第2話 高校生の男の子2
「そのままの意味ですよ。それ以上でも以下でもありません。」
何でもないことを言うように、営業マンは口にする。だが、青年からすれば当然、何も理解できない話だ。
「いや、もっと説明してください。意味が全く分かりません。」
「あなた、さっき死にたいなと思っていませんでした。いえ、さっきだけではなく、ここ最近ずっと。」
「それは……。」
青年はなぜ、そんなことを知っているのかと疑問でいっぱいになった。誰にも言っていないのにもかかわらず。
「間違いないでしょう?私には何でもお見通しですからね。」
「……だったらどうなんですか。」
青年は営業マンをにらみつけた。煽るような物言いに不快感を感じていた。
「そんなに睨まないでください。私はあなたのためを思っていってるんですから。」
「……。」
話が進まない、と青年は思った。さっきから、自分の態度だけを気にして、こっちの質問になかなか答えてくれない。……警戒されるのなんて織り込み済みのはずだろうに。
「なので、ゆっくり私の話を聞いて頂きたい。」
「俺、帰宅途中なので、手短にお願いします。長くなりそうだったら、勝手に帰りますから。」
「ありがたい。私の話を聞かずに立ち去る人がほとんどですからね。なに、思っているほど悪い話じゃありませんよ。」
「はぁ。」
今までの話の流れで、自分にとって良さそうなところが一つでもあっただろうかと、青年は思った。絶対に悪い話だろう。
「この世界からいなくなりたいと思いませんか?」
およそ話のスタートとは思えない切り込み方を、営業マンは口に出した。
「そんなこと……。」
「ない、はずありませんよね?全く上手くいっていないのに。」
「……何がわかるんですか。あなたに何が分かるんだ!」
営業マンの全てを見透かしたような物言いに、ついに青年は切れた。誰だって、初対面の人にこんなことを言われると、不愉快になるだろう。
「分かりますよ。親は厳しく勉強しろと口うるさい。友達と遊ぶことも許されず、塾ざんまい。たまの塾がない日もまっすぐ家に帰ることを余儀なくされる。もし、遅く帰ろうものなら、教育という名の体罰が待っている。誰とも遊べないから、友達もおらず、学校では常にひとりぼっち。と、そんなところでしょうか。」
「何で……。」
青年は驚きすぎて開いた口がふさがらない。何で知っているんだ、と叫びたかったが、驚きが強すぎて言葉にならなかった。ただ、そんな青年を見ても営業マンは不敵な笑みを崩さない。
「ずっと、見てきたからですよ。ここ1ヶ月ほど、ずっとね。」
「……。」
それを聞いた青年は無言のまま走り出していた。理解が追いつかず、パニック状態になったのだろう。仕方ないことだ、誰だってこんな末恐ろしい人からは逃げ出したくなる。
「また、明日ですかね。」
青年の後ろ姿をみながら、営業マンはフッと息を吐き、どこかに消えていった。
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