第3話 旅立ち その3


 数日後、カイは養父の教えの通り街の端、祠に続く山道の入り口の脇に建っているキクの家を訪ねる。小さな木造の平屋の一軒家の扉を開け、


「こんにちは」


 カイが声をかけると家の奥からすぐに声が聞こえてきた。


「カイかい。まぁ上がりなさい」


 勧められるままにキクの家に上がり、父親と話をしたことを説明し、近々村を出て正宗と鬼哭を探す旅に出ることを伝えると、キクは目の前に正座しているカイをじっと見て、


「もう17歳か。早いもんだねぇ。うん今のお前さんならそう簡単にやられることはないだろう。刀の探究の旅に出るがよい。カイ、この世界は広い。自分の目的を忘れることなく見聞を広めてくると良いぞ」


 そう言うと目の前にあるお茶を飲み、


「これから祠にお参りするんだろ?どれ、私も一緒に行こうかの」


 立ち上がった巫女のキクと並んで家を出て山にある祠に向かって石の階段を登っていく。そうして階段の途中で立ち止まって後ろを振り返ると視界に頑丈な木の柵に囲まれているアマミの全景が見えていた。階段から振り返って麓の村を見ながら、


「このアマミはこの大陸の中では小さな村じゃ。場所柄か幸いにして魔獣の出現も少ない。それに昔から村の人は武道を鍛錬しておるのでそう簡単に村がやられることはないじゃろう。フェンリルの白狼様もいらっしゃるしの。とは言えこの世の中、明日何が起こってもおかしくはない。村が将来に渡って繁栄し続けるには妖刀正宗と小太刀の鬼哭はどうしても必要なのじゃ」


「ええ。わかっています」


 カイも階段から振り返って同じ様に背後に見えるアマミの全景を見ながらキクに答える。キクは視線を背後の村から目の前の階段に移し、


「お主は厳密に言うとここの出身ではないが、今ではアマミ一番のシノビじゃ。しかも術符なしに魔術を唱える事が出来る。いままで多くの者が成し遂げられなかった使命を叶えてくれるかもしれんの」


 そう言って再び階段を登り始める。しばらく階段を上ると祠の鳥居がその姿を見せてきた。


 街の人はずっと祠と呼んでいるが実際は祠よりは大きく、神社よりはやや小さい木造の建物で、長年人によって定期的に掃除をされてきた社とその周囲は綺麗に整えられている。


 鳥居の前で一礼をし、鳥居をくぐり立派な社の前に立つと、二人並んで手を合わせて首を垂れながら街の繁栄と旅の無事を祈った。


 そうして頭を上げると社の中が光出し、カイとキクの前に白く大きな狼が姿を現した。


フェンリルだ。


「白狼様」


 キクが言うなりその場に跪くと、カイもすぐに同じ様にその場で跪く。


『頭を上げるが良い』


 脳内に響く言葉。言われるまま頭を上げると跪いている二人の前に立っている白狼が


『キク。この祠の巫女として毎日参拝し村の安全を祈願し続けている。大したものじゃ』


「ありがたきお言葉」


 再び首を垂れるキク。白狼は次にカイを見ると、


『お主も街一番のシノビになって旅立つ時がきたか。お主が街の外に捨て置かれていた時から見ておったが立派に成長してくれた。親代わりに育てたクルスとユズに感謝するのだぞ』


「わかりました」


 そう言って首を垂れたカイに、


『お前の使命は簡単ではないぞ。厳しい旅になるが全力を尽くすがよかろう』


「わかりました。必ずや見つけ出してここにお持ちします」


 頭を下げたまま応えるカイ。


『うむ。我はお前に期待しておる。なので旅の助けになる物を我から与えよう』


 そう言うと、白狼とカイ、キクの間にある石畳の上に木箱が現れた。


 言われるままにその木箱を開けると、中には日本刀と小太刀そして腕輪が入ってる。


『手に取るがよい。日本刀は村雨、小太刀は金糸雀という。いずれも名刀と言われている刀じゃ。これを持って旅に出ると良いだろう。この2つの刀を使いこなすのは簡単ではないが、お前の腕なら問題なく使いこなせるだろう』


 恐る恐るカイが2本の刀を手に取る。


「こ、これは…」


 まるで手の平に吸い付く様にしっくりとくる2本の刀。隣で見ているキクも


「見事なものじゃ」


 と2本の剣を持ったカイを見ている。


「この刀を私に?」


『ああ。好きに使ってよいぞ。それとその腕輪も使ってよい。腕にはめるが良いだろう』


 腕輪を左の腕にはめると、自動でサイズが調整されたのかスッとカイの腕にはまった。


『この世界でアイテムボックスと言われている物だ。中には生き物以外は全て容量の制限なく納入できる。そして中では時間が止まっておる。食べものを入れても腐る事もない。大陸中を旅するお前には必要な装備だ』


「何から何までありがとうございます」


 首を垂れ、白狼に謝意を示す。


『自分の信じる道をいくがよい。それが目標に到達する一番の近道だ』


 そう言うと白狼の身体が光出して、次の瞬間にはまるで何もなかったかの様に

静かになった。


「白狼様…私も見るのは久しぶりじゃ」


「あれが…この山の守り神の白狼様…」


 白狼様に初めて会ったカイ。


「そうじゃ。私らアマミの守り神じゃ。今日はカイとここに来てよかったわい」


 カイは今の出来事が夢じゃないかと思ってもみたが、両手にはしっかりと刀と小太刀が握られ、銀色の腕輪が左の腕についている。


「それにしても白狼様に好かれるとはの。カイの今までの行いが良かったからじゃろう」


 キクはカイが持っている刀を見ながら言う。


「ありがとうございます」


 その言葉に頭を下げるカイ。


 家に帰って両親に白狼様と会って刀や腕輪を貰ったことを話すと最初はびっくりして聞いていたがカイの話が終わると、


「白狼様から直接刀や腕輪をいただくなんて初めてきいたわよ」


「それだけカイに期待しているということだな。白狼様や村の人の為にも責任は重大だぞ」

 

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