第36話 キアナ郊外のダンジョン

 そう言うと宿を出てスーザンから教えてもらったダンジョンに向かうべくキアナの城門から外に出て街道を進んでいく。


 綺麗に整備され、魔獣もいない街道を歩いて夕刻になると街道から少し離れた場所に数件の建物が立っているのが見え、そちらに歩いていく。カイの予想通りそれらの建物はダンジョン攻略者向けの宿屋や武器、アイテム屋だった。


 夕刻でもあったのでこの日は宿に部屋を取り、しっかりと休んだ翌日の朝からカイとクズハはダンジョンの攻略を開始する。


(一気に行けるところまで行くか)


 クズハの強化魔法をもらったカイはダンジョンに入ると、スピード重視で低層を攻略する。肩にクズハを乗せたままダンジョン内を駆け抜ける。邪魔になる魔獣だけ刀で一閃、そうしてどんどん下層に潜っていき、初日で12層まで攻略すると地上に戻っていった。


 そうしてダンジョンの近くの宿に戻るとその1階の食堂には同じダンジョンを攻略しているであろうカイも知っているキアナのランクBの冒険者が5名、同じテーブルに座っていた。食堂に来たカイを見て、


「よぅ、カイもこのダンジョンに挑戦するのかい?」


「今日から攻略を開始したよ」


 テーブルに座って食堂に1つしかない定食メニューを注文するカイ。クズハはカイの肩に乗ったままだ。


「どこまで行ったんだ?」


「12層までクリアしてきたよ。そっちは?」


「1日でか?早いな。こっちは全員ランクBだからな無理をせずに13層と14層を行ったり来たりしてコツコツやってるよ」


 ダンジョンはそのフロアの造りにもよるが、通路型のフロアだとキャンプする場所によっては魔物が前方からしか来ないので防御しやすく結果として安定して倒して経験値を稼ぐことができる。


 話を聞きながらカイは13層と14層が通路型のフロアであることを確認する。


「稼げるかい?」


「悪くない。安全マージンを見ながらやってるけど13層のランクBなら問題ないな。14層は時々2体来ることがあるので苦労しながらだけどそれでも倒せている。ここでしっかりとランクBの魔物の討伐数を増やしつつ金を稼ぐ予定さ」


「なるほど」


 食事をしながら5人と話をするカイ。ランクSになって周囲もそう言う目で見てくるがカイは以前と、冒険者になった頃と変わらずに接しているので周囲からも評判が良い。


 もう少しここで明日の打ち合わせをするというランクBの冒険者に挨拶をしてカイは先に部屋に戻って早々にベッドに潜りこんだ。


 翌日は13層に飛ぶが、昨日の話しでここと14層は挑戦している冒険者がいるのでできるだけ魔物を倒さずに通路を一直線に進んで下層目指すカイ。


 そうして15層に降り立った。


「確かにランクAの気配があるな」


 そう呟くとクズハが例によってくるっと回って強化魔法をかける。


「いつも悪いな」


 肩に乗ったクズハの体を軽く叩くと15層を進み出したカイ。15層も通路が奥に向かって伸びている洞窟型のフロアだ。通路の幅は5メートル程有り高さも同じくらいで通路で刀を振り回しても全く問題がない広さがある。


 カイが進みだすと通路の角からランクAのオークが姿を見せ、カイを見つけると錆びた剣を振り上げて襲いかかってくるがその遅い動きを交わしながら村雨で胴を切りつけるとそのままオークの体が2つに分かれて倒れていった。


 そうしてそのまま15層に現れるランクBとランクAを無造作に倒しながら進み16層に降りていく。16層もまるで魔物がいないかの様に歩いて攻略して17層、そして18層とクリア。19層もランクAの魔物が増えた程度でカイの障害にはならずにクリア。


 20層に降り立つと感じる魔物の気配は全てランクAになっていた。相変わらずの洞窟のフロアだが今までと違って道は石畳になっている。まるで地下道の様だ。


 クズハから強化魔法をもらうと無造作に石畳の通路を進みだす。通路の先からランクAの虎が2体猛然と突っ込んでくる。通路の中央で突っ込んでくる2体を見ているカイ。そうしてその虎がジャンプして襲いかかってきた瞬間に両手に持った刀2本が振られたかと思うと次の瞬間にはカイの背後に首を綺麗に切断された2頭の虎が…


 カイは後ろを振り返ることもなく通路を進んでいく。


 その後もランクAの獣人や魔物を刀で倒しながら進み、この日は22層までクリアすると地上に戻っていった。


 部屋で刀の手入れをするカイ。クズハはカイの隣に座ってじっと刀の刃の部分を見ている。


「それにしてもすごい刀だ。あれだけ切っても全く傷がついていないし刃こぼれもない。白狼様の加護のある日本刀は凄いよ」


 カイの言葉にクズハもそうだと言わんばかりに大きく尻尾を振る。


 そうして翌日23層に降りたったカイ。23層からはランクAが単体、または複数体で出てくる様になったが、カイは全く問題なく討伐しては通路を進んでいく。

 

 そうして25層に降りる階段の途中でカイは立ち止まって前方の25層をじっと見る。そこは今までの通路型のフロアではなく、一転してだだっぴろい草原が目の前に広がっていた。


 明るい陽が照らしている草原、一瞬ここはダンジョンではなく地上のどこかで長閑な場所かとも思えそうな景色だ。ただ、カイの気配感知にはそんな草原を歩くランクAの魔物の気配を感じていた。全て複数体だ。


 階段を降り切るとクズハが強化魔法をかけてくれる。そうして肩に飛び乗ったクズハの体を軽く叩くと25層の攻略を開始する。


 爽やかな風が吹いてカイの前髪が揺れる。そうして歩いているとカイに気づいたランクAのトロルが3体唸り声を上げてカイに向かってきた。


『火遁の舞』


 魔術を唱えるとその直後に3体の魔物の顔にに火炎がぶつかった。3体の魔物がのけぞった時にはすでにカイの刀が3体の首を跳ね飛ばしていた。魔物はおそらく何がどうなったかもわからないまま絶命しただろう。


「魔術の威力も上がっている。この指輪のおかげだな」


 ランクSに上がったカイにとってはランクAの魔物が複数体出てきたところでさしたる脅威とはならずに草原を進みながら次の下に降りる階段を探す。そうして26層の階段を降りたところで記録して地上に戻ってきた。


「25層まで行ったのか、流石カイだな」


 宿の食堂で他のパーティの連中と話と話をし、彼らから聞かれると惜しげもなく情報や魔物の弱点を教える。カイにとっては他の冒険者はライバルではなく仲間だと思っており、日本刀の情報があったら教えて欲しいと日頃からお願いしている立場であれば、こちらからも情報をだすのは当然だと考えていた。


 翌日は午前中を休養に当てて午後からダンジョンに潜り26層、27層とクリア。

草原のダンジョンは変わらないがのどかな風景とは対照的にフロアにいる魔物の数は増えそれらが3体、5体と固まって襲ってくる。


 休憩を挟んでダンジョンに挑戦しているカイの攻略状況はダンジョンを管理しているギルドで随時掲示板に報告されていた。どのダンジョンが何層までクリアされたか日報の様に掲示板にだされる。


 カイが潜っているダンジョンはキアナの冒険者ギルドの管轄下にあるのでキアナのギルで毎日状況が更新されている。挑戦している冒険者名やパーティ名までは明らかにはされないが、フロアの更新情報が他のダンジョンと比べて圧倒的に進んでいるダンジョンを見つけるとキアナの冒険者立ちはそのダンジョンがまさに今カイが挑戦中であると理解するのだった。


「もう下層に入っているはずだが毎日確実に更新しているな」


「ソロだろ?わかっちゃいるがとんでもないシノビだぜ」


「ランクSってのは化け物だ」


「いや、カイはランクSになる前からこんな調子だったぜ」


 キアナのギルドの掲示板の前で冒険者達がそんなことを話しているとは知らないカイは今日もダンジョンに挑戦している。

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