第6話 もしも魔法が使えたのなら

 もしも魔法が使えたのなら

 僕はその本を読んでみることにした。めくってみると、本当に僕の住んでいる墓地や魔女達が集まっている広場、家なんかも挿し絵が入っている。今僕が立っているここを知っているんだ。いいや作ったのか。そして僕のこの性格も、誇り高き吸血鬼の生き残りの青年と書いてあるとおりだ。

 僕は普段本なんか読まないからすごく時間がかかってしまった。それに1巻からじゃないし、僕の出てる巻だけだし。はじめはあまりに知っていることが多くて驚きながら読んでいた。しだいに気にならなくなった。それよりもこのお話の魔女の師匠の生き方が気になっていく。主人公の人間の男が僕と魔女を恋人だと思うシーンがある。その勘違いにお互いに盛大に笑いこの男をバカにする。そこだけ、僕はこんな下品な笑い方はしないな、とそう思った。

 彼が本当にお話の通りにこの世界に来たのだとして、どうして僕は気づかなかったのだろう。魔女界隈でも隠したい話だったんだろうな、たぶん。


 そして本を読み終わるころに、大家からの催促のはがきが来た。本当は黒猫が目からスライドショーを流しやがった。僕の墓地に。



「さあて吸血鬼、お前さんだけみたいだよ。ここに残るのは」


「ひとりくらいいないんですか?僕みたいな物好き」


「いないね、話のできないやつばっかりさ」



 そういうことか、僕のように説得できるようなやつばかりじゃない。



「しかたないから時々は見に来てやろうとは思ってるんだよ?」


「いいや、僕も行くよ魔女さん。連れてってくれます?」


「お?何がおまえさんを変えたんだい?話のできないやつと思われたくない?」


「いいえ、もう少し本を読みたくなって」


「本?」


「また貸してください」



 僕は黒猫を抱きかかえると、地面を蹴った。魔女のいる広場へとひとっ飛びだ。突然現れた僕に驚きもせず、魔女は想像どおりのニヤついた顔をしていた。だけど僕好みの黒髪の美女だったから思っていたより嫌な感じはしなかった。黒猫は両手から飛び降りて魔女の足元へ擦り寄った。


 もしも魔法が使えるのなら、僕は死んでしまったあの作者に僕の笑うシーンを書き直させる。それを魔女に言ったら死者を蘇らせたら魔力を吸い取られて骨と皮になるよ。もっとマシなことに使いなよ、と鼻で笑われた。魔女の笑い方ほんと嫌い。

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