第2話 回想 2
二回目の生での父が、面差しがその父に似た大人の男の人と一人の少年を連れてきた日の事を鮮明に覚えている。
父が紹介してくれたその少年。
艶やかで光り輝く黄金の髪に至極色と黄金の美しすぎる瞳。
まだ幼いというのに整い過ぎて人とは到底思えない神域の美貌。
彼も私も幼児という年齢で。
けれど絶世の妖艶な容貌は胸が詰まるほど懐かしく……
父と面差しのよく似ている髪の色と瞳の色も同じ男性は、父の兄だという。
私の身体が弱いから、同じ村に住んでいたけれど中々会いにこれなかった。
同い年の息子がいるから仲良くして欲しい。
その言葉は、一回目に紫苑と出逢った時とほぼ同じで。
それを思うと、一回目の生をなぞる様だと思った。
『シオン・レグルス』と紹介された彼は、あまりにも記憶の中の紫苑と同じだったのだ。
呆然と、それこそ夢か幻でも見ている様に私を見つめたシオンは、醒める夢に怯える様にしながら、恐る恐る私に近づき、幻だと知るのが怖い様におずおずと手を伸ばして私の頬に触れる。
幼児だというのにその体温の低い手は、私には耐えられない程馴染んだもので。
あの時シオンが縋りつくように私を力いっぱい抱きしめたのが、夢だったらいいのに。
嗚咽さえ漏らせず、私を壊れそうな程抱きしめながらただ静かに涙を流すシオンが、幻だったらいいのに。
都合の良い事が脳裏に走馬灯の様に過る。
私は、二回目に生を受けた時に決めたのだ。
もしもう一度紫苑に逢えたとしても、親しくなったりしない。
側に居たりはしない。
絶対に。
だから私は、記憶が在る事を決してシオンには告げなかった。
如月瑠華なのだとも絶対に。
死んだ後さえも。
近づかないで、距離を持って、それでも紫苑の為に出来る事をしようと決めたのだ。
それは一回目の時、紫苑から離れようと決心した時からの誓いで。
だというのに、私は一体何をしでかした。
そう、もう二度と、一回目の様に紫苑の足を引っ張らない。
私はいつも紫苑に守ってもらっていたから。
その恩を返さないといけないと思っていた。
それなのに私は……!!!
疫病神は近づいてはいけない。
一番の彼への償いも恩返しもそれだと思ったから。
そう固く信じた私は、両親も伯父もシオンが突然泣き出した事で心配そうに見守る中、困惑気味に声を出す。
「……ええと、シオン君? 初めまして。ルカです。あの、どうしたの……?」
私の言葉に、シオンが露骨なまでにビクッと震えたのが忘れられない。
シオンが意を決した様に私の顔を見つめ、そして段々と表情が抜け落ち静かに絶望したのを。
それを見た時から、心が血を流して止まらない。
紫苑を傷つけたかった訳ではない。
絶対に無いのだ。
私は紫苑を死なせてしまった原因で。
だからシオンの反応は私にとって完全に想定外。
紫苑には好きな人がいたはずだ。
……未だに好きなのかもしれないのに。
どうしてそれ程、あまりにも露わに、彼は……
――――シオンの容姿の色彩が変わっていた様に、私の色彩も変わっていた。
金糸の髪に瑠璃色の瞳。
だから他人の空似で誤魔化せるのではと思った当時の私は余りにも愚かだった。
あまり鏡を見なかったので分かってはいなかったのだ。
――――私の容姿が、シオン同様前世と色が違うだけでまったくの同じだと。
シオンが紫苑だと、私が瞬時に当たり前の様に確信したのと同様に、彼も私が瑠華だと一瞬で分かってしまったのだ。
だからこその言動。
けれど私は嘘を貫き通した。
最期まで。
私はルカで、前世の記憶などありませんと。
そう思ってもらえる様に、必死だった。
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
死なせてしまってごめんなさい。
また近くに生まれてごめんなさい。
傷つけてごめんなさい。
知らない振りをしてごめんなさい。
……好きな人がいたのに、私のエゴで巻き込んでごめんなさい。
――――だから、どんなことをしても償うから。
虚無の様な表情になったシオンは、きっともう私から近づきさえしなければ離れて行くだろうと思っていたのに……
前世以上に私の側にいるのだ、シオンは。
ほぼほぼ何をするにも一緒。
朝は私を起こしに来て、それからずっと側を離れない。
そう、私がベッドに入って完全に寝るまで。
トイレやお風呂さえ一緒にしようとするので全力で止めたけれど。
幼児が拒絶するのは珍しかったのかどうか悩ましい。
ただ、両親や伯父家族や叔母家族も含め、親戚中が生暖かい眼差しだったのがどうしても気にかかる。
私がトイレとお風呂は一緒は嫌だと言ってから、更に密着度が増えた様な気が……
事あるごとに私に触れて、私が生きている事を確認している様だったと思う。
私が何か作ったりすると、必ず欲しがったのを憶えている。
料理にしろ縫物にしろ本当に細やかなものでもだ。
確かに紫苑も私が作るものが好きだったと思う。
けれどその私が作った物への執着度合いは絶対に前世よりおかしい。
私が作った物を、シオン以外の誰にも渡さない勢いなのだ、常に。
更に私が熱を出した時など泊まり込みは当たり前。
少しでも体調を崩しただけで、私をベッドの住人にしつつ自分は側で何くれと世話を焼くのも常。
シオンは自分の家より私の家で寝起きする方が多かったのだ、確実に。
四六時中シオンが側にいるものだから、友達らしい友達が出来なかったのは不満だったけれど。
シオンは優しいから、目の前で死んだ幼馴染に申し訳ないと思っていたのだろう。
彼はまったく悪くはないのに。
好きな人から引き離してしまって、この世界に来てまで迷惑をかけているのは本当に居た堪れない。
――――悪いのはすべて私であるにも関わらず、なのだから……
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