第24話 王都武道会 その3
翌日からカイは王都の周辺でランクBやCの雑魚狩りをして体を動かせていた。誰が武道会に参加するかわからない中自分の手の内を見せない様に気を使って鍛錬をしていた。
ギルドが申し込んだ武道会、参加者が締め切られ、大会の参加者が発表になると、ランクAのシノビが今回の武道会に参加することが明らかになり、それは王都を始め大陸中に広まっていった。
「ほほほ、カイの奴武道会に出ることになったか。なるほど優勝すれば王家の宝物を1つ貰える。その中に刀があるかもしれないからね」
王都から遠く離れたアマミの村、クルスとユズ、カイの実家でキクがクルスから話を聞いてニコニコしながら話している。
「カイのことだ、滅多なことじゃ負けはしまいて」
「しかしキク殿、聞くところによるとここ3年ほどこの武道会は王家騎士団の騎士が連続で優勝しているとか。カイは大丈夫でしょうか?」
「何を言ってるんだいクルス。あんたが手塩にかけて鍛え抜いたカイがそう簡単に負ける訳がないだろう。それに武道会程度で手こずって勝てないなら我らの使命なんて果たせる訳がないじゃないか。もっと自分の息子を信用してあげな」
クルスの言葉をバッサリと切り捨てるキク。
彼女は白狼様に好かれているカイが負ける訳はない。そう信じている。
「キク殿。カイは本当に勝てるでしょうか?」
「アカネ、あんたも弟の様に可愛がって刀の鍛錬に付き合っていたカイを信用してないのかい?そんなに心配なら毎日山の祠にお参りに行きな。あたしはね、カイについては何も心配しておらん。あの子は間違いなくこのアマミの歴史の中で最高のシノビだよ」
「キク殿がそう仰ってるんだし私たちはカイの優勝を信じていましょう」
クルスの妻のユズがクルスとアカネに諭す様に言う。
武道会が2週間後になり、組み合わせが発表されたギルドの打ち合わせ兼酒場でそれを見たカイ。周囲にいた冒険者から
「優勝候補の騎士のイレーヌとは反対の山だ。決勝まで当たらないぞ」
カイはランクAということもあり予選が免除されていて3回戦からの登場になっている。そのトーナメント表を見ると、3回勝つと決勝戦だ。カイにとっては他の出場者は皆知らない人ばかりだし相手のことを知ろうともしなかった。
ただ、連続で優勝している女騎士が反対の山にいることがわかったらもうトーナメント表には興味がなくなっていた。
その後も王都の周辺で軽く体を動かすカイ。時々すれ違う冒険者がカイを見ては珍しいシノビを見ている。その視線にも慣れているので全く気にせずに自己鍛錬を続けていた。
そうして王都の王立武道場で年に1度の武道会が始まった。武道会の会場となる王立の武道場は円形の建物で観客席が中央の会場を囲む様にあり、その観客席の一部は王家や貴族専用のVIPルームとなっている。
武道会は本気武器の使用が認められており、毎年大怪我をする選手のために、周囲には王都でも一流の回復魔法を使える魔法士が複数名待機しており、致命傷以外の傷は治癒が可能だ。
また、会場には結界が貼られ、魔法や武器が観客席に届かない様になっている。
試合は片方が参ったというか、会場の枠の外に出るか、あるいはどちらが倒れ込んでしまうか、相手の首筋に武器を突き立てた時点で終了しそれ以上の攻撃は許されず、違反したものは即牢獄に打ち込まれる様になっている。
自分の出番を明日に控えた前日、カイがギルドに顔をだすとそこにいたバーセルがカイに近づいてきた。参加者が多いので予選は2日にかけれ行われる。3回戦から準決勝までは明日おこない、その翌日に決勝が行われる様になっている
「明日だっけ?」
頷くカイ。
「今日の試合は見たのか?」
「いや。興味がない。誰が来ても同じだからな」
「なるほど。ちなみに今回の武道会で王都の中にある賭け屋によると1番人気は女騎士のイレーヌだ。2番人気は戦士のブル。こいつは毎年出てる。普通にいけば明日の準決勝で当たる相手だ。カイ、お前は10番人気だ」
「ほう。もっと低いと思ってたけど」
「ランクAのシノビっていうだけで買った奴がいるんだろう。俺もお前の一点買いだ。ただ俺はお前を実力で買った」
「こりゃ負けられないな」
「頼むぜ」
そして翌日の朝、カイはいつものシノビの装備で武道会の会場入りした。
受付で参加者カードとギルドカードを見せてから控室にはいると、そこにはカイの前に試合のある参加者が一人座っていて、カイを見ると、
「あんたがシノビか。おれはギド。見ての通り戦士だランクはB」
「シノビのカイだ。ランクはA,よろしく」
挨拶を済ませるとギドが、
「ここ数年王国警備隊の女騎士が連続で優勝してるって聞いてな、なんとかしてやろうと思って参加したんだよ」
「なるほど。ランクBってことは予選から出たんだろう?」
「ああ。予選って言ってもなその辺の素人や騎士見習いみたいなのばかりでな。あれでは練習にもなりやしないよ」
騎士の連中はイレーヌが出るなら勝てないとほとんど参加していないのだと言う。
「となるとこの3回戦からが本番になるのか」
「そうなるな、お互いにがんばろうぜ。そのカーバンクルも一緒に戦闘するのか?」
「いや、戦闘は俺だけだ」
「なるほど。じゃあお先に」
そう言うとカイの前に試合のあるギドは斧を担いで部屋から出ていった。
カイは外での試合を見ることもなく控室で一人で時間を過ごしていた。
カイの肩の上にはカーバンクルのユズハがいつもの通りちょこんと座ってカイの頬に体を寄せて休んでいる。そのクズハの背中を撫で回し、
「誰が来てもやることは変わらない。勝つだけだ」
そう言うと尻尾を振って応えるクズハ。
「前の試合が終わりました、そろそろお願いします」
扉が開いて職員が呼びにくると肩にクズハを載せたまま立ち上がって職員について会場に向かう。
控室から会場に出ると観客席はぎっしりと満員で指示された場所に座るカイ。
しばらくすると案内が始まり、司会者が
「シノビのカイ選手です!」
と叫ぶと会場が歓声に沸く。シノビを見るのは初めての人が殆どで、ましてやシノビの戦闘を見たことがあるのは殆どいない中カイは通路を移動し、裾から会場に上がる前に階段の下でカーバンクルのクズハを下ろし、
「強化魔法は今日はいいぞ、ここで見ていてくれ」
会場に上がり、中央に近づくと向かいには狼族の男が立っている。両手にナックルを嵌めておりジョブはモンクだ。
「シノビとやるのは初めてだ。遠慮はしないぜ」
「こっちもだ」
審判の男が試合開始の笛を吹くと大歓声があがりそれと同時に狼族の男がいきなり突っ込んでくる。
ボーッと突っ立っているカイを見てニヤリとする男。
だがその次の瞬間にはその男は会場の地面に叩きつけられていた。
「何だ?」
「何が起こったんだ?」
「突っ込んでいったと思ったら倒れてたぜ」
「勝者、カイ!」
審判の声がするとカイは会場の端まで移動して一礼すると階段を降り、そこにいたカーバンクルを肩に載せるとまるで何もなかった様に控室に消えていった。
会場の地面に伸びてピクリとも動かない男に治癒部隊が回復の魔法をかけている。
「結局何が起こったんだよ?」
ざわざわとして観客の殆どが何が起こったのを分からない中で数人は今のカイの戦闘を見て、
「流石だな」
「ああ。あのやろう刀を抜かずに腹を一発殴って倒しやがった」
「運動神経のいい狼族の奴を一発か…相当やるな」
バーセルと同じ王都でランクAの冒険者であるゴメス。二人には見えていた。
カイに突っ込んでいった男を交わし様に腹に拳を打ち込んだカイを。
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