第 8話 主を討伐
主が放った拳を肩で受け止め主の足を斬りつける。上手い具合に肩に喰らった衝撃を利用して主の足を斬りつけたが、今回もしっかり衝撃で吹っ飛ばされた。
主が足を引き摺りながら追っかけて来るのが見える。そして、さらに殴り掛かろうとしていた。
転がりながら体勢を立てなおし今度は主の拳を剣で受け止める。衝撃で勢いよく弾かれた剣を手放さないよう強く握り、体を捻って剣の軌道を変え主を斬りつける。
衝撃の威力を利用し速度の増した剣が主の腹を深く斬りつけたが、主が新たに放った追撃の拳が腹にめり込み吹っ飛ばされた。
身構えていなかったので派手に吹っ飛ばされて床の上を腹ばいになって滑って行く。
床を滑りながら主を確認すると、片膝をつき斬られた腹を押さえていた。
剣から伝わる感触でそれなりに手応えは感じてたが、思ってたよりもだいぶ深く斬りつける事が出来たみたいだ。
その証拠に、片膝をついた主の床には腹からの出血による血だまりが出来始めていた。
動作が大きくなる力任せな戦い方から、探索当初のような慎重な戦い方に変えると、少しずつではあるが俺の攻撃が主に当たるようになってきた。
始めは腕や上半身を狙って攻撃を仕掛けていたのだが、ガントレットを使って上手い具合に斬撃を弾かれてしまって、なかなか攻撃が当たらなかった。
なので、今度は仕掛ける場所を下半身に変えてみたところ、俺の攻撃が徐々に当たりだして主の足に切傷が増え始めると、主からは俊敏さがなくなり少しずつだが主の攻撃を回避できるようになっていった。
そして、主の下半身を狙って慎重な攻撃を続けながら何度も殴られ吹っ飛ばされてるうちに、「殴られたときに発生する衝撃を上手く利用して攻撃出来れば主に深手を負わせる事が出来るんじゃね?」と考え、主のレア装備に埋め込まれている【打撃増加】の効果を利用することを思いついた。
主の打撃を剣で受け止め衝撃で弾かれた剣の軌道を変化させて、主を斬りつけるのは物凄く難しく、衝撃で何度も剣を手放しそうになったし、軌道修正に失敗して床に剣を叩きつけたり何度か自分を斬ってしまいそうにもなったが、この戦い方を思いついてからは、主に深手を与える事が出来ていた。
主が俺を睨みながらゆっくりと立ち上がると、脇腹を押さえて顔を歪めた。
俺もゆっくりと起き上がって剣を構えるが、両手に握る剣がやけに重くてしっかり構えていられない。少しずつ剣先が下を向き始める。
そう何度も剣を振れそうにないな。
腕も辛いが衝撃を軽減させるために自ら殴られる方向に飛んでいるので、膝を曲げると角度によっては足が痙攣してしまい上手く床を蹴れなくなっている。
それと、主にぶん殴られた顔が腫れているのかジンジンと熱を発して痛んでいるし、吹っ飛ばされて壁や床に叩きつけられたからなのか、首や背中の筋肉が強張ってて痛い。
戦い方を変えてから、だいぶ主には深手を負わせる事が出来るようにはなってきているが、もうそろそろ俺の体力が限界を迎えそうだ。
主が足を引き摺りながらゆっくりとこちらに向かって移動し始めた。主が作った血だまりからは足跡が延びている。
俺も満身創痍だが主の方がギリギリの状態なのかもしれないな。
今回出現した主がたまたま武器を持たずに殴り合いを得意とするゴブリンファイターだったから何とかここまで粘れたが、剣や斧あるいは槍といった武器を所持する主だったらここまで粘ることは出来なかっただろうな。
迷宮探索って俺でも簡単にやって行けるって思っていたが、考えが甘かったかもしれない。
ゆっくりと鼻から息を吸い込む。
――主を倒してもう家に帰ろう。
胸や腹に痛みが走って一瞬息が途切れそうになるが、それでも息を吸い続ける。
――多分そう何回も剣は振れない。
ゆっくりと口から息を吐きだす。
――だから
主を見据える。視線を受けて主が拳を構えた。
――これで終わらせるっ!
床を蹴って主との距離を詰めつつ、わざと左の肘を上げておく。
左脇腹を狙ってこい……。
主が殴りやすくなった俺の左脇腹付近を狙って右拳を放ってきた。
良しきた!
後ろに下がって主の右拳を躱す。すると、主が左拳を外側から弧を描くようにして放ってきた。
狙い通り! この左に合わせる!
迫る拳に剣をぶつける。
主の装備しているガントレットに埋め込まれた【打撃増加】による宝玉の効果で衝撃を受けた剣が勢いよく弾かれた。
衝撃の勢いを活かしつつその場でグルッと回って主の左脇腹を斬りつけた。主が怯むことなく俺の顔面を右拳で殴ってくる。
くっそ、間に合えっ!
後ろに倒れながら拳を剣で受ける。衝撃で床に倒れこみそうになるが、足を踏ん張り無理な態勢から体を捻って剣の軌道を変化させる。
膝からブチブチッと変な音がしたが、勢いよく弧を描いた剣が主を斬り裂いた。
そのまま床に倒れこむと、主が膝をつきそのまま床に倒れこんだ。
「ふあ~。危なかった」
思わず声が出てしまった。
「うっ!」
起き上がろうとしたら膝に激痛が走った。
その場に寝っ転がって剣を手放す。しばらく仰向けになったまま呼吸を整える。
やっと主を倒せたのに満足感や高揚感といった感情は全く湧いてこなかった。
そっと、痛めた足に力を入れてみると物凄い激痛が走り声が出そうになる。
変な体勢で無理やり剣の軌道を変えたのが悪かったのか、どうやら膝を壊したみたいだ。
ん~、帰る途中で魔物に遭遇しなければ良いなあ。
いくら自分の店を持ちたいからといっても、こんなに痛くて辛い思いをしまで装備品を収集するのは割が合わないな。
仮に同行者や一緒に探索する仲間を伴ったとしても魔物を相手にする限り必ず命の危険は付き纏うし、腕や足を怪我して完治しなかったらこの先ずっと不自由な生活を送る事にもなりかねない。
常に命の危険にさらされる迷宮探索者のようなこの生活は俺には無理だな。って事が分かったので、この三ヶ月間はある意味良い経験だったのかもしれないな。
床に手をつきゆっくりと体を起こす。主から流れる血がこっちにまで広がり始めていた。
血だまりに顔を埋め息絶えている主を見て、今回出現した主がゴブリンファイターで本当に助かったと改めて実感する。
剣を杖代わりにしてゆっくり立ち上がる。痛む左膝に体重を掛けないようにすれば歩けない事はなさそうだ。
今回の戦利品であるレア装備は売らないで記念に部屋に飾っておこう。
主に近づきレア装備に手を伸ばそうとすると、突然床が光り始めた。
「おいおい、うそだろ!」
思わず声が出た。
杖代わりにしていた剣を握り構えるが、膝に激痛が走りその場に倒れ込む。
倒れた時に手放してしまった剣を掴むと同時に部屋の光が収まった。
剣を引き寄せ振り返ると、そこには白いワンピースを着たゴリラがキョロキョロと辺りを見回していた。
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