第3話 回想 3
二回目の人生において両親から常に言い聞かされたのは、『どんなことがあってもシオンを守るように』という事。
私には願ったりかなったりだったから否やは無かったけれど、その為に常に側にいる様に言われてしまったのは誤算ではあった。
両親はシオンが私の側に居たがるのをとても喜んでいたものだから、私としてもどうしようもなかったのだ。
今回の両親の事が大好きだったのもあり、出来得る限り願いを叶えたかった。
シオンのご両親まで私とシオンが仲が良い、というより一方的にシオンが側に居たのだが、それを本当に喜んでいたのも手伝って、私の定位置はシオンの傍ら以外なくなったのだ。
シオンの父親がどうやらこの里の長であったから、その意向は絶対だった。
その時の私の父もシオンの父の弟なのだから、長の一族という事になる。
だからだろうか。
両親から、シオンとこの世界で初めて逢った後に贈られた物。
一族の宝物なのだと言われたそれ等。
耳飾り、指輪、首飾り。
どれも金属部分は金色で、石の部分は紫とも青にも見える不思議なもの。
華奢で繊細かつ優美な細工が施してある、どうみても神域の技巧の産物と言わんばかりの凄まじいものばかり。
常に身に着けている様にと言われ、使い方は初潮がきたら教えると念を押されたのを思い出す。
――――それらの宝物は、初潮がきた瞬間から私の身体の中に収納できるようになった。
そう、あの日、里が炎に包まれたあの時に。
二回目に生を受けた世界には、魔法というモノがあったから。
そして魔物がこの世界には存在すると知ったのだ。
驚いた。
純粋に驚いたけれど、両親も里の皆も当たり前のように魔法を使っていたから、そういうモノなのだと受け入れた。
魔物という存在に出遭った時は本当に驚いたものだ。
危険だというのは肌でも感じる事が出来るほどの威圧感と殺意満点な存在だったのを思い出す。
それ程に危ないのが魔物という存在であったのだから、里には魔物除けの結界が貼ってあった。
……人除けの結界も。
森の一部も含めてとても広い範囲に結界が貼ってあった。
だというのにも関わらず、どうやってあの人達は里に入り込んだのだろう……?
そもそも、どうやってこの里の事を知ったのかさえ分からない。
――――ただ、おそらくは出入りの行商人。
可愛らしい女性だった。
父親だったゴードンさんが身体を壊したから代わりにと、里が火に包まれる数年前から訪れるようになった人。
最後に見た時は二十歳になるかならないかという年齢だったと思う。
シオンや私と同年代だろう、女の子と男の子の双子の姉弟を連れていた。
自分だけでは大変だから手伝ってもらっているのだと。
皆が若いのに大変だろうと、彼女の父だというゴードンさんよりも友好的、否、今考えれば非常に甘い対応だったと思う。
ゴードンさんは私が産まれる前から里に出入りしていたという話で、両親にしてみても長い付き合いだと言っていた気がする。
森の中で迷っていたゴードンさんを助けて以来、里への出入りを許していたという。
だからこそ、里へと入れる通行証を持っていたのだ。
これが無いと里を見付ける事も入る事も出来ないのだから。
だからこそ分からない。
私達が住んでいた里の場所を教える事が出来たのだとしても、許可証が無ければ入れないはず……
――――だが、あの双子。
双子には許可証は出してはいなかったはず。
許可証を持っているのは、ゴードンさんから譲られただろうキーラさんだけ。
姉だというキーラさんと一緒だから、双子も入れたの……?
なら、もしかして、許可証を持っている人と一緒であれば――――
私はまだ子供だったというのもあるのだろうが、許可証の仕組みに詳しい訳ではない。
だからどうやって入り込まれたのかも分からないのだ。
今更、なのかもしれない。
誰か生き残りがいるのかどうかも分からない。
どこに里があったのかさえも分からない。
里の名前さえ分からない。
『守の里』。
知っていたのはこれだけ。
襲った相手がどこの誰かさえ分からないのだ。
盗賊なのか、まったく別の勢力なのか。
それさえ定かではない。
私は里の事についてほぼほぼ無知だ。
全ては初潮を迎えたら。
そう言い聞かされてきた。
初潮が来た日。
その日。
森にジャムを創るための木の実を取りに行っていた。
朝から調子が悪かったけれど、そろそろ採り頃になっている木苺がダメになってしまう前にと、気力を総動員して採りに行ったのだ。
たまたまシオンは伯父に用を頼まれていたから里には居なくて、気楽な思いで出掛けた。
加えていつも一緒に居た相棒の白銀の狼、アストラも仲間の会議があるとかで不在。
シオンの相棒、龍のデウスも同じ会議に出るというのでアストラと一緒に出掛けていた。
だからこそ帰ってきた時にプレゼントしようと張り切ったのだ。
気分はあまりよくは無かったし、お腹もおかしい感覚で、段々痛くなってくるのに辟易しつつ、それでも好きなジャム作りをしていたら大丈夫だろうと言い聞かせながら。
何時気が付いたのだったか。
どうにもおかしな感覚に困惑していた時、そう、ロングスカートから除く足に、血が見えて――――
慌てて戻ったのだ。
前世でも経験はあったのにうっかりしすぎだと独り言ちながら戻った。
いつも身に着けている宝物が消えているのさえ気が付かなかった程動転もしていた。
体調が悪いからだろうけれど、いつも以上に熱中していたらしく、気が付いたらもう黄昏時で。
そして目の前に広がっていたのは、舐める様な炎に巻かれた里の姿だった――――
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