第6話 ランクC


 鍛錬場にいた他の冒険者達がカイを見ると鍛錬を止めてカイに視線を送る。ギルドでカイを見ていた冒険者達も鍛錬場に集まってきた。


 どこのギルドでも鍛錬場はギルドが持っており、その造りもほぼ一緒だ。長方形の柵というか木の板で作った壁の中に土が敷き詰めてあるだけで。その壁の周囲は2、3段の観客席がついている。


 カイを見ようと集まってきた冒険者たちはその鍛錬場の周囲にある観客席に思い思いに座る。


「君が冒険者志望のカイか?」


 カイが声に振り向くと、背後から一人の男が鍛錬場に入ってきた。がっしりとした体型で隙がない。


「私はここのギルドマスターをしているシンプソンだ。よろしく」


「アマミから来たカイです」


 カイが自己紹介をするとギルマスは頷き、


「アマミの人は総じて武術のレベルが高い。従い私がカイの相手をさせてもらう。試験結果次第ではランクCからのスタートも可能だ」


「それは助かる」


「試験結果次第だぞ?」


 そう言うと鍛錬場の奥にある太い木に藁を巻いて作った人型の目標を指差し、


「まずはあれに魔法を撃ってくれ。魔法の種類は問わない」


 カイは頷くと肩に乗っていたクズハを下ろして目標に刀を持っている左手を突き出し、脳内で『火遁』と唱えると、人型の人形が突然盛大に燃え出した。


「おい、無詠唱だぞ。しかもあの威力」


「あいつから目標に向かって火玉飛んだか?見えなかったんだが」


「俺も見えなかった。突然人形が燃え出した」


 周囲でカイを見ていた冒険者から驚きの声が出る。


(何という魔法だ。軌跡が無い。しかもあの威力)


 派手に燃え続ける人形を見ながらギルマスのシンプソンも内心驚いて、


(魔法を撃たれた側はどこから飛んできたかわからないじゃないか)


 今目の前で起こった事象にびっくりしながらも、


「OKだ。ちなみに火系以外も撃てるのかい?」


「一応、火、水、雷、土、風、氷の6系統は撃てる」


「なら次は氷であれを消してくれ」


 再び左手を突き出し『氷遁』と脳内で唱えると氷の塊が人形を包み、あっと言う間に火が消えた。


「また軌跡が見えなかった」


「いや、あれは軌跡が見えないんじゃない、軌跡が無いんだ」


「軌跡が無い?そんな魔法があるのか」


 口々に言い合っているのが聞こえるが、無視してギルマスに、


「魔術はこんな感じだが?」


「ああ。いいだろう。次は剣術だ。カイは刀という武器がメインだな?」


「ああ。それしか使えない」


「わかった。ただここには刀の模擬刀は無いんだよ。申し訳ないがこの片手剣でお願いできるか?」


 そう言って1本の片手剣を渡し、


「その剣で私と模擬戦をする。模擬戦だし刀ではないから勝敗は気にしなくても良いぞ」


 カイは2、3度模擬刀の片手剣を振ると感覚を掴んだのか


「では、参る」

 

 対峙して立っているギルマスに向かっていくキンキンキンと模擬刀同士がぶつかる音が鍛錬場に響いて、


「早いな、それに身体能力も高そうだ」


「ああ。お互いに本気出してないがあのシノビ、相当やるぜ」


 しばらく剣先を合わせていると、ギルマスが


「オッケーだ」


 お互いに模擬刀を下げるとその場から少し下がって一礼するカイ。ギルマスのシンプソンは受付嬢に、


「カイをランクCにしてギルドカードを作ってあげてくれ。それと」


 そう言ってカイを見て


「そのカーバンクルはカイのペット扱いでいいか?」


 カイは質問の意味が分からない様にその言葉に少し首を少し傾げ、


「何か登録が必要なのか?」


「ああ。ペット扱いなら首からティムされているというタグをぶら下げる。それがあると街中を連れて歩いても大丈夫になる」


「なるほど。じゃあ登録を頼む」


 再び肩に乗ってきたクズハのカーバンクルとギルマス、受付嬢が鍛錬場から消えると、


「いきなりランクCかよ」


 誰かが呟いた言葉に続けて、


「いや。実力的にはもっと上だな、どう見てもランクAはある」


 そう言ったのは先ほどのカイとギルマスとの模擬戦を観客席から見ていた1人の冒険者だ。自分自身がランクAのこのキアナの街のトップクラスの冒険者でもある。


「イーグルがそう言うのなら相当の実力者じゃないかよ」


 名前を言われたランクAの冒険者であるイーグルは


「相当だ。本来の刀ではない片手剣であの剣さばき。身体能力も相当高い。それにあの軌跡が見えない強力な魔法」


 そう言って周囲の冒険者を見て、


「お前達、間違ってもあいつには手を出すなよ」


「それほどの実力か…」


 イーグルはギルマスについて鍛錬場から出ていくカイの背中をじっと見ながら


(恐ろしいシノビがやってきたな。あの魔法の威力。それよりなによりあの身体能力の高さ。軽く流しているんだろうがそれであの動き。俺でもまともにやりあって勝てる気がしない)


 カイはギルドの受付カウンターに戻ると受付嬢から新しいランクCと書かれたギルドカードとティムのタグを受け取り、それをクズハの首に掛けた。


「これでお前もこの街で普通に生活できるぞ」


 頭を撫でられがクズハは嬉しそうに尻尾を振っている。


「それでこれからどうするんだ?」


 受付嬢と一緒にカウンターにいたギルマスがカイに聞くと、


「とりあえずこの街で冒険者っていうのに慣れて、それからダンジョンに挑戦してみるつもりだ」


「ダンジョンか。この街の近くにもある。カイなら下層までいけるだろう」


「ギルマスに言われると自信になるよ」


 カイがギルドを出ていったのを見送ったギルマスのシンプソン、自分の部屋に戻ると、


(普通にランクAの実力はある。いやそれ以上かもしれない。慣れない剣を持ってあの剣捌き、身体能力の高さ、それに加えて軌跡の見えない魔法、いや彼らは魔術というのか。しばらくアマミから冒険者が来なかったと思ったらとんでもないのがやってきたな)


 ギルマスもイーグルと同じ印象を持っていた。

 

 一方、ギルドを出たカイとクズハはギルドから紹介してもらった宿に部屋を取ってここキアナでの生活が始まった。

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