第38話 アニルバンという男

 夕刻にキアナに着いたカイ、ギルドの扉を開けて中に入り受付にいたスーザンに


「ダンジョンをクリアしてきた。査定をお願いしたい」


「またクリアしたのか」


「ソロだろう?桁違いの強さになってるな」


 受付でのカイとスーザンのやりとりを聞いていた他の冒険者達が口々に話す声を聞きながらカイはカウンターの奥の部屋にはいる。


「俺のところにもダンジョンに詰めている職員から連絡があった」


 そう言ってギルマスのシンプソンが部屋に入ってきた。


「ダンジョンボスはアイアンゴーレムだった、そしてこれがボスを倒した時の戦利品」


 テーブルの上に並べられた品物を見るギルマス。スーザンに魔石や戦利品の鑑定を依頼するとカイと向かい合ってソファに座る。カイがダンジョンの状況、魔獣のランクや最後のボスについて説明する間じっと聞いていたギルマス。


「よくわかった。それにしてもアイアンゴーレムなんてダンジョン以外じゃ見ることもないだろうが、よく弱点がわかって倒せたな」


「防具もそうだけど関節部分は可動性を持たせる為に隙間があったり、柔らかい素材を使う事が多い。そこを狙って倒しただけだよ」


「相手はじっとしていなくて動きまくっているその中でその弱点の場所をピンポイントで攻撃できるのがすごいんだよ」


「弱点を見つけるのは慣れている。表面が硬い敵の場合関節を狙うのは基本さ。ピンポイントでの攻撃は訓練を積めばできる」

  

 ギルマスの問いにも淡々と答えるカイ。いつもの自然体でそこには全く気負いが感じられない。そのカイを見ながらギルマスは、流石ランクSだなと感心していた。


 査定を終えたスーザンが部屋に入ってきた


「お待たせしました。魔石はギルドの買取りでいいですか?」


 頷くカイ。


「ありがとうございます。では他の素材ですがこのインゴットはアダマンタイトのインゴットです」


 その言葉を聞いてびっくりするギルマス


「アダマンタイト? めったに手に入らない鉱石だ。それがこの塊で?」


「ええ。職員もびっくりしていました。そういうことでこのインゴットはギルドでの買取価格は金貨800枚になります」


 今度はその価格を聞いたカイが驚いた表情になる。


「金貨800枚?すごく高いな」


 ギルマスがカイに、


「今言った様にアダマンタイトの鉱石はめったにでないんだ。錬金術士や鍛冶士にとっては垂涎のアイテムだよ。しかもこの大きさだ。金貨800枚は妥当な金額だ」


 カイは悩んだ末に


「じゃあギルドに売ろう」


 その言葉を聞いてホッとするギルマス とスーザン。どうやらスーザンは職員から是が非でも買い取れと強く言われてきた様だ。


 「それからこの腕輪ですが怪力の腕輪でした」


 「じゃあ今俺が装備しているのと同じ腕輪ってことか」


 カイが呟くとスーザンは、


「こちらの方が効果が高くなっています」


 スーザンは以前カイの腕輪の査定を覚えており、それよりも今回の腕輪の方が効果が高いと説明する。説明を聞いたカイは


「ではそれは自分で使おう。今使っているのも何かの時の為に売らずに持っておくよ」


 そうしてアイテム代とダンジョンでの魔物の討伐代金を受け取る。


スーザンが部屋を出ていくとギルマスのシンプソンが


「ところで翡翠の館はどうだ?」


「噂のランクSのオーナーだよな。会った時に只者じゃないって思ったよ」


「知っていたのか」


「ここで紹介してもらったエルフのアイテム屋のコロアに聞いたよ」


「なるほど」


 そう言ってうなずくと、


「じゃあ知っているかも知れんが、アニルバンの宿は普通じゃない。あいつの信念で採算度外視でやっている。やっているというか奴が旅館を初めてから今まであの旅館に泊まった客は1人もいない。1人もだ。お前が初めての客だ。」


「よく潰れないな」


 カイは思っていたことをギルマスにぶつけると、


「土地も建物も全部あいつの持ち物だ。金はうなるほど持ってる。客が1人も来なくても痛くも痒くもない程さ」


 そして続けて、


「奴が引退してしばらくして旅館を建てた時にこのギルドに挨拶に来たんだよ。もちろん俺の前の前のギルドマスターが応対したんだが、その時に奴は無闇に自分の旅館を冒険者に紹介しないでくれ、ギルドマスターがこいつだと思う本当の冒険者がいた時にそいつを俺の旅館を紹介してくれと言ったんだよ。この話はこのキアナのギルマスの間で代々引継ぎがされている」


 頷いてなるほどと相槌をうつカイ。


「今までアニルバンの後にこいつはと思える様な冒険者がいなかった訳じゃない。何度か紹介しようと考えたことがあったみたいだ。ただ最終的にはあの宿を紹介できなかった。それは冒険者のランクがAだったからだ」


「ランクAはダメだと言われていたのか?」


 カイの問いにギルマスは首を横に振り、


「ランクの縛りはなかった。なかったがあいつがランクSである以上ランクAでも相当実力がないと推薦できないというのがギルドの判断だったんだよ」


「俺がランクSになったからようやく勧めることができたということか」


「ランクはもちろんだがランクだけじゃない。人柄も見ている。ランクが高くても人間性に問題があったら推薦しなかった。カイはランクCから始まりあっという間にランクSまで上り詰めていったが、ここキアナじゃカイのことを悪く言う奴はいない。ランクAの連中も皆お前を認めている。お前なら大丈夫だろうと思ってアニルバンに紹介したんだよ」


「かたじけない」


 カイが言うと、ギルマスのシンプソンはカイを見て、


「アニルバンに話をした時だが、あいつはカイのことを知っていた。ランクSになったんだから当然と言えば当然だが、あいつは周囲の冒険者のお前に対する評判も知っていた。俺が話をした時に奴は一言『カイなら大丈夫だろう。私の旅館に泊まる資格がある』そう言ってくれたんだよ」


「エルフに聞いてからアニルバンさんに挨拶したよ。いたいだけ居てくれて構わないと言われたよ」


「カイがあいつのお眼鏡にかなったってわけさ。俺も一安心だ」


 そう言ってからギルマスは、


「幻の日本刀のことも一度あいつに話してみたらどうだ?あいつはランクSで大陸中を廻って来ている。俺達とは違う筋からの情報を持っているかも知れない」


 なるほどと思ったカイ。


「そうだな。そうさせてもらおう」

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