第39話 アニルバンという男 その2
ギルドの会議室を出ると酒場にたむろしていた冒険者達から声をかけられてテーブルに座ってクリアしたダンジョンの話をするカイ。そこにはランクAの戦士のイーグルや魔導士のダンの姿もあった。
「ダンジョンの攻略状況は掲示板に貼られていた。30層のダンジョンだったんだな」
イーグルの言葉に頷き、
「28層からはダンジョンの広さが急に広くなっている。そして魔物はランクSが出てくる様になる」
「なるほど。俺達ランクAのパーティでも攻略可能と思えるか?お前の意見を聞きたい」
イーグルの質問は他の冒険者達にとっても気になるところで皆耳を澄ましていると、
「結論から言うと28層、29層共にランクAのパーティでも攻略できるだろう」
その声に歓声があがる。イーグルはそう言いきったカイに
「その根拠は?」
カイの説明で部屋と部屋との間に通路があり、そこは安全地帯になっていて十分に休息が取れること。フロアは広いが野営前提ならランクAのパーティならゆっくり確実に討伐して前に進んで行けることを説明する。
「なるほど。カイなら1日で行けるけど俺達なら野営前提になるからな。それにしても通路が安全地帯なら確かにしっかりと休めそうだ」
カイの説明に納得した表情になるイーグル。
「28層はランクSが単体、これはイーグルのパーティならいけるだろう。29層はランクSが複数体固まっている。2体から3体だ」
「俺たちが攻略するとしたら28層でじっくりとランクSを相手に戦闘に慣れてから29層への挑戦となりそうだな」
「それがいいだろう」
カイとイーグルのやりとり。そしてダンが
「ダンジョンボスは?」
「アイアンゴーレムだったよ」
その声にまた周囲から声があがるがこの声は驚愕の歓声だ。
「地上にはいない魔物だな。固そうなNMだ」
「実際硬かった。俺の刀でも腕に傷をつける程度だったよ」
「それでどうやって倒したんだ?」
聞かれるままにボス戦の話をするカイ。雷遁の術を顔にぶつけ、関節を狙って相手の動きを交わしながら何度も刀で切り付けていったこと。
聞いていた周囲の冒険者達はカイの話を有りえないという顔で見ている。イーグルも、
「ボスNMだから恐らくランクS以上だろう。その相手に関節部分の狙い撃ちかよ。カイじゃないと無理じゃないのか」
「どうだろう。例えばハンスあたりがガッチリ受け止められたら相手の足は動かないだろうから狙い撃ちできるんじゃないか?」
「そうは言うけどよ。簡単じゃないぞ」
イーグルの声に周囲もそうだと相槌が入る。
「とにかく俺はそうやって倒した。硬い相手に関節を狙うのは基本だからな」
その後もしばらく話をしてからギルドを出て旅館に戻ったカイ。フロントにいたアニルバンを見ると彼の方から
「ソロでダンジョンをクリアしたみたいだな、おめでとう」
「ありがとうございます」
部屋の鍵を受け取ると、
「ところで」
と幻の日本刀の話を始めるカイ。途中からはアニルバンに勧められるままにフロント横にある談話用のソファに2人向かい合って話を続けていく。カイの長い話を最後まで黙って聞いていたアニルバン。
「なるほど。カイの目的は幻の日本刀のあと1本を探すことか。その鬼哭というのか?1本が王都にあってよかったな」
「ええ、その通りです」
「王都の武道会か…私は結局一度も出なかった。その時期に王都にいなかったのが表面上の理由だが本当は目立ちたくなかった。だからわざとその時期に王都にいなかったんだよ」
「目立ちたくなかった?」
「カイ、君はその格好で冒険者として活動している限り誰が見ても一目見てアマミ出身者だとわかる。そしてアマミという街が他とは大きく異なっている特別な文化、風習を持っているのことは大陸中の連中は皆知っている」
アニルバンの話に頷くカイ。
「つまり貴族や王家にとってアマミの人を取り込むという事は無理だってことを最初からわかってるのさ」
「なるほど」
「私は違う。このキアナの近くで生まれた。髪も周りと同じ金髪だ。風習も他の人や街となんら変わらない。ただ魔導士と僧侶の両方の魔法が使えただけだ。そんな私が強くなるにつれて何とか私を取り込もうとする動きが活発になっていった。この国はもちろん、他国に出向いた時でも貴族や王家から誘いや脅迫まがいの勧誘があったんだよ。そんな中で武道会に出て自分の力を披露することがどれだけ面倒くさい事か。今以上に身勝手な貴族連中の相手をしなければならないと思うと苦痛でね。私はそう言うのには巻き込まれたくなかった。ただの冒険者でよかった。なのでソロであちこちフラフラしてたのさ」
アニルバンの長い話を聞いていたカイは目の前の男が人に言えない苦労をしながらも冒険者を続けていたということを知りった。
カイが黙っていると、アニルバンが
「それで幻の名刀の話だが」
顔を上げてアニルバンを見る
「私が大陸中をうろうろしていた時には残念ながら刀の話は一度も聞いたことがなかったよ。知っての通り刀は稀な武器だ。アマミの人以外は使えない。刀自体ほとんど目にしなかったからね」
もしかしたらと期待していたがやっぱりかと内心がっくりしていると、
「カイは王都に行く気はあるかい?」
「王都に?」
突然王都と言われ、おうむ返しに答えるとアニルバンは頷き、
「王都で酒場をやってる男がいる。私が冒険者の時からやっている男だ。そいつの本業は情報屋だよ。私も世話になったことがある。彼なら何か情報を持っているだろう。逆に言うと、彼に情報がないということはもう1本の刀は今は人の手にない、つまりダンジョンの奥かどこかの強いNMのドロップ品の可能性がかなり高いということになる」
そう言ってその酒場の場所と男の名前を書いたメモをカイに渡す。
「彼のことだ、店に入った時にこちらから自己紹介しなくてもカイの名前とランクを言ってくるだろう」
「それほどの男なのか」
「なぜかいろんな情報が集まってくる。そう言う男もこの世界にはいる。ただし彼が情報屋というのを知っている人はそう多くない。尋ねるなら真夜中の時間がいいだろう。店はたいてい夜遅くに開いて朝方までやっているはずだ」
「ありがとうございます」
「王都に行くタイミングは任せる。私に言われたからとすぐに向かう必要はないよ。それとここの部屋の事は気にしなくてもいい。前にも言ったが今の部屋は君の部屋だ。いてもいなくてもな」
「何から何までありがとうございます」
そう言って再び頭を下げるカイ。肩にずっと乗っていたクズハも一緒に頭を下げる。
「カーバンクルをティムしているのは初めて見たよ。懐いている様だな」
「ええ。いい相棒です」
部屋に戻ると刀の手入れをしながら今の会話を思い出すカイ。
「王都か。情報が取れるかもしれないのなら行くの一手だよな」
カイの言葉に尻尾を振って同意するクズハ。その身体を撫で回して
「クズハも行けって言ってくれるのか。じゃあ少し落ち着いたら行こう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます