安全で、何のトラブルも無く2週間後に王都の広大な城壁が見えてきた。


「やっと着いたぞ」


 尻尾を振るクズハの身体を撫で回して城門に入る列に並ぶカイ。列は冒険者や商人とその馬車、そして旅人らが長い列を作っている。当たり前の様に列に並んでいると、


「ランクSの冒険者のカイか?」


 列を整理する城門の衛兵2人が近寄ってきた。そうだと頷き2人にランクSのカードを見せると確認した2人は、


「ランクSはこっちの門へ。そう言う規則になっているんだ。もう何十年も使われてなかったが規則は残っている」


 そう言ってカイは衛兵のあとを着いて城門の横にある扉の閉まっている通用門に案内された。そうしてその門を開けて入ったところにある詰所に案内されるとそこには衛兵の上官らしい男がカイを待っていた。


「ランクSのカイだな。私はこの城門の管理責任者をしているエドモンドだ。カイがランクSになった時点でギルドから王国内には通達が出ている。ジョブがシノビであるということもな。なので今日も比較的見つけるのが容易だったんだ。次回以降は王都はもちろん、どの街の城門でもカイは列を飛び越えて城門に行き、詰めている衛兵にそのカードを見せるだけで優先的に入門することができる」


「なるほど、それはありがたい話だ。助かるよ」


 カイは知らなかったがランクSになると王国はもちろん大陸中にその事実が告知され、それと同時にランクSの冒険者に対する優遇措置が復活したのだ。


「ランクSは本当に久しぶりだ。俺は去年の王都の武道会でカイがイレーヌを倒したところも見ていた。あれは見事だった。あのイレーヌをあっさり倒したカイはランクSにふさわしい冒険者だよ」


 カイはエドモンドに頭を下げると王都の中に入っていった。

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