第37話 ゴーレム
28層におりるとフロアの景色がまた変わった。
カイの目の前には宮殿内部の様な石柱に支えられている大きい部屋があり、奥には次の部屋に続いているかの様な通路も見えている。
そしてもちろん目の前の部屋には魔物が闊歩している。ランクSだ。ランクAとは違い大きくてそして醸し出さられる雰囲気も今までのランクAとは全く違う。
「さてと、これからが本番だ」
カイがそう言うとクズハの強化魔法をもらうとフロアの攻略を開始した。
ランクSのオーガがその巨体に似合わない素早い動きでカイに襲いかかってくる。それを交わすと両手に持った2本の刀がオーガの足を一閃した。以前よりレベルアップした身体、それに鋭さを増した刀の前ではランクSのオーガも耐えられずに足を大きく切り裂かれたオーガが膝をついて倒れ込んだところにカイの刀がその首を跳ねた。
「こっちも強くなってるからな」
そうして部屋にいるランクSのオーガを1体ずつ倒していき奥の通路に。部屋と部屋とを結んでいる通路は5、6メートル位か。通路の先には次の部屋が見えている。
「次はゴブリンの部屋か」
ゴブリンと言ってもランクSだ。気を引き締めるとゴブリンの部屋に入っていくカイ。
カイを見つけたゴブリンが剣を掲げて突っ込んでくるがカイはそのままゆっくりと歩く。そうしてゴブリンが剣を振り下ろしたかと思うとスッと横に動いて剣を交わし刀でその胴を切り裂いた。
歩くとすぐに先から強い魔力を感じたカイ、その瞬間には既に魔力を感じる方向に火遁の術を唱えていた。詠唱を中断されたゴブリンメイジが再度詠唱を開始した時にはカイはその目の前に立っていて
「遅いな」
そう言うと首を跳ねた。
その後も部屋そして通路とフロアの中を進んでいくが今までと違ってかなり広いフロアの様で一向に下に降りる階段が見えてこない。
オーク、ゴブリン、トロルや虎、ゴーレムなどの魔獣達が次々と襲ってくる。全てランクSの敵を討伐しては進みようやく29層に降りる階段が見えてきた。
「広かったな」
地上に戻るともう完全に日が暮れていた。クズハを肩に乗せてダンジョン近くの宿に戻ると同じダンジョンを攻略している仲間と食事をしながら話をする
「今ダンジョンから戻ったきたのか?」
「ああ。28層の攻略に丸1日かかったよ」
「カイで1日かかりのフロアか。相当広そうだな」
「で、敵のランクは上がってるのか?」
「ああ。ランクSになってる」
「となるとこのダンジョンは30層の作りっぽいな」
「恐らくそうだろうな」
そんなやりとりをして食事を終えて部屋に戻ると刀を綺麗に手入れする。カイが持っている村雨と金糸雀は白狼のフェンリルが与えたもので自動修復機能がついていて本来なら手入れは必要ないのだが、カイは養父のクルスから口がすっぱくなる程に武器の手入れを怠るでないと教えこまれてきていたので刀の手入れをするのが習慣になっていた。
それにこうして刀の手入れをしながら今日の戦闘を振り返り、うまく行った点、もっとうまくいくんじゃなかったかと思う点など自分の戦闘をしっかり見直しをする時間にもなっていた。
「予想通りだな」
翌日29層に降り立ったカイの目の前には28層と同じく宮殿内部の様なフロアが広がっていた。28層と異なるところは闊歩しているランクSの魔獣が1体ではなく複数体でいることだ。
いつもの様に強化魔法をかけるクズハ。その背中を軽く叩きながら
「このフロアを攻略したらボス部屋っぽいぞ」
大きく尻尾を振るクズハを従えて29層に入っていく。ランクSの魔獣2体、時々3体を相手に『舞』の範囲魔術で先手を打ちそのまま刀で倒していくカイ。その刀捌きは以前よりも鋭さを増していて、刀の動きを魔獣は目で追うことができない。
身体能力の向上、武器と魔術の向上、そして腕輪、指輪などの装備品によりカイの力はランクSになった時よりも更に数段アップしていた。ソロで挑んでいるのでギルドマスターを始め冒険者達が見ることができないので分からないだろうが、もし仮に今のカイの戦闘を見ることができたなら、その戦闘能力の恐るべき高さに言葉もないだろう。特に刀の鋭さの向上は目を見張るほどでランクSの身体をこともなく切り裂いていく。
常に複数体のランクSがいるフロアを確実に進軍していくカイ。
(白狼様の力がアップするとここまで刀の力も強くなるのか)
目の前で倒されて光の粒になって消えていく3体のゴーレムを見ながら、鬼哭1本でこレほどまでに強くなるのなら、政宗を手に入れて白狼様が2本の刀の力を手に入れた時には一体どれほどの力を持つことになるのだろうと思わずにいられなかった。
この日も丸1日かけて29層をクリアしたカイは30層の階段を降りていった。
「予想通りだ」
目の前にそびえる大きな門を見てカイは呟く。クズハも同じ様に門を見上げている。
30層に降りたところ、ボス部屋の門の前には転送盤がないのでこのままボス戦に入るしかないが、カイは疲れをとるためにすぐにボス部屋に突撃せず、ボス部屋の前で休憩ををすることにした。
このフロアはボスのみ。他の魔獣がいないのである意味安全な場所とも言える。床に座り込むと水を飲み軽い食事を口に運ぶ。クズハはカイの腹の上でゴロンと横になってリラックスしている。いつもの定位置だ。
指輪の効果もあり、小一時間もすると肉体的にも精神的にもすっかりリフレッシュできたカイ。
「そろそろ行くか」
立ち上がるとカーバンクルのクズハも座っていたカイのお腹から飛び降りてすぐに指定席のカイの左の肩に飛び乗る。
無造作に門のレバーを開けると中に入っていくカイ。中は何度も見た円形状の広場で、その中央には、
「アイアンゴーレムか」
体長5メートル程のアイアンゴーレムが1体立っている。クズハの強化魔法を受けてカイが2,3歩踏み出すと閉じられていたゴーレムの目がカッと開いて侵入者のカイを睨み付け、それから両手を上に上げた。そうするとゴーレムの身体全体が光りアイアンゴーレムの身体も強化されていく。
さらに近づいていくカイ、するとゴーレムの右手がその格好からは想像も出来ないほどの素早さでカイに殴りかかってきた。
あっさりその腕を交わしながら村雨で腕を切りつけるが、腕の表面に薄い傷がつくだけだ。
「予想通り身体は固そうだな」
硬いゴーレムを切りつけても刃こぼれ一つしない刀の刃を見るともう一度攻撃させるカイ。ゴーレムの足の動きを見ながら腕の攻撃を交わし、顔に魔術をぶつける。
『雷遁』
顔全体に稲妻が光ると唸り声をあげながら両手で顔の前の稲妻を払おうとするゴーレム。その隙にカイの刀がゴーレムの左足の関節、膝の曲がる部分の裏側の鉄と鉄とのわずかな隙間を切り裂く。
派手な声を上げて無茶苦茶に腕を振り回してくるアイアンゴーレム。
カイはアイアンゴーレムの動きを見て関節部分に隙間があるのを見つけ、腕よりも切りやすくそして効果の高い膝裏の関節の部分に寸分の狂いもなく刀の刃で切りつけたのだ。
さらに刀がもう一閃してさっきと同じ場所を切りつけられるとゴーレムが左足を地面につけた。カイはもう一度雷遁の術を顔にぶつけて視界を奪うと、背後から首の後ろの鉄と鉄との隙間に刀を振るう。
刀で首の半分ほどを切り裂かれたゴーレム。派手に首を振って叫んでいるその首の裂けた部分にもう一度雷遁の術をぶつけると、首と胴体が離れてゴロンと首が地面に落ちた。
「大したことなかったな」
戦闘が終わると広場の入り口から走ってきてカイの肩の上に乗ったクズハに話かけながら体を撫でていると、ゴーレムの消えた場所に宝箱が現れた。
箱を開けると中には金貨、何かの金属のインゴット、腕輪、そして大きな魔石が入っている。それらをアイテムボックスに収納して、
「そう簡単に正宗は出てこないよな」
自分に言い聞かせる様に言うカイの頬にクズハが体を押し付けてくる。
「わかってるって。この調子でどんどんダンジョンをクリアしていくよ」
そう言うとボスの部屋の奥に現れた魔法陣に乗り地上に戻っていった。
ダンジョンの入り口にいたギルド職員にこのダンジョンをクリアしたことを言うと
「わかった。キアナに報告する。それにしてもカイの手にかかればクリアできないダンジョンはないんじゃないか?」
「どうだかな」
ボスを倒して地上に戻った時には夜になっていたのでカイはダンジョン近くの宿で夜を過ごすと翌朝キアナの街に戻っていった。
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