第4話 旅立ち その4


 旅立ちの前日、カイが家で準備をしていると玄関で案内を乞う声がして、しばらくすると男性と女性が部屋に入ってきた。

 

「リンドウ兄さん、アカネ姉さん」

 

 部屋に入ってきたのはこのアマミに住んでいるリンドウとアカネ。歳はカイより上でどちらも今年で21歳になる。カイよりは4つ年上だ。

 

 カイがこの家に来てからずっとカイの兄と姉として接し、面倒を見てきた2人。今はリンドウとアカネは夫婦になってこのアマミに住んでいる。


 リンドウは華奢な体つきで残念ながら武術の心得はなかった。しかしながらリンドウは生産職としては類い稀な才能を持っていた、鍛冶、裁縫、錬金等全てをこなしアマミの人々のために優れた刀、柔術着や忍上衣等を作っている。アマミ一番の武器、防具職人、鍛冶職人、裁縫職人、そして錬金職人だ。


 一方アカネは女性ながら武道に秀でておりシノビとして刀の二刀流はカイについで村で2番手、3番手の実力がある。背丈はカイより少し低い程度で、キリッとした聡明で美人顔の女性だ。


「カイ。旅立ちすると聞いてお前の防具を作ってきた。受け取ってくれ」


 そう言って差し出された防具を受け取るカイ。


 服は黒を基調にしオレンジの縁取りをつけた忍上衣。よく見るとミスリルが綺麗に繊維と繊維の間に入っていて強度を大幅に上げている。


  袴は黒一色でズボン丈で、これにもミスリルが使われている。そして黒の籠手、靴はアマミの近くで取れる樹木の皮を特別な液で浸して軽くて強度を増した忍足袋だ。


「どれもすごく軽い。それに防御力も高そうだ」


 カイが手に取ってそれらの防具を見て感想を言うと、隣で見ていた父親のクルスも見事なものだと感心して見ている。


「大陸には強い魔獣がいると聞いている。今俺が作れる最強の装備を作った」


「ありがとう、リンドウ兄さん」


「カイ。これはお守りよ。身につけといて」

 

 アカネが渡したのは手作りのお守りだ。紐が付いているそのお守りを首から掛けて腹に入れたカイ。

 

「ありがとう、アカネ姉さん」


「カイ。あんたには使命がある。でもそれは命があって初めて達成できるのよ。気を付けて行ってきなさい」


 リンドウは、


「俺とアカネはお前を小さい時から見ている。今のアマミではお前以上の刀の使い手はいない。村のためにも頼むぞ」


「わかった」


 力強く答えるカイ。

 するとアカネがカイの頭をポンポンと軽く叩き、 

  

「ここの事は心配しないでいいから。でもまぁ寂しくなったらたたまには帰ってきてもいいわよ」


「そう言ってもらえると気が楽になるよ」

 

 3人のやり取りを聞いていたユズも、

 

「出たら使命を達するまで絶対に帰っちゃダメだって事はないからね。長い旅になるんだからたまにはここに帰って息抜きしていいんだよ。リンドウさんやアカネさんも待っているんだし、きちんと顔を出しなさいよ」


「わかりました。お母さん」

 

 

 そして旅立ちの日、柵で囲まれている村の門には大勢の人が集まっていた。長老に挨拶をしてから身内に挨拶をする。

 

「気を付けて行っておいで」


「カイには白狼様がついておる。自分の信ずる道を進めば事は成就できるじゃろう」

 

 ユズとキクが言うと、

 

「今まで学んだ事をしっかりと体現してくるんだぞ」


「わかりました、父さん」


「身体には気を付けて、無理しちゃだめよ」

 

 そう言ってカイの頭をポンポンと叩く。これは昔からのアカネの癖だ。カイが幾つになっても何かあるとポンポンと頭を叩く。カイも慣れっこなので嫌がりもせずに

 

「アカネ姉さん、わかってるって」

 

「では皆さま、行って参ります」

 

 村人達に深く礼をすると、踵を返しカイは村の外に向かって歩きだしていった。

 

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