第14話

 今更ながらに自分の身体が光に包まれている上に三回目に死んだ時と同じくらいにおそらく成長しているとは気が付いたけれど、兎に角現在私が知った情報を伝えることに集中しないと……!

 多分間違いはないはず。

 私の能力が生まれ変わった事でリセットされ、衰えていたモノが治ったのであれば。

 三回目の時、こういう感じにノイズが頭に響き渡った時に入ってくる情報は、いつも必ず正しかった。

 この感覚はいつものソレであり、死ぬ前の最後の状態だったと思う。

 能力の低下していった時の感触とは違ったから、大丈夫。

 ……この力故に、”予見の巫女”だとか”千里眼の聖女”なんだとか言われるようになったのだ。


 ――――その能力が段々衰えて行った原因は……


 ……――――考えない。

 それは今は置いておいて、声が届くのだから言うだけ言ってみよう!

 どうにか聞き届けて欲しいと願いを込めて。


『貴方は、アルゲンテウス大公家の血を引く子ね? 今の大公殿下に伝えて。ルーフス公爵家は嵌められたの。計画した相手はおそらくこの帝国の人間ではないわ。黒幕はアルゲンテウス大公家、そして最終的にはアウレウス神聖帝国の崩壊が狙い。既に不満分子を集めているかもしれないわ。ただルーフスを貶める事でより不満分子を集める予定だったからあまり多くは無いかもしれない。ここでルーフスを罰するのは罠にかかるも同然。それをどうか皇帝陛下にお伝えして。。それで分かって頂けると思うのだけれど……」


 銀の髪に青緑の瞳をした峻厳な容姿の少年へと必死に語りかけた。

 しかし段々声に力が無くなって行く。

 私の最期を思い出してしまったからだ。

 ――――嘘を吐いた事はない。

 千里眼で見た事では何一つ。

 ……ただ、処刑された私の話を今の大公殿下が聴いて下さるかは未知数。

 私の罪状は……

 未だに怖気が走る。

 考えたら壊れてしまう。

 だから……


 そう、それもあるから、非常に分の悪い賭けだ。

 それでも全く勝算が無い訳ではない。

 おそらくセバスなら信じてくれるはず……!


 私の周りに居た人達は全員最期まで信じてくれていた。

 だからこそ私も何とか応えたかったのだ。


 現在誰がアルゲンテウス大公となっているかは分からない。

 それでもその大公の一番近くにはセバスが居るはずだ。

 これは変わってはいないはず。

 ……セバスの父親の爺も無事に治っていたら、もっと安心なのだけれど……


 祈る様に、私は思わず胸の前で両手の指を組んでいた。


「……姫様、御安心ください。現在のアルゲンテウス大公殿下は兄君で在らせられるアデルバート様でございます。姫様の頼みをアデルバート様が断った事がございましたか? 何より我が父がさせません」


 セバスが今にも泣きだしそうな、けれど心底嬉しそうな声音で言ったそれを聞いた途端、安堵が全身を駆け回って暴れまわる。


『……ああ、本当に良かった……! お兄様も爺も無事に快癒なさったのね……本当に、本当に良かった……!!』


 心から思う。

 良かったと。

 それだけしか考えられない。

 私が死ねば快癒するとは千里眼で知っていた。

 だから四回目に転生した時、死んでからどれだけの年月が経っているかは微塵も分からなくても、それでも三回目に自分で選んだ道に後悔は無かったのだ。


 ――――けれど、けれども、何か情報だけでも欲しかった。

 知っていたけれど、信じていたけれど、それでも自分の目で確かめたかったのだ。


 ……お父様は……救えなかった、から……


 考えてみたら、セバスより重体だったオースティンやお兄様が無事だったのだ。

 セバスの話から爺も現役なのだと思いたい。

 ならば後遺症なく治ったのだろう。

 そうであって欲しい。

 お兄様が無事であれば、弟のユージンも大丈夫。

 きっと大丈夫だ。


 それにしても、ルーフス公爵家にオースティンが居る事が当たり前すぎて、彼も快癒したことにすぐに気が付いていなかったとは……

 転生したての上に攫われたのもあって、私も実はテンパっていたのだろう。

 オースティンも治ったのだから、他の幼馴染達や友人達も無事と判断して良い、と思うのだ。

 だとしたら……

 ――――考えない。

 何も考えない。


 それでも脳裏を過って行く。

 アイオーンが皇帝陛下なのだとしたら、彼も快癒したとみて良いのだろう。

 そして私の処刑を命じた、婚約者でもあった皇太子殿下は亡くなったのだ。


 思考の迷路に入り込みそうになっていた時、幼いながら凛とした声が響く。


「お初にお目にかかります。デュランダル・アイテール・アルゲンテウスと申します。姫様、お任せください。この件は全権を任されております。しかと大公殿下にお伝えいたします」


 私を怖気づきもせずしっかりと見ながらの宣言を聞いて、今までどこかにあった緊張がほぐれていく。

 それと同時に、意識も闇の中へとずぶずぶと引きずり込まれるように沈んで行った。

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