第23話 王都武道会 その2

 そうしてギルドを出ようかとホールにでると併設の酒場にたむろしていた冒険者の一人が テーブルから立ち上がって声をかけてきた。


「アマミからやってきたのかい?」

 

 声をかけてきた男を見て殺気や敵対心が無いのを感じ取り、その男の目を見て頷き、


「正確にはキアナからだな」


 しっかりと答えると納得した表情になる男。


「なるほど。シノビは王都では珍しい。せっかくだからちょっとそこで話していかないか?俺はバーセル。ここ王都で冒険者をやってる。ジョブは戦士でランクはAだ」


 バーセルが座っていたテーブルに行くと


「俺はアマミ出身のカイ。キアナから来た。ランクAのシノビだ」


 カイがランクAというと周囲がざわつく。


「やっぱりな。醸し出してる雰囲気が普通じゃなかった」


 バーセルは自分の見立てが正しかったと確認し、


「王都にやってきたのは武道会の参加か?」


 テーブルに座ったカイが注文したジュースを1口飲み、


「その通り」


 短く答える。


「シノビが武道会に出るのは初めてじゃないか? 今年は楽しみになるな」


「あんたは出ないのかい?」


 カイが逆に聞くと、


「知ってると思うが、王国守備隊の女剣士に去年やられてね。今の俺の実力じゃ今年でても去年と同じ結果だろうと思って今年は遠慮したんだよ」


 ここでも出てくる女剣士。相当に腕が立つに違いない。


「それほどなのか。キアナでも相当強いという話は聞いていたが」


 カイがそう言うとカイとバーセルの話を聞いていた別の冒険者が、


「大剣を持っているんだがその剣の速さと鋭さは半端ない。ほとんどの奴はその剣捌きが見えていないはずだ。おまけに身体能力もめちゃくちゃ高い。こっちの攻撃はほとんど当たらない」


「そりゃ相当の手合いだな」


 バーセルが続ける


「相当だよ。今まで戦士やナイト、魔法使いらが彼女と戦っているが、全てあっさりぶちのめされてる。まともに試合になった奴すらいない。かく言う俺もその一人だがな。 

 美人で王都でも人気があるが、いざ剣を持つと別人の様に容赦なくなる。それと聞いた噂だが私を口説きたければまず私に勝ってみろと普段から豪語してるらしいからな。自分でも腕には相当自信があるんだろう」


 バーセルの話しを聞いて俄然やる気が出てきたカイ。


「ところでその武道会で優勝すれば王都の宝物を1つ貰えるってのは今年も変わらないんだろう?」


「そこは毎年変わらない」


「ならその女剣士を俺がブチのめせばいいだけの話だ」


 あっさり言うカイ。周囲の冒険者は 


(誰もが対戦するまではそう思うんだよな)


 そう思っていたが、目の前のバーセルは


(ひょっとしたら)


 と思っていた。目の前に座っているシノビの男。体躯は普通に見えるがよく見ると鍛え抜いている身体だとわかる。

 

 それにこうして話しながらも常に戦闘に入れる姿勢を崩していない。常に周囲の気配を感知している様だ。ここまで戦闘に特化している男を見るのは初めてだ。もちろんバーセル自身目の前にいるシノビの男と対戦して勝てる気は全くしない。


(こいつならやるかもしれない)


 ランクAになって相当の魔物を退治してきたバーセルは戦闘経験で培われた感というのを大事にしていた。


「期待してるぜ」


 自分の思いをその一言で言うと


「まぁ武道会はまだ先だ。とりあえず今日は飲もうや。遠来の客だからな」


「そうしよう」


 そう言ってカイ、バーセル、そしてギルドにいた冒険者で飲み会になった。

 

 カーバンクルのクズハはずっとカイの肩の上で器用に横になっている。カイがどう動いても全く慌てず横になったままだ。


 ギルドの酒場で飲みながら聞いてくることに答えるカイ。


「なるほど。幻の名刀狙いで武道会に参加したって訳か」


「この大陸のどこかに眠ってるのは間違いない。それを見つけてアマミに持って帰るのが俺の使命だ」


「確かに王家の宝物の中にあってもおかしくないな」


 バーセルとカイの話を周囲の冒険者も聞いていて、


「刀がボスや宝箱から出たっていう話しは聞いたことないな」


「というか、刀なんて見たことないわよ」


 という声ばかりで、


「まぁこのハスリアに無ければ他の国に行って探すつもりだけどな」


 カイもここハスリアであっさり見つかるとは思ってないが情報は欲しいので刀についての情報があれば教えて欲しいと周囲の冒険者達に頼む。

 

 その後は王都の冒険者がキアナの様子を知りたがったので知っている範囲で魔獣やダンジョンについて話するカイ。


 聞いていた冒険者達はカイが淡々と話す内容に驚愕している。


「ソロでダンジョン2つクリアしてるのかよ?」


「2つジョブのボスとか、会ったこともない」


「ランクCからあっという間にランクAになったのか」


 カイの話をきいたバーセルが口を開けると、


「俺がランクAになったのも1年程キアナに住んでひたすら上位の魔獣退治をしたからだし、やっぱりランクを上げるのはこの国だとキアナになるんだろうな。辺境は王都周辺とは全く違う。王都にいる俺が言うのも何だが、ここはぬるいよ」


「そんなに違うものなのか?」


 王都でしか活動していない冒険者がバーセルに聞く


「全然違う。ここじゃあランクAの魔獣は単体で出てくる。だがキアナの周りはランクAがうじゃうじゃいて複数体が当たり前だ。それが連続して出てくるから何時間も休む間も無く連戦だ。ちょっとでも気を抜くとその瞬間に即死んじまう。

 

 俺はキアナであっちのランクBの仲間と組んで4人で連戦していたが、最初の頃は戦闘の翌日は疲労が回復せずに1日中ベッドで休んでた。だがキアナの連中はそういう生活を毎日当たり前の様にしてる。休んだら稼げないだろう?って言ってな」


 そこまで一気に話すとグイッとビールを飲み、


「そんなキアナでこのカイはソロでランクAを乱獲しまくってたって話しじゃないか。その話に嘘はないな。キアナの街でランクCからスタートして最短記録を塗り替えてランクAまで上り詰めてきた。ダンジョンもソロで2つクリアしてる。こいつは俺と違って本物のランクAだよ」


 淡々と話すバーセルの話しを皆何も言わずに聞いている。そうしてバーセルはカイを見て、


「シノビってのはジョブそのものの存在は大陸中のほとんどの奴が知っているが実際にシノビを辺境領以外で見るのは稀だ。だから今度の武道会できるだけ決勝まで手の内を見せない方がいいと思うぜ」


 バーセルはカイが決勝まで行けるという前提で話をしている。カイももちろん負けることは考えてないので、


「なるほど。その女騎士ってのとやるまではできるだけ手の内を隠そう」


「ああ。お前なら手の内を隠したところで大抵の奴には勝てるだろうからな」


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