僕は望む、君の隣にいることを

 デパートは大きい。規模的にはショッピングモールと変わらない。だが、店の名前が「デパート~」となっているから、デパートなのだ。それもあって通称はデパートで通っている。


「ねぇねぇ、どんな服買う予定なの?」


 僕の隣で小首を傾げる時雨は、ショーウィンドウを眺めながら問いかけてくれる。


「そうだな……、シンプルでカジュアルなものがいいかな。それなら絶対に変な組み合わせにはならないと思うから」


 同じようにショーウィンドウを眺めながら、自分の想像する欲しい服を伝える。出来れば季節感を損なわない組み合わせをと、色々調べながら歩き回って、取りあえず適当なブースにお邪魔した。


「ねぇねぇ、こんなのはどう?」


 時雨が持ってきたのは白の無地のTシャツだった。まだそれ一枚だと寒そうだが、アウターで調節が効くはずだ。


「そうだな……、それ買うか」


 アウターアウターと呟きながら、よさそうな服を探す。ファッションセンスの良い時雨は、簡単そうに組み合わせを選んでは、ポンポンかごに放り込んでいく。それを見ながら、僕は一人で来なくてよかったと安堵した。……多分、奇抜な服装になっていただろうから。


「却下、どうしてそんな組み合わせになるの?」


「そ、そんなにだめか?」


「ダメダメだね、全然良くない」


 やっぱり、一人で来なくて正解だった。色んな組み合わせを探しては時雨を頼ったのだが、どれもよろしくないらしい。結局、服は全部時雨に選んで貰った。まだまだ勉強不足なのだろうなと思った。まぁ、一朝一夕でどうにかなるとは思っていないが。レジを通した。値段は流石にそこそこなものになった。でも、比較的安上がりだったため、本当に、時雨様様だ。


「助かったよ、ありがとう時雨」


「どういたしまして、お礼はタピオカでいいわよ?」


「素直に飲みたいって言えばいいのに」


「じゃあ、飲みたい」


「分かった」


 時雨のリクエストの元、タピオカを専門に扱う店に来た。平日なのもあって人は少ないが、それでも制服姿の学生で列ができている。ブームが消え去ってなお衰えることのない人気に二人で苦笑しながら僕らも列に並ぶ。


「もうブームは去ったはずなのにね」


「そうだな、確かに去ったはずなんだけど」


 考えていたことは同じだったことにうれしさを感じつつ、順番を待つ。不思議と、この無言の空気ですら、心地よかった。


「ねぇ、彩人」


「ん?」


「なんかさ、今日の彩人、あたしの知ってる彩人じゃないみたい」


「なんで?」


 こんなこと言われるなんて、思ってなかった。確かに、昔の僕なら絶対に、君とかかわることはなかった。だって、迷惑になるのも、周りから浮く可能性を秘めているのも、全部全部、時雨。ただ君だけだったから。でも、僕は知っちゃったから。触れないまま失うことの哀しさを、辛さを、苦しさを。だったら、君の隣に立てなくても、君の後ろを追いかけようと思った。僕だけが反対に進むんじゃなくて、せめて、置いて行かれないように。


「変わらないよ、僕は。どれだけ歳をとろうが、どれだけ見た目が変わろうが、僕は君の知っている彩人だよ。それだけは変わらない」


 変わるわけないじゃないか。僕はずっと、君を、君だけを追いかけてるんだから。


「……彩人、やっぱり変わったよ。あたしの知ってる彩人は、もっと小さくて可愛かったのに」


「一体何年前の話だよ……」


僕は呆れた笑いしかできなかった。でも、隣の君はすっごく楽しそうに微笑んでるから、僕も、ついつい呆れきれなくて、恥ずかしくなってそっぽを向くことしかできなかった。

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