第11話 ランクAの中にランクBが一人
「あっ、カイさん」
数日後、カイが朝ギルドに顔を出すと受付嬢のスーザンが声をかけて、
「ちょうどよかった。ここの2階の会議室に行って貰えませんか?ギルドマスターから話しがあるそうです」
「2階?」
受付横にある階段を登ると、登ったすぐの部屋の扉が開いていて、中に入ると正面にギルマスのシンプソンの姿が見えた。向こうもカイを見つけると、
「おお、ちょうどよかった、カイ。入って座ってくれ」
部屋にはすでに7、8名の冒険者達が思い思いの場所に座っていて部屋に入ってくるカイを見る。よく見ると皆ランクAクラスだ。皆いい面構えしているな、それに実力も高そうだ。カイは先に部屋にいた冒険者を見てそう思うと部屋の後ろにある空いている椅子に座った。カイが座ったのを見て会議室の前に座っていたギルマスが
「これで揃ったな。実はこの部屋にいるお前らに指名クエストを頼みたい」
「ギルマス直々の指名クエストってことか?」
一人の戦士風の男が声を出す。
「そうだ、ギルドからの依頼と思ってくれていい」
「で、その指名クエストの中身は?」
次に声を出したのは片手剣を持っている男。ギルドでも何度か顔を見ているランクAの冒険者だ。
「盗賊の始末だ」
「「盗賊だと?」」
冒険者の数名が同時に声を上げる。
「そうだ。このキアナから北にある隣町のアイオナへ続く街道で最近盗賊が出ている。商人や旅人に被害が出ているので冒険者で討伐して欲しいと領主から依頼があった」
しばらくざわついていた室内で一人がギルマスに向かって野太い声を出して話しかける。大柄な狼族の男だ。
「盗賊退治ならここの領主の騎士達にやらせりゃいいじゃないか」
「ハンスの言うことも尤もだ。すでに騎士団は数度討伐に出ていて成果無しで帰ってきてるんだよ」
「どうしてなの?」
僧侶っぽい格好をした女性冒険者が声を出すと、
「騎士団は30名程で行ったらしいが、盗賊の奴らは隠れて見つからなかったらしい」
その言葉に会議室にいた冒険者達から失笑が漏れる。
「大勢で行きゃあ、そうなるわな」
「あいつら遠目からでも丸わかりの格好だしな」
カイは終始黙ってやりとりを聞いていた。口々に言う冒険者達の言葉を遮る様にギルマスが、
「その通りだ。なので冒険者ギルドの方でこの件に対処して欲しいとの話がきたんだよ。ここにいるのはこのギルドでもトップのランクAばかりだからな。お前らならこの人数でも対処できるだろう?」
そこまでギルマスが言うとびっくりしたカイが手を挙げ、
「ちょっと待ってくれ。今ランクAばかりって言ったが俺はまだランクBなんだが」
ギルマスが何か言う前に片手剣の男が、
「いや、カイならランクA扱いで俺は問題ないと思う。お前最近西のダンジョンをソロでクリアしたんだろう?ランクAでもそんな事できる奴はいない。実質ランクAってことで俺は全く問題ない」
そう言うと他の冒険者も頷いている。カイがソロでダンジョンをクリアしたシノビってのは十分有名になっている様だ。
「イーグルも言った通り、カイはランクBだが実質ランクAってことで参加して貰ってる。お前の実力は他のランクAの奴らも認めてるってことだ、だからランクBでも気にする必要はない」
「それで相手の盗賊についての情報は?人数とかアジトの場所とか」
狩人風の女性が質問すると、
「生き延びた商人、旅人から聞いた情報では襲ってきたのは10名から15名程らしい。アジトの場所はわからないが、襲われた場所は大抵同じ場所なのでそれは分かっている」
そう言うとギルマスが自分の背後の壁に地図を貼り付けた。地図は今自分たちがいるキアナの街と北にあるアイオナの街、その間にある街道が書かれている簡単なもので、
「ここだ。この森の中で盗賊に襲われている」
ギルマスが地図の1点を指差すと、
「左右両方が森だから、アジトがどっちにあるかこれじゃあわからないな」
「いずれにしても襲う時はほぼ全員だろうから盗賊は15名前後だって覚えときゃいいな」
皆思いついたことを口にする。カイは肩に乗っかってるカーバンクルのクズハを撫でながら皆のやりとりを聞いていて、盗賊か…殲滅してアジトを探せばお宝の中に刀があるかもしれないななどと思っていると、
「カイ。お前はどう思う?思ってることを言ってみろよ」
イーグルがカイに振ってきたので、カイはイーグルを見てから壁の地図に視線を向け、
「この地図を見てる限りだが、盗賊が襲ってきた地点の東側は大きな山の麓になっていた筈だ。アジトを作るならそっちの方がアジトを作りやすい場所になってるのかなと思う」
「なるほど、言われてみりゃそうだな」
カイの言葉に皆壁の地図を見て東西を比較して
「確かに。カイの言う通り東側は山裾に続いていたな。隠れる場所が多そうだ」
「退治したら東も探索した方が良いわね」
「そうだな」
納得する他のメンバー。
「それでクエスト達成時の報酬は?」
先ほどハンスと呼ばれた男がギルマスに聞くと、
「成功報酬だが一人金貨10枚」
そこでおおっという歓声があがる。
「えらく気前がいいじゃないかよ」
「それだけ困ってるってことでしょ?」
ギルマスは彼らの言葉に頷き、そして続けて、
「盗賊の取り扱いについてだが、生きて連れて帰ると盗賊1人に付き金貨1枚、殺した場合は殺した盗賊の耳を持って帰ってくれ。盗賊1人について銀貨100枚だ」
銀貨1000枚で金貨1枚だから10分の1だ。
「お前達が不正をしないのは知ってるが、領主はお前達の性格を完全に把握してないからな」
「汚ねぇ盗賊の耳を持って帰るのかよ」
「仕方ねぇか」
そんなボヤキを聞き流しているギルマス 。
「連れて帰る前提で馬車を1台用意する」
ギルマスの言葉に頷く冒険者達。
「それとアジトでもし人質がいてそれを助け出した場合には報酬とは別に人質1人について金貨5枚を出すそうだ。あと、アジトにある彼らの盗品については冒険者のモノにして良いそうだ」
「大盤振る舞いかよ。そこまで言われちゃあ断れないな」
「そうだな。それでいつ行けばいいんだ?」
「馬車と御者はこちらで用意する。2日後の朝の出発でどうだ?」
分かったということで会議は終わった。会議の後ギルマスは退席したが残りの冒険者で大まかな作戦会議となった。
この会議に出ている冒険者はシノビのカイを入れて全部で8名。カイ以外は全員ランクAのこの街のトップの冒険者だ。
リーダー格はイーグルでジョブは戦士
他にも戦士が2名いて、サイモンとジェン
盾はハンスと呼ばれていた狼族の男
狩人はマリーというエルフの女性
僧侶も女性で、シルビア。彼女は人族だ。
魔道士は人族のダン。
サイモンとジェンは別のパーティに所属しているらしいが、それ以外の5人は皆同じパーティメンバーだ。ランクAが5名のパーティ、キアナのみならず国内でその名が有名な強者のパーティだ。
そしてシノビのカイ。
「マリーが先頭で周囲を探索しながら進んでくれ」
狩人には”鷹の目”という広域スキャンができるスキルがある。
「そしてカイ、シノビだから気配を消して動けるな?」
頷くカイ
「マリーが異常を見つけたら斥候を頼む」
「分かった」
「戦闘はダンとカイでまずは盗賊の遠隔攻撃者を倒してくれ。他の物はそれ以外の盗賊と戦闘する。シルビアは後方からみんなのフォローを頼む」
「カイは魔法は使えるの?」
シルビアが聞いてくると、カイが答える前にリーダーのイーグルが
「俺は実際に見ている。シノビの中では魔術と言うらしいが俺たちの魔法と同じかそれ以上の威力があるから大丈夫だ」
「そりゃすげぇな」
「頼もしいわね」
ランクAクラスになると素直に人の才能を認め、褒めることができる。人物的にも1流の冒険者だなと感心するカイ。
「よし、これで大体の作戦は決まったな」
イーグルがそう言ったところで、カイが、
「俺はアイテムボックスを持っている。必要な物はほぼ無制限で入れられるからなんでも言ってくれ」
「ほぅ、アイテムボックス持ちか。そりゃ助かる」
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