第5話 魔法なんていらない

 世界はいつなくなってもおかしくないんだ。魔女は少し笑ったようだった。

 僕はそれを知ってどうしたらいいんだ。


「あんたには知っていて欲しかった、私と一緒は嫌だろうが、同じあんたには」


「たしかにあなたと一緒は嫌ですが、その話が本当ならきっと一緒に消えるんでしょうね」



 人間の寿命は短い、短い命で必死に生きている。僕らの食糧だ。とても美味しい。僕たちは長らく生きている、それも当たり前ではなくなった。いや、本当に僕たちは長く生きていたのだろうか?



「さて、おまえさんはどうするかね?人間界でも滅ぼす?」


「滅ぼしてはもったいない!そんなバカみたいに暴れるタイプじゃありませんよ」


「そうか。そう言うと思っていた。私は弟子をとったんだ師匠を真似て」


「いいですね、その弟子とやらはどこに?」


「生きている、下で今日もあくせくと働いてる、魔女には全然なれそうにないけれど」



 楽しそうに笑う魔女、なるほど人間が魔女に?手下でもなくそんなのそれこそおとぎ話だ。



「それは…なんとも理解しがたい」


「あんたも下に行くかい?」


「それが話の本筋ですか?嫌な女だ」


「話をしにきたんだよ、吸血鬼。私はこの世界が続く限り君らと仲良くしたい。ただここがなくなれば、下に行くしかないだろう?人魂にはさ迷ってもらうことになるが」


「僕は」



 僕の爪の攻撃など魔女に効かない。だがつい出てしまった、手を彼女は避けなかった。



「痛いじゃない」


「バカにしてるのか、僕は人間じゃない。仲良くする気もない。このまま消える方がずっといい、誇り高き吸血鬼のままな」


「それがおまえのこたえか、いきたいとは思わないか」


「行きたくないと言ってるだろ」


「生きながらえたくないのか。永遠の命に若い体。魔女はずっとそれを求める醜い女だ。そうじゃないものに師匠はうまれかわった」


「なにがいいたい?」


「魔法なんていらない、生まれ変わりたい」


「…勝手にしてくれ、なぜ僕に言うんだ。ほんとにおまえは嫌な女だな」


「寂しく、なったのかもな」



 魔女は流れていた血を手をかざして止め、ついでに髪型も編み込みの茶髪にかえてから言った。



「下でも人間と仲良くする必要はない、ここと同じように暮らせるよう調整中だ。もう一度考えといておくれ、引っ越しのお知らせをしにきた大家だと思って」



 そして僕がなにかを言う前に消えた。あとから急いで猫が追いかけていった。

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