第9話 魔法を使わない方法

 この間来た魔女はさらに若い姿でファミレスでウエイトレスをしていると言った。魔法を使わないように仕事をするのが大変だそうだ。



「グラスが落ちそうになって、魔法で止めたわけ」


「別にいいじゃないですか」


「見られて超能力者だって騒がれて、面倒で記憶を消した」


「あーめんどくさかったんですね」



 カランコロン


「いらっしゃいませ」



 人間の客が入ってくる。化け物達は察知して人間のフリを始める。僕らもそうする。おっと今日の客は鋭い人みたいだ。



「先代がやってたときはこんな店じゃなかったぞ」


「申し訳ありません。夜はお酒を提供するようにして」


「そういうこといってんじゃねえよ。分かってんだろうが、うようよと、あんたが寄せてんだろ?」


「ご注文されないのならおかえりください」


「客選ぶってのかい」


「お店を選んでいただいて結構ですよ、見ての通り満席ですので」



 魔女がちょっと懐かしい面子を椅子に連れてきた。小鬼たちが嬉しそうにはしゃぐ。だが一気に席が埋まった様子をみて、じじいは腰を抜かしたようだ。


「人を襲うような方々ではありませんし、偏見もありません。あなたのような器でもない。まあ正直困ってますが」


「わかったよ、おっかねえなあ。どうせ潰れちまうだろ」



 カランコロバタン


「もう少しあいつが帰るのが遅かったら喉元掻っ切ってましたよ」


「お、我慢したの」


「ありがとね、魔女さんもみんなも、キュー様も」


「ん、今度から来れないようにしておくか?」


「いいよ、父さんの…昔の常連さんだったから。それに潰れそうなのはたしかだからね。それで飲みに来てくれたのかも」


「え、ここなくなるのか?」


「ふふ、すっかり気に入ったんだねえ」


「違います!」


「キュー様!」


「うるせえ!」


「きゃーこわーい」


 小鬼たちがまた騒ぐ。小鬼のひとりがマスターに質問した。



「どうして吸血鬼様、キュー様になったの?」


「きゅうけつきさまが長いから、だよ?」


「私もそう呼んでいい?」


「ダメ、言葉を略する人間のくせがついたら大変だぞ、小鬼」


「はあい」


 マスターがふふふと楽しそうに笑う。小鬼ちゃんたちに名前ついてないの?魔女も賛同して名前をつけようかと話す。もう今いる人間たちにつけてもらったと、自己紹介騒ぎになる。自らの稼ぎがあるものは代金を支払い、ジュースを飲んでいる。



「…魔女さん、あなたこそ名前あるんですか?」


「そうさね、ないと不便な世界だからね」


「教えてくれないんですか?」


「ふふ、ここじゃないと魔女さんって呼ばれないからね。あんたもキュー様が嫌になって、ここが潰れてどこかで働きたくなったら名前、つけてもらいなよマスターにね」


「ここは、潰れません」


「ふふふ」



 僕だって自分の居場所くらい守れる。

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