第11話

 目の前の、どこかで確かに見た事がある少年、”レギオン”の年齢は幼児と言っていいモノ。

 だが私の記憶から湧き上がってくる彼の姿は――――


 十代後半か二十前後にも見える、眩い金の髪に綺麗な群青色の瞳を湛えた妖美な男性。

 少年の域を出るか出ないかといったところだ。


 そして浮かんだのは――――

『トロイメライ~消えない宿命~』というタイトル。


 ……タイトル……?


 自分で考えておいてなんだが、って何……?

 けれど確か、――――


 いやいやいや……、漫画の登場人物がここにいるとしたら、いるとしたらだ、一体全体どういう事だというのだろう……?

 漫画で描かれていた世界にいるのだとでも……?

 しかもこの漫画を読んだのは一度目の人生でだった。

 もうは前。

 内容も朧気。

 であるにも関わらず、彼があの物語のレギオンという男性だという確信はある。

 何故かあるのだ。


 ただ名前。

 もっと短かった気がする。

 そう、登場人物の名前はもっと短かった。


 ――――ああ、けれど、


 これは


 けれど、だとしたら、どうして三回目の人生の時に何故気が付かなかったのだろう……!!!


 ――――否、二回目の時だ。

 そこが分水量だった!!!


 二回目の時の私の名前。

 ルカ・レギナ・アイテール。

 そう、付いていたではないか!!!!


 ――――私が、もしかしたら知っている物語とこの世界が類似しているかもしれない、そう考えもつかなかった最大の理由。

 おそらくは紫苑の名前。

 二回目の時のだ。


 シオン・レグルス・アイテール。


 これが私の記憶の中の物語とは違った。

 だから思いもよらなかったのだ。

 そう、確かを通して――――


 ……シリーズ……?


 ――――ああ、そうだ、そうだった。

 この物語は色々展開されていたはず。


 一番最初は漫画と小説だった。

 同じ世界の出来事を、主となる登場人物を変えて描いていたと記憶している。


 漫画と小説両方に描かれていた人物も複数いたけれど、それぞれの主人公の主観や知っている事の違いでまったく印象は異なっていた……はず。


 ……シリーズにゲームもあったような……

 漫画とも小説ともやはり主人公は違って、異なる展開になった記憶が朧げにある。

 選択肢を選ぶのは自分で運命を決定した感があるからか、とても人気だった……かもしれない。

 ただ全編仄暗い印象だった……様な気がする。

 BADENDは非常に多いし大抵無残な事になっていた……と思う。


 そう、確かノベルゲームで、攻略対象のTrueENDにたどり着いた後に新たな攻略対象が解放される仕様だった……はず。

 ……いわゆる乙女ゲームの類だった……気がする。

 レベル上げやパラメーターを上げる必要も無かったのだが、代わりに選択肢が鬼畜だった……かもしれない。

 そうだそう、選択肢も大概だが選択肢を出すのも大変だった……はず。

 ゲーム中の暦や時間で行かないといけない場所だとか、その日の朝だけ、夜だけの選択肢や、加えて会った場所と時間で選択肢が違った……覚えがある。

 その上でだ、大団円は漫画も小説もゲームも無かった。


 ――――そう、全部綺麗に丸く収まってハッピーENDは皆無だったのだ。


 何周も周回してもだ、結末は大きくは変わらない。

 要はどうやってそこにたどり着くか、というのが大元なのだ。

 勿論、攻略対象によってはこのシリーズの物語の根幹にかすりもしないエンディングもある。

 TrueENDでそうだったキャラクターもいた。


 その人物にとっての人生=物語が、世界に重要とは限らないというのは納得だったから、私はこのシリーズが好きだった……と思う。

 だからこのシリーズをずっと追っていた。


 派生でこの世界を舞台にした物語が色々展開されていた記憶がある。

 それは漫画だったり小説だったりゲームだったり。

 シリーズの大元には一切関わらない物語も沢山あった。

 主人公は貴族だったり平民だったり、他の国の人間だったこともあれば別の世界から召喚された人や転生者だったことも。


 それぞれがこの世界で確かに生きている様な気がして、私はこのシリーズを好んで集めていたのだろう。

 これは間違いなく私の魂が憶えている。


 レギオンという存在は、このシリーズの中でも中心に位置した……と思う。

 主人公の一人でもありこの世界の基幹に関わる存在……だったはず。


 ……あれ? レギオンがこのルーフス公爵家に匿われているのは物語通りだ。

 けれど、アルゲンテウス大公家の血を引いた赤ん坊と出会うという話は無かった。

 無かったはずだ。


 ……私が忘れているだけ……?

 それとも、四回目の人生での私は、アルゲンテウス大公家の血を引いてはいない……?


 ――――否、そもそもだ、レギオンが幼少期に赤ん坊に自分の秘密を話すという展開は記憶にない。


 彼に、レギオンにとってこのという行為はとても重要だった……はず。

 主人公の一人でもあった物語、『トロイメライ~消えない宿命~』という漫画でも、物語の最後の最後、ラスボスと対峙した時にようやく明かしたような話だった。


 ――――これはどう判断するべきだろう……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る