第10話
サリオス少年は、幼いながら妖姿媚態な整い過ぎているその顔に、どこか歪な笑みを浮かべ、瞳を閉じる。
次に彼が目を開けた時には……
――――鮮やかな金の髪に群青色の瞳。
彼の色彩。
金系の髪に紫系の色が入った瞳。
それは――――
アイテール神王国の王族の『彩印』。
アウレウス神聖帝国の皇族と言えども稀にしか現れない、絶対の皇帝資格。
持って産まれた者は魔力はおろか寿命さえ、持たずに生まれた者とは桁違いだという。
――――私が皇太子の婚約者にならざるを得なかった原因。
アルゲンテウス大公家の『彩印』は銀系の髪と青系の瞳。
それとは違う金系の髪と瑠璃色の瞳にも関わらず私が特別扱いされた理由。
――――アイテール神王国の王族の『彩印』は特別だ。
どの一族であろうとも、その『彩印』を持って産まれた子供はアイテールの王族として扱われる。
能力、魔力、寿命にアイテールの王族の特徴が現れるのだ。
だからこそ、金系の髪に青紫系、赤紫系等、紫系統の色が含まれる色を瞳に持って産まれた場合だけは、守護を喪ったのではなく、むしろ神に祝福されたと見做される。
加えてこの特別な『彩印』を指して『彩神印』と呼んで破格の扱いなのだ。
髪が鮮やかな金系でそれが強烈な髪であればあるほど、紫が激烈に出た瞳であればあるほど、アイテール神王国の王族としての血が濃いとされる。
勿論、それ以外にもアイテールの王族として血が濃いかどうか調べる術は『神判』といってある。
あるけれど、『彩神印』を持って生まれた者が『神判』に不合格になったという話は、少なくとも私は知らない。
当時生まれた時から皇太子妃として、未来の正妃としての教育を受けていた私がだ。
では、彼は――――
「――――……名前。本当のオレの名前。聴いてくれるか? 誰にも言わないで欲しいんだ。秘密にしてもらわなきゃいけない。それでも聴いてくれるか?」
……どういう事か首を傾げる。
ルーフスほどの一族に『彩神印』が誕生したというのにそのことを秘匿している……?
流石に皇族に生まれなければ皇帝にはなれないけれど、一代限りの大公位を授かれるはずだし、皇族との婚姻が決定していたはず。
ルーフスの公爵位と兼任するのが常識だと思っていたが……
『彩神印』の持ち主が出た一族はその後も安泰なのだ。
だからこそ一族の当主になる決まり。
分家の、それも末端だろうと本家の爵位を継ぐはず。
私の当たり前とは現在は違うという事だろうか……?
なんだか浦島太郎な気分だと内心思ってしまった。
そう思わないといけないと、何故か魂が囁く。
……彼の容姿に既知感を感じているなどとは決して考えてはいけないとも、眩暈がするほど強烈に告げてくる。
兎に角それは今は置いておいて、不安そうに私を見つめる彼に約束は守るし名前も聴くよと合図するために、握った指を一瞬強く握ったら、彼も綺麗で幼くとも妖美な容貌に嬉しそうな表情を浮かべながら握り返してくれた。
「――――……ありがとう。オレの本当の名前は”レギオン”。”レギオン・オプティマス・レグルス・スッケーソル・プリンケプス・アイテール・ルーテウス”。ルーテウス大公家の唯一の生き残りだ」
彼の言葉を咀嚼して理解する事に全力で頭を酷使する。
結果出てきた答えに眩暈がした。
――――ルーテウス大公家。
憶えている。
私の三回目の人生の時にも在った大公家だ。
基本的に大公家を名乗る一族は皇族のみ。
それより劣る皇族は公爵家であり、皇族公爵と呼ばれる。
次いで家臣の中で破格な功績があったからこそ特別に叙せられた臣民公爵と続くのだ。
ルーフス公爵家は臣民公爵の一族だ。
だというのに、彼はルーテウス大公家の、皇族の一族だという。
……加えて、唯一の生き残り……?
言い方が不穏だ。
とても不穏だと思う。
これは――――
「ルーテウス大公家というのはね、皇族だよ。オレ達がいるアウレウス神聖帝国という国を統べている一族。この世界を創りたもうた御方で創造主であられる神の血が世界で最も濃い一族。でもね、沢山のアウレウス神聖帝国の皇族が殺されたんだ。多くの国も、その国の人間も、神の血を引くその国の王族も滅ぼされた。誰がやったと思う?」
歪んだ笑みだ。
サリオスではなく、レギオンというのが本当の名前の少年。
幼い姿に不釣り合いな、美しすぎるも禍々しい笑み。
……ああ、違う。
笑みの形に顔を歪めているけれど、怒っているんだ。
憎しみが心の根っこに絡みついている。
消えない憎悪の炎がその瞳に揺らめいているのだと、どうして気が付いてしまったのか……
知らない方が、良い事だ。
絶対に知らない方が私にとっては良い事。
そう私の内側の、魂とでも言うべきものが囁いている。
本当にこういう勘は外れた事が無い。
……残念な事に。
「――――それはね、現在のアウレウス神聖帝国の皇帝、アイオーンだ」
その言葉に頭を思い切り殴られたような衝撃があった。
けれど、だからこそかもしれない。
幸いな事なのかどうかは分からないけれど、雷に全身が打たれたような激烈な打撃を受けてしまった私の魂は、”レギオン”という名前の幼いながら妖美な容姿の少年が、金の髪で群青色の瞳である事柄を切っ掛けにしつつ、止めの”帝国皇帝”アイオーンという名前から、あり得ないと切って捨てられるほどの突拍子もない情報を垂れ流し始めたのだった。
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