第4話 回想 4
私の家の裏には森に通じる道があり、そこを通ってから木の実がある場所へと取りに行ったから、慣れた道でいくら慌てていても迷う事もなく、しばらくしてたどり着いた家には……
炎に包まれた家には――――……
……首が無いけれど、腹が裂かれているのは……母だろう。
美しい金の髪も緑の瞳も。
それらの収まった優美な美貌はどこを探しても無い。
……腹を裂いておきながら更に念入りに壊されたらしい身体。
白濁した吐き気を催す臭いがする液体が全身にかかっている。
拭かなくちゃと無意識に近づいた時気が付いた。
……床に……床に、もうじき産まれるはずだった弟の残骸がある事に。
何も感じられない程、私の脳味噌さんは強制終了して壊れるのを防いでいるのだろう。
淡々と父は何処かと見れば……壁に無残に磔になってこと切れていた。
……楽には殺してもらえなかったのは、見れば分かる。
ワザとだろう、片目だけが遺されていた。
他の顔の部品は全て潰されているのに。
手足の部品さえもいくつかかけていたから。
血と精液の匂いに酔いそうになりながら、フラフラと家の外へと出て行った。
思考回路は完全に機能停止して行方不明。
だが一つだけわかる事。
――――私は、シオンを守らなければならない。
シオンは里の外へと出ていたはず。
戻っているかどうかを確かめなければ。
行かないと。
シオンの家へ。
何処かで聞こえる絶叫や悲鳴、嬌声。
鉄錆の臭い。
血の臭い。
炎の熱さ。
破壊される音。
体の部品が無くなる音。
無視して進む。
シオンの事だけを考える。
目の前の惨状は後で考えないと進めない。
知らず顔を濡らしていたモノも、嗚咽をもらす口も、今は無視だ。
黙々と進む。
視界に入ったモノがどういう状況かは理解はしても考えない。
途中。
シオンの家へと行く途中。
私へと殺到してくる下卑た表情の武装した男達。
それを見ながらふと脳裏に過ったのは、この私達が住んでいる里のこと。
ナニカから隠れて住んでいたのだろうか……?
そして誰かに見つかってしまったから……
考えながらも私は何をすればいいかはわかっている。
男達とは別方向にいる、シオンの姿を既に目に留めていたから。
良かった、まだ生きていたと心底安堵して。
一度目を閉じてから、眼でシオンに逃げる様に合図を出した後。
――――首を、直ぐには死なないけれど確かに死ぬ程度に、常に持たされていた短剣に祈を込めて切り裂いた。
両親から言い聞かされていた事。
決して他所の人間に生きて捕まってはいけないと。
捕まりそうになったらすぐさま死になさい。
そう口を酸っぱくして教えられていた。
だからだろう、特別な短剣を渡されていたのだ。
その短剣で死ぬのだと決めて自らを傷つけたのなら、必ず死ねるという不思議な代物を。
理由は分からなかったけれど、シオンと私なら大丈夫なのだとそればかりしか教えてはくれなかったのは何故か。
その大丈夫な理由を知ったのは死んだ後。
何も知らなかったけれどその時の私は、兎に角時間を稼ぐつもりだったのだ。
シオンが逃げるまでの時間。
魔法が使えない現状でできる時間稼ぎ。
目の端に入れていたから知っている。
この人達は、死んでいたとしても死にたてなら気にしないし、瀕死の状態でも生きてさえいたら喜んで壊すのだ。
――――女を。
年齢は関係ないらしいのは確認している。
私の体で時間を稼ぐ。
そう里の状態を見ながら決めていたから。
長ければ長い程、シオンが逃げる時間になる。
だからあの人達が私を延々と嬲ってくれるのなら願ったり叶ったりだ。
幸いなのか分からないけれど、きっと短剣がしてくれたのだろう。
痛みは感じなかったし、意識は思ったよりも早く遠くへと旅立った。
心配事は、早過ぎはしなかったかという事で。
シオンは無事に逃げられたのかどうかだけが心残り。
だから、その後を私は知らない。
――――シオンがどうなったのか、それを。
次に意識が覚醒した時、目に入ってきたのはいわゆる天蓋。
動きがたい身体をどうにか駆動させ周囲を見渡すと、その豪奢でありながら品のある家具や部屋の装飾に驚いた。
まるで一回目の生を思い起こす様な見事な代物ばかり。
ああ、でもそうだ。
二回目の生の時も、身の回りの家具や道具はどうみても恐ろしく高価そうな品物ばかりだった。
では、ここは……?
ここはどこだというのだろう……?
見覚えが無い。
確かに見事なものばかりだけれど、どうにも一回目や二回目とは部屋の感じが違うと思う。
コンセプトが違う気がする。
それに今までよりもずっと手間暇がかけられている気もして困惑。
私にはまったくの未知に思える。
ならばと思い至った事柄に、私はガタガタと震えが沸き上がって止まらない。
私の中にあふれたのは、私はもしや死ぬのを失敗してしまったのかという事。
それと同時に思い出された男達の――――
半狂乱になった私の声が泣き声しか出てこない事に気が付く前に、心配そうな表情で私の顔を覗き込んだ女性に目を丸くした。
金の髪に緑の瞳が同じだった。
そして何より面影があったのだ。
二回目の生の時に母だった人の……
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