第14話 クズハ 進化する


 ランクAのキアナの一流冒険者達が盗賊退治をしたことはあっという間にキアナの街に広がっていき、そうしてその中に一人だけランクBのシノビのカイがいたことも同時にキアナの街に広まっていった。


 盗賊の討伐以来カイを見る他の冒険者達の目が全く変わったことをカイ自身も感じていた。ランクAの連中から認められたランクBのシノビ。ランクAに昇格するのもすぐだろうというのがキアナの冒険者達の中でのカイの評価だった。


 とはいえ、盗賊討伐後にキアナにやって来た冒険者達はそんな事情を知らないので、

ギルドでシノビのカイを見ると、


「おい、あれシノビじゃないかよ。初めてみたぜ。偉そうにカーバンクルをティムしやがって。ちょっと”焼き”入れてやるか」


 他所からやってきた冒険者のパーティの連中が話しているのを近くのテーブルにいた地元の冒険者が聞いて、


「おい、お前ら最近キアナにやってきたのか?」


「ああ、3日前についたんだよ」


「今ちょっとあのシノビに手を出すって聞こえたんだが止めておいた方がいいぞ」


 声をかけられた男は視線をカイから声をかけてきた男に移して、


「何でだよ?」


「あいつは今ランクBだが、すぐにランクAに昇格するだろうって言われてる。ソロでダンジョンをクリアし、最近じゃこの街のランクAと一緒に盗賊討伐までしてるからな。ランクAの連中もあのシノビには一目置いてるって話だ。悪い事は言わねぇ、あいつに手を出すのは絶対やめとけ」


 話かけてくる男とカイとを交互に見ながら、


「盗賊退治の話は聞こえてきてたが、その中にあいつがいたのかよ?」


「ああ。この街のランクAの連中に唯一混じったランクBだ。ただランクAの奴らは皆あいつの実力を高く買っててな、誰からも一切文句が出なかったって話だ」


「ってことはよ、この街のランクAの連中は皆あのシノビを認めてるってことかよ」


「そう言う事、だから止めとけって言ってるんだよ。喧嘩売ったら偉い目にあうぜ」


 話を聞いた男はもう一度カイを見ながら


「外見じゃとても強そうには見えないんだが」


「そう思ってお前の様なやつらが何度もカイにちょっかいを出しては地面に叩きつけられてるんだよ。あのシノビ、カイって言うんだが、奴の刀捌きはほとんどのやつが見えてないはずだ」


「それほどなのか…」


「おまけに魔法、いやあいつは魔術って言ってたな、それも半端ないって話だ」


 ギルドでそんな話しが交わされている事は何も知らず、カイはその後街周辺の魔獣討伐のクエストを受け、そうしてある程度報酬を得ると、ある日新しいダンジョンに挑むべく受付のスーザンに、

 

「他にダンジョンがあれば教えて欲しい」


 スーザンはカイの言葉に、手元にある資料を見ながら、


「カイさんなら北東にあるダンジョンはどうでしょうか?ここから徒歩で1日掛かりますがこの前クリアされた西のダンジョンよりも深いという噂です。まだクリアした方は居ません」


「未クリアダンジョンか、それは興味があるな」

 

 受付のスーザンから場所を聞いたカイは翌日の朝早くにキアナの街を出て北東にある

ダンジョンに向かった。

 

 その日の夕方にダンジョンエリアに着いたカイとクズハはダンジョン近くの宿に部屋を取り移動の疲れをとると翌朝から早速ダンジョンに挑戦する。

 

 入り口でカードをかざして記録すると階段を下りて1層に降り強化魔法をかけたクズハがいつもの定位置、カイの背後に移動するとダンジョンの攻略を開始した。

 

 ランクD,Cが主体のフロアが続き、ノンストップで雑魚を倒しながら下に降りていく。

あっという間に10層をクリアし、11層に降りてもその攻略スピードは変わらずで、初日に15層までクリアをして地上に戻ってきた。

 

 翌日、16層に飛んだカイとクズハ

 

「ようやくランクBが出てきた、これからが本番だな」

 

 ランクBのオーガ、ゴブリンを刀と魔術で倒しながら地下通路の様になっている迷路を

進んで行く。

  

 途中で同じ様にダンジョンに挑戦している冒険者を見かけると、彼らの戦闘の邪魔にならない様に別のルートに移動してフロアを攻略していくカイ。

 

 20層をクリアしたところで地上に戻り記録する。ダンジョン入り口の警備員と

 

「何層まで潜っているんだい?」


「20層をクリアしたところだ」


「早いな」

 

 そんなやり取りをして宿で身体を休め、翌日再び挑戦していく。

 

 そうやってこのダンジョンに潜り始めて5日目、カイが28層に降りていくとランクAの魔獣が複数体で徘徊しているのが視界に入った。

 

 そこはダンジョンとは思えない森林のフロアで木々の間にランクAのフォレストタイガーが3体固まって動いているのが見える。他にもオーガの上位が2体、3体と固まっていて

 

「これはリンクすると厄介だな」

 

 クズハから強化魔法を貰うと気配感知をフル稼働させて森林のフロアを進んでいく。

 

 スピード重視で討伐していかないと、時間が掛かると他の魔獣が寄ってくるので基本は『舞』の魔法で先手をうち、倒せなかったのは刀で一閃して倒す。

 

 それでも途中でオーガ2体を攻略しているところにオーク3体がリンクして都合5体の魔獣と戦闘になったが魔術と剣で全てを討伐し、

 

「意外といけるもんだ」

 

 それからは更にスピードアップしてリンク上等で突っ込んでいく。ダンジョンや森での高ランクの魔獣討伐の経験はカイ本人が意識している以上にカイの戦闘能力をアップさせていた。

 

 そうして28層をクリアすると、29層もクリアした。魔法を唱える魔獣が厄介ではあったが、詠唱時間が長い間にカイの無詠唱の魔法が命中して詠唱を中断させるとそのまま突っ込んで魔獣の身体を切り裂いて倒していく。

 

「もう29層クリアしたのか、ダンジョンクリアができるんじゃないの?」


「どうだろう。何層あるかわからないからな」

 

 ダンジョン入り口でそんな会話を警備員として宿に戻り部屋で刀を手入れしていると、カイの手入れを見ていたカーバンクルの全身が突然光に包まれていく。


 何が起こったかとカイが刀の手入れを止めて光に包まれたカーバンクルを見ていると、

暫くして光が消え、そこには前と同じカーバンクルのクズハがいた。

 

「どうなったんだ?見た感じ変わってないが」

 

 カーバンクルのクズハもキョロキョロと自分の身体を見て、そうして何もなかったかの様にカイの肩に飛び乗ってきた。その身体を撫でながら

 

「まぁ、クズハが問題ないって言うならいいか」

 

 尻尾を振って応えるクズハ。

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