第32話
死んだ後に追加された設定だとしたら本当に分からない。
……死ぬ前に『定世界シリーズ』で最初に出されたゲームのリメイクや新作の話をどこかで耳に挟んだ気がするのが……非常に不安を煽る。
『魔眼』と呼ばれる能力者達は、いわゆる複合能力者なのだ。
その力を使う時に瞳が位階によって差異はあれど輝くから『魔眼』。
上から『聖獣眼』『幻獣眼』『精霊眼』『妖精眼』『鬼眼』『霊眼』『氣眼』『力眼』『才眼』『英眼』の十の階位がある。
位階が上であればあるほど無意識に力を使っている関係で瞳が常時輝いているのが特徴だろうか。
『魔眼』の能力発動は、通常の場合数えで五歳に行われる『魔力能力鑑定』を受けた後だ。
私の皇妃教育の中での知識によると、『彩神印』の容姿を持って産まれた存在は最低でも上から三番目の『魔眼』の位階である『精霊眼』を必ず持っているらしいが……だとしたら……『定世界シリーズ』の主要登場人物はそれ以上を持っている確率が高いと思った方が良いのだろう。
注意してし過ぎるくらいで丁度良い。
私がこれからしようとしている事を鑑みれば……当然主要な登場人物含む全ての人達に目を配り動きを注視する。
皆を助けるのだからこれくらいはしなくては。
そう自分に言い聞かせて言い聞かせて……優しく彼に届くよう気を付けつつ口を開いた。
「オルフェウス、訊きたい事があるのだけれど……良いかしら……?」
私に声をかけてもらえたことが宝物のように顔を綻ばせるオルフェウスを見ていると……不安で不安で仕方が無くなる。
この子の置かれた状況は一体どうなっているのだろう……?
お兄様……否、今は父になるあの人は……?
前世での弟のジーン、友人達、仕えてくれていた全ての存在。
――――アイオーンは……
家の状態は物語通りの最悪の状況なのだろうか……?
それを確かめるためにも、先ずは情報だ。
「姉上。オルフェとお呼び下さい。家族はそう呼びますから。ご質問には答え得る限り精一杯頑張ります!」
真剣な眼差しと表情にこちらも意識を引き締める。
……”家族”という言葉を特に強調するオルフェに痛ましさを感じた。
やはり屋敷の空気同様に……肌が粟立つ程気分が悪くなる様な目に遭っているのだろう。
なんとしても解決して見せると改めて決意し、優しく聞こえる様に注意しつつ口を開いた。
「私がどれくらい眠っていたか教えてもらえる?」
オルフェは綺麗な顔を悲痛に歪めながらも答えてくれた。
「六年……眠っておられました」
重々しいオルフェの声にさもありなんと納得する。
帝国民にとって生涯を決めると言っても良い、数え年で五歳の時に必ず調べられる『能力魔力鑑定』を私は受けていないということになるのだろうから。
特にアウレウス神聖帝国の皇族、貴族であれば、数え年で六歳になると帝立オルビス魔法学校の初等科へ入学していなければならないのを鑑みるに、大変よろしくない状況だ。
精霊の気配から察すると季節は既に初夏と言ったところ。
であれば――――何とかなる!
私の諸々は一切合切無視して動くと決めてベッドから降り立ち、心配そうに見つめるオルフェへと微笑みかけてから自分の唇の前に人差し指を当てる。
「オルフェ、お願いがあるの。私が目覚めた事は黙っていてくれる?」
彼は目を白黒とさせていたけれど、私が何かをする気なのだと察したのだろう。
厳しい表情で首を振る。
「いけません、姉上。今この屋敷には――――」
「”魔女”がいるのでしょう?」
オルフェの言葉を遮り凛然と言葉を紡いだ。
”魔女”もしくは”悪魔”とは、『神の恩寵持ち』の中でもその力を犯罪や己の悪意に使う存在の呼び名。
本来私にとってそう誰かを呼ぶのは非常に抵抗がある。
けれど敢えて今は”魔女”と言い切った。
今より一つ前の人生の最期の方で散々私はそう呼称され続けたのを思い出す。
だからこそ私は……彼女を、メリッサを”魔女”と口にすることで敵であると心に刻み込まなければいけない。
そうしなければ私は――――……
自分の弱さに心底反吐が出る。
大丈夫。
大丈夫ったら大丈夫。
私は私がしなければならない事を確実に実行する。
言い聞かせて言い聞かせて言い聞かせた。
――――守ると決めたのだ。
例え手を汚そうと厭いはしない。
誰に誹られようと何だというのか。
それくらいでなければ……何一つ守れないのを知っている。
メリッサは既に私の親友を屠ったのだ。
お兄様を……今の父親にさえ害を及ぼした。
弟のオルフェが”家族”に拘っている点からも決して看過できはしない。
大きく息を吐いた。
それから静かに目を閉じ、身体中に私の力を行き渡らせる。
外側に光が漏れないように執心しながら身体の内側へと力を全力で強引に、けれど繊細に注意しながら回し続けた。
目覚める間際に流れ込んできた『千里眼』からもたらされただろう情報は……おそらくアストラにとっては容認できない事だろう。
――――だが私にとっては福音足り得る。
光が体内を巡るのを感じながら瞠目した瞬間、私の身体は前の生で死んだ時の年齢へと成長していた。
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