第 7話 主との戦い


 剣を構えて主を見る。


 それを見た主が勢いよく咆哮を上げた。


 空気を震わすような大きな咆哮を全身に受け体が硬直し、一瞬頭が真っ白になってしまった。


 すぐに硬直が解けると急激にその場から立ち去りたい衝動に駆られ、不意に主から目を離し部屋の扉を見てしまう。


 すぐに視線を戻すと拳を構えた主がすぐそこまで迫ってきていた。


 慌てて剣を振り下ろすがガントレットで剣を弾かれ腹を殴られる。脇腹で衝撃が発生し物凄い勢いで吹っ飛ばされた。


 何度も床の上を転がりやっと止まった。追撃を警戒し急いで体を起こして床に膝をつけたまま剣を構る。


 主は俺を吹っ飛ばした場所から動いておらずニヤニヤしていた。何を考えているのかは分からないが次々と攻撃を仕掛けて来ないので助かった。


 主の動きは迷宮内の大ネズミと同じくらいなので目でおえない事はないが、明らかに俺よりも腕力と体力は強い。それに、宝玉の【打撃増加】と【腕力増加】の効果で殴られると衝撃が凄くて吹っ飛んでしまうが、身構えていれば耐えられなくもないな。


 ただ、主の考えが変わって追撃するようになったら宝玉の【体力増加】と【体力回復】の効果で、疲れることなくずっと攻撃し続けられるだろうから、とてもじゃないが今の俺では太刀打ち出来そうにない。そうなったら、この部屋から逃げ出せば良いか。


 さっきは突然の咆哮でビックリして戸惑ったが、今度はこっちから仕掛けてやる。


 片膝立ちの状態から立ち上がり主に向かって行くと、主が拳を構えて笑みを浮かべた。


 剣を大きく振りかぶりながら一歩踏み込むみ体重を乗せた剣を思いっきり振り下ろす。


 主が素早く後ろに下がって剣を躱した。なので、主との距離を詰めながらさらに剣を振り払おうとするが、主の拳の方が先に腹にめり込んだ。


 吹っ飛ばされたが床を転がりながら態勢を立て直し、床に片膝をついた状態で剣を構える。


 すると、主は俺を吹っ飛ばした場所から動かずに、今度は腰に手を当てニヤニヤしていた。


 今回も主は追撃はしてこなかったが、吹っ飛ばされてる俺を見て優越感にでも浸っているのか? 


 そんな事より剣を振る時の相手との距離間というか、間合いみたいな物の感覚がどうも上手く掴めなくて調子が悪い気がする。


 今まで背丈の低いゴブリンや腰の高さくらいの大ネズミとしか戦ってこなかったからか? あるいは、今までデカい魔物との戦闘経験がないからか?


 どちらにせよ、吹っ飛ばされても追撃してこない間に感覚を掴まないと不味い事になりそうだな。


 主がスタスタと歩きながら近づいて来るので、剣を構えて立ち上がる。


 すると、主が体を前傾姿勢にして突っ込んできた。


 剣を振り上げ勢いよく反動を使った強い一撃をお見舞いしようとするが、腕を振り上げ隙だらけだった胴体に主の拳の方が先に叩きつけられた。


 部屋の壁まで吹っ飛ばされ背中を激しく強打する。息が吸えなくなりあえいでいると主が前傾姿勢のまま距離を詰めてきた。


 まともに呼吸が出来なくて苦しいがとにかく剣は構える。

 

 主が素早く剣を左腕で払うと即座に右拳を胸に叩きつけてきた。壁に背中と頭を激しくぶつけて一瞬意識が途切れそうになる。更に横から腕の辺りに一撃喰らって部屋の奥の壁際まで吹っ飛ばさる。


 床に倒れているはずなのに上下左右が定まらず感覚がおかしい。そして、上手く呼吸が出来ない。浅く短い呼吸を繰り返しながら必死になって空気を取り込もうとするが、あえぐ事しか出来ない。主の動向を探る為に辺りを見回すが、目の焦点が定まらず涙で視界も歪んでいて主が何処にいるのか分からない。


 四つん這いになり必死で呼吸を整える。


 回復薬を飲もうと腰に巻いてある袋に手を当てるが、容器が潰れて中の液体が漏れ出していた。手に着いた回復薬を舐めると身体中の不快感が少し和らいだので改めて主を探す。


 またしても俺を吹っ飛ばした場所から動かずにニヤニヤしていた。


 更なる追撃がなくて助かった。あれ以上攻撃されていたら本当に不味かった。かろうじて回復薬の残りで何とか持ちこたえたが。今のは本当に危なかった。


 それにしても、俺の攻撃が当たらない。


 攻撃を繰り返すうちに早い段階で自分よりデカい相手と戦う時の感覚を掴めたなら良いが、このままだと本当に命を落としかねない。


 ここらで主に挑むのは止めて逃げた方が良いのか? 


 次回は迷宮を同行してくれる者に声を掛けて挑んでみるか?


 部屋の奥まで吹っ飛ばされてるから、ここから扉まで無事にたどり着けるのかも怪しくなって来たぞ。


 身体能力が上がった俺でもやっぱり迷宮主なだけあって一人での倒すのは厳しのかもしれないな。


 単発での攻撃なら何とかなるかもしれないが、連続で攻撃されると今の俺ではまだ太刀打ちできないな。


 主は腕を組んでニヤニヤしていた。完全に俺の事を自分より格下だと思ってる感じだな。


 若干イラっとするが、主はそれだけっていうことだ。


 いや、ちょっと待て……。


 主が強いのは当たり前だ。確かに自分よりデカい魔物との戦いは初めてで感覚が掴めなかったって事もあるが、そもそも俺の戦い方が不味いんじゃないのか?


 迷宮探索を始めた頃は俺よりも魔物が強かった。


 だから、なるべく怪我をしないように慎重に戦っていたので時間は掛かるが安全な戦い方をしていた。


 だが、最近は身体能力が上がったお陰で俺よりも魔物の動きが遅く、動きの大きな力任せの攻撃が通用してた。


 なので、ほぼ一撃で魔物を倒せるようになっていたから、その戦い方に慣れてしまって、本来の慎重な戦い方を忘れてしまっていたらしい。


 例え宝玉の能力がなかったとしても、この迷宮内で一番強い魔物を相手にしているんだから今迄みたいな戦い方ではダメだな。


 気持ちを切り替え剣を構えて立ち上がる。主が拳を構えた。


 今度は俺から歩を進め主のと距離を詰める。


 主が拳を胸の辺りで構えると、素早く横に移動したと思ったら瞬時に真っ直ぐ突っ込んできた。


 剣の切っ先を主に向け胴体目掛けて突くと、主が左腕のガントレットで剣を弾き俺の顔面目掛けて右拳を放った。殴られるのを覚悟してとにかく主を斬りつける。顔面に拳を叩きつけられて勢いよく吹っ飛ばされた。

 

 転がりながらも上手く体勢を立て直し剣を構えて片膝立ちになる。


 主の脇腹からは少量だが血が流れていた。


 主の動きにはついて行けてた。


 殴られる方向に自ら飛べば衝撃はだいぶ軽減された。


 そして、主からしたらかすり傷なのかもしれないが、俺でも確実に損傷を与える事は出来た。



 どれだけ時間が掛かるかは分からないが、やれない事はなさそうだな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る