第7話 初ダンジョン
1週間もすると、冒険者としての活動に慣れてきたカイ。毎朝鍛錬を終えるとギルドでクエストを受けてから街の外に出て、指定された魔獣を倒して報酬を受け取り、魔石を売って現金化する。
この1週間の間に相当数の魔獣を倒して報酬を得たカイは、そろそろダンジョンに潜ろうと朝の鍛錬を終えると、ギルドのカウンターで
「ダンジョンに行きたいんだが、どこかお勧めはあるかい?」
カイの試験に立ち会ったこの受付嬢のスーザンは目の前のカーバンクルを肩に乗せている冒険者の実力を知っているので、
「ここから西に半日程歩いたダンジョンはどうでしょう?難易度もカイさん向きだと思います。南にもありますが、ここは本当の初心者用なので歯応えがないと思いますよ」
「なるほど。じゃあその西のダンジョンってのに行ってみることにする」
「お気をつけて」
受付嬢の言葉を背中で聞きながらギルドを出たカイはカーバンクルのクズハと西に向かう街道を歩いていく。
「ダンジョンか…すぐに目的の物が見つかるとは思わないが、鍛錬の場になるといいな」
カイの言葉にクズハも尻尾を振って応える。
半日程歩いた昼過ぎに草原にいくつか家らしきものが立っているのが見えてきた。近づくとダンジョンに潜る冒険者御用達の簡易の宿や武器・防具屋などのショップで、その家々を抜けると草原の中にダンジョンの入り口が見えてきた。
入り口に立っている衛兵風の男に、
「ダンジョンに潜りたいんだが」
「じゃあ、ギルドカードをここに当てて。よし、オッケーだ。階段を降りるたびに石板があるから、そこにカードを当てて記録させると次からはカードに記録されている好きな階層からスタートできる」
「なるほど、便利なものだ」
「知ってると思うがこの中も全て自己責任だ。無理はするなよ」
入り口から階段を降りると洞窟の様な通路が現れた。クズハが強化魔法を掛けてくれ、カイは両手に刀を持って通路を進み始める。
前方で魔獣の気配がして近づいていくと、ゴブリンがカイを見つけて棍棒を振り上げて向かってきた。
『火遁の術』 そう唱えるとゴブリンの身体が火だるまになり、あっと言う間に倒れた。
「今のはオーバーキルだったな」
思いの外魔獣が弱かったのでオーバーキルになった様だ。その後は魔力量を調整し、適正な魔力で魔獣を1発で倒せる様になった。
そうして下にもぐっていた3層目でゴブリンが3体同時に現れた。
『火の舞』
そう唱えると、3体のゴブリンが同時に火に包まれて絶命した。
『舞』は範囲魔法の魔術で、カイはこの『舞』の魔法も完全に習得している。
「これなら安心だな」
強化魔法を掛け、戦闘中はカイの背後に移動し、戦闘が終わるとジャンプしてカイの左の肩にのったクズハの身体をポンポンと叩くと、尻尾を振って応える。
5層目になるとゴブリンではなく1ランク上のオークが単体で出てきたが問題なく討伐しながら下にもぐっていき、この日は7層までクリアをして記録してから地上に戻り、ダンジョン近くの宿に入っていった。
「それにしても、見事な刀だ。刃こぼれが全くでないとは」
綺麗な紙で村雨と金糸雀の刃を掃除しながら感心した様に呟きながら刀の手入れをするカイ。そばにいるカーバンクルがじっと2本の刀を見ている。
「これでよし」
刀を鞘に納めると、カーバンクルの頭を撫で、
「明日も頼むぜ、相棒」
翌日8層から攻略を始めたカイ。10層になると魔獣のランクがまた1つアップしてゴブリンやオークのの上位種が単発で出てきた。
ランクに例えるとBクラスの魔獣になったがカイは苦も無く討伐していく。12層からは複数体で出てくるが、魔術と2本の刀で無人の通路を歩くがごとくダンジョン内を進んでいき、14層に到達したところでこの日の探索を終えて地上に戻ってきた。入り口にいた門番の男が
「何層までクリアしてるんだい?」
「13層までだ」
「ソロだろ?結構早いな。でも無理はするなよ」
頷いて宿に戻るカイ。そうして翌日、14層からフロアを攻略していき18層に降り立つと、通路に沸く魔獣のランクがAランクに上がっていた。
鞘から抜いた刀を2本両手に持って洞窟の様な通路を進んで行くカイとクズハ。
通路の先にランクAの巨体のオーガが通路をふさぐ様に立っていて、カイを認めると手に持ったこん棒を振り上げて向かってきた。
振り下ろしてきたこん棒を交わしながら刀を2振りしてオーガの腹をざっくりと裂く。
大声を上げながらも絶命することなく、振り返って再びカイに襲ってくるオーガ。
2度目のこん棒の振り下ろしを交わして刀を振るとオーガが通路に巨体を倒してそのまま消えていく。
「これを1撃で倒せるくらいに戦闘に慣れないとな」
その後も通路に現れるランクAのオーガやオーク、そしてスケルトンを倒して戦闘に慣れていき、20層にたどり着いて記録して地上に戻った。
ダンジョンにいると時間の感覚が分らなくなっているが、地上に戻ると既に真っ暗になっていて
「今戻ってきたのか。一体どれくらい潜ってたんだよ?」
驚いて声を掛けてくる門番の警備兵に
「ダンジョンにいると時間の感覚が無くなる。こんなに真っ暗になっているとは思わなかったよ」
シノビのカイがダンジョンにソロで潜っている事は他の冒険者の間でも話題になっていて、夜中に宿に戻ると食堂でたむろして酒を飲んでいた冒険者達の視線がカイに注がれる。
一人の冒険者が宿の受付で部屋の鍵を貰ったカイに
「何層まで行ったんだ?」
「次から20層だよ」
「ソロで19層クリアか、大したもんだぜ」
そんなやり取りをしていると酒を飲んでいた大柄な冒険者がテーブルから立ち上がって
「おいおい、嘘つくのも大概にしろよランクCだろ?お前。ランクCのお前がソロで19層なんて行ける訳ないだろ?19層はランクAばかりだぜ。しかもソロでランクAを倒してる?無理無理。ランクBの俺達でも4人で潜ってまだ15層だっていうのによ」
カイはでかい声で絡んでくる大柄な男を冷めた目で見ながら
「俺が嘘をついてどういう意味がある?クリアしたからクリアしたと言っただけなんだが」
冒険者に喧嘩はつきもの。周囲の冒険者は黙って事の成り行きを見ていて、
「シノビの奴ってのはやってない事をやりましたと言うジョブなのかよ?」
自分自身に言われてるのであればただの酔っ払いの戯言だと無視も出来たが、ジョブ自体を否定される発言をされたカイはの目つきが変わった。
「俺が嘘を言ってるかどうか、確かめてみるかい?」
「ふん、ひとひねりで潰してやるよ」
先に宿屋を出て裏の草原に移動すると
「クズハはここで見てるんだ」
肩からカーバンクルを降ろすと大きな大剣を背負った男が近づいてきた。酒場にいた他の冒険者もゾロソロと集まってきた。カイは大剣を担いでいる男を見て、そして周囲の冒険者に
「一つ確認だが、この場合相手を殺してもいいのか?」
「殺すと衛兵が出てくる。気絶くらいにさせとけよ」
大剣を担いだ男は、
「嘘つきは殺しても罪にならなんだよ」
そう言っていきなり大剣を上から振り下ろしてきた。あっさりとその剣を躱すと、2本の刀を鞘から抜き、
「ただ、でかいだけの頭の悪い男だったか」
「なんだと。本気でぶっ殺してやる」
そう言うと再び大剣を振り下ろし、横に払う様にカイに切りつけてくるが、その剣を軽い動きで交わし、
「そろそろこっちも行かせてもらう」
そう言うと次の大剣の振り降ろしを交わしたかと思うと、相手の懐に飛び込んで二刀流を2閃するとそれぞれの刀が男の腹に入って、大男が吹き飛ばされて草原の上に大の字に倒れ込んだ。
「力を抜いてしかも峰打ちしてある。でないとお前の身体は真っ二つになっている。口だけで全く大した事がなかったな」
そう言って何もなかった様に肩にクズハを乗せて宿に戻っていくカイ。
カイと大男の戦闘を見ていた周囲の冒険者からは、
「シノビの奴の刀の動きが見えなかったぜ」
「あの大剣を完全に見切っていたな」
「あれでランクCかよ?」
そういうと、誰かが
「ランクAのイーグルがあのシノビには絶対に手を出すなってキアナのギルドで言っていたが、本当だな。ありゃランクCのレベルじゃない。相当上のレベルだぜ」
「イーグルが言ってたのか。じゃあ間違いないな」
そして草原にぶっ倒れている大柄な男を見て
「こいつもとんでもない奴に喧嘩を売ったな」
「全くだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます