第10話 魔法はもう使えない

 売り上げを増やす工夫を考える。マスターにすぐばれた。


「なにもしなくていいよ、ここがなくなっても君の居場所はちゃんとなくさないからね」


 僕は男だ、女のように弱くはない。居場所など自分で守れる。


 人間に声をかけてみた、中にはうまそうな血の女もいる。食料があっても、目の前でうまそうなやつがいりゃそりゃ襲う。それでも誰にも見られないよう、店から遠く離れて最低限。そんなことをこの僕がした。


 ただ店に連れて来れなかった。ここではたむろするモンスター達を追い払う必要がある。魅了の技は見せ物じゃない。僕は結局あの空の上の吸血鬼でしかなかった。一族が廃れた設定、なにより作り物だと身をもって知ったせいもある。


 悩んでいたら常連の女が何人か増えた。魅了を使っていないため最初は戸惑った。


「悩み事?お姉さんが聞いてあげる」


「お前より年上だ!」


「すいません、彼は従業員ではなくて…」


「あ、すまん悪かった」


「謝らないで!この子どっから拾ってきたの!?」


「知り合いの子です、二十歳でお酒も飲めますよ」


「飲ませていいの?」


「ああ、酔わないけどな」


「名前は?」


「きゅ」


「きりゅう!キリュウ君、ね?」


「ああ」


「かっこいいねー!」



 そんな騒がしいやりとりにも慣れた。細々と店は潰れずにいた。


「どうしようキュー様!」


 魔女が突然やってきて言った。魔法が使えない。みんなが困っちゃう。それはあわてふためいていて、マスターは魔女の背中をさすった。ボロボロ泣き出す。ああこんなにも早かったのか。主のお話とやらはもう消滅したのか。


「僕は大丈夫です、食糧も自分で確保できますし」


「え?人襲ってるの?」


「殺さない程度にな」


「あんたの心配じゃないよ!姿変えられないやつは今頃殺されてんじゃないかって…うう、それすら確認できない、なんて」


 あの魔女がこんなにもうろたえて、泣いている…初めて見る。かわい、ってちょっと待て


「なんであなた、そのままなんです?」


 若い女はハッとして、しわしわではない両手を見つめる。

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