第11話 ゴリラからの依頼
空になったティーカップに新たに紅茶を注いでくれるリッカ。
見た目はゴリラなのだが紅茶を注ぐ何気ない仕草からは育ちの良さが窺える。
「ありがとう、本当にこの紅茶は美味しいよ」
リッカがティーポットを机に置くと笑顔で
「淹れた紅茶を褒めてもらえて嬉しいわ。まだ沢山あるから好きなだけ飲んでね」
姿勢よく椅子に座るリッカも紅茶を飲み始める。その姿からは気品すらも窺える。
リッカの動作がゆっくりだから落ち着いて上品に見えるのか? あるいは見た目がゴリラだから何気ない普通の動作でも違って見えるのかは謎だが、ひとまず美味しい紅茶を頂く。
リッカからは自分は魔族であると聞かされてはいるが、見た目がゴリラなのでどうも説得力に欠ける。
だが、回復魔法で俺の身体の傷を治してくれたし一撃で迷宮主の死体を跡形もなく消し去る物凄い威力の魔法も目の当たりにした。
それと、光を発する球体を出現させ薄暗かった室内を明るくしたり、砂で出来た机と椅子も魔法で作成していた。
半獣半人の獣人族は自身の身体能力を上げる魔法は使えるが、リッカのようにここまで魔法を上手く使えるとは聞いたことがない。それに、半牛半人のミノタウロスや半人半馬のケンタウロスのような魔獣族ならば魔法の扱いが上手いので攻撃魔法も回復魔法も使える者達も多いと聞くが、見た目は人型と他の動物の外見を合わせ持った姿だと聞いてもいる。
だが、目の前に座っているリッカはワンピースを着て二本足で歩いてはいるが、見た目は完全にゴリラだ。
なので、リッカがワンピースを脱ぎ草木の生い茂る森の中にいたら完全に野生のゴリラだ。
ただ、魔族が得意とする空間魔法を使い何もない場所からティーセットを取り出し俺に紅茶を振舞ってくれた事を考えると、やはりリッカの言う通り魔法の扱いに秀でた魔族なのかもしれないな。などと紅茶を味わいながら考えているとリッカが
「差し支えなければ教えて欲しいんだけど。何でケビンは難易度の低い迷宮に挑んでいたのかしら? 」
「俺は目利きが得意なので最近まで武器屋で働いていたんだが、店を畳むことになって職を失ってしまったんだ。そんで仕事がなかなか見つからなくって色々と考えた結果。迷宮を探索しながら装備品を収集して店を開こうと考えた。それで、先ずは難易度の低い迷宮に挑んでた」
初対面のゴリラに対して何も警戒せずに普通に身の上話しをしている自分に驚いていると
「なるほどねえ。ちなみに仲間はどうしたの? 私がここに来た時は一人だったじゃない」
「いや。難易度の低い迷宮だったからずっと一人で探索していた」
リッカが目を見開き
「えっ! じゃあ仲間を伴わなずに単独で迷宮主に挑んでたの!!」
「様子を見ようと部屋を覗いたら主がいなかったんで少し部屋の中を探索しようと思って歩き回っていたら主が現れて戦いになった」
「いくら難易度の低い迷宮だからって普通は一人で主になんて挑まないわよ?」
「いや。成り行きで戦う事になったというか、一人でもやれそうな気がして頑張ってみた」
リッカが一度大きく息を吐き
「呆れた人ね。状況によっては命を落とてたかもしれないのに、何でもっと慎重に行動しなかったの?」
頭をかきながら
「身体能力が上がって調子に乗っていた。危険な行為だったとこは自分でも理解している。だからあまり責めないでくれ」
紅茶を口に運ぶとリッカも紅茶を一口飲み
「次は難易度を上げて他の迷宮を探索するのかしら? それともこの迷宮で探索を続けるつもり?」
左右に首を振り
「いや。三か月間ほど迷宮の探索をやって何とか主を倒す事が出来たが、俺には迷宮探索は向いてないって事を痛感した。だから明日にでも家に帰って畑を手伝いながら仕事を探そうと思ってる」
「そっかあ。家に帰る予定なのね」
俺は頷き紅茶を飲む。リッカも紅茶を飲むとしばらく沈黙が流れた。
すると、リッカが
「ねえ。目利きが得意って言ってたけど私のレア装備を鑑定してもらっても良いかしら? 」
リッカのワンピースの胸元には【清潔】【快適】【修復】【伸縮】【魅了】といった五個の宝玉が埋め込まれている。
「洗濯いらずで手入れは不要。汚れても綺麗になるし多少の破れも勝手に修繕もされる。そして、宝玉が装備者にとって過ごしやすい気温に調整するので常に快適な生活が送れて装備者の体型に合わせて寸法も変化する。なので、戦闘向けというよりも日常生活をより快適に過ごす事に特化したようなレア装備だな。それと、【魅了】の宝玉の効果で装備者に対して警戒心を抱きにくくし良い印象を与えてくれる。なので、人付き合いを円滑にさせるレア装備でもある。ってところかな」
リッカが目を見開き胸元で軽い拍手をしていた。
「凄いわね【修復】の宝玉はあまり目にしないから分からない鑑定士も多いんだけど【魅了】の宝玉の効果をそこまで的確に言い当てられた人はそんなにいなかったわ」
【修復】の宝玉は親方が保管していたレア装備で目にした事があった。それと、宝玉が有する性能に関しては大概何段階かに効果が分かれていたりするのだが、何故か俺は直感で何となくどのくらいの威力を発揮するのかを読み取る事が出来た。
俺は目利きを褒められてちょっと照れくさかったので紅茶を飲んで誤魔化した。
「ケビン。ちょっと提案があるんだけど聞いてくれるかしら?」
改めて名前で呼ばれドキッとするが頷き話しを続けてもらう。
「人族領には何度か来たことはあるけど一人で来たのは今回が初めてなの。それに人族領の文化に馴染みがないから一人だと何かと不便だと思うのよ。だから私を魔族領にある家まで連れてってくれないかしら?」
今は迷宮探索者みたいな生活をしているので時間はたっぷりとあるし特に急ぎの用事がある訳でもない。それに、傷を治してもらった恩もあるので別に断る理由もなかったので引き受けようと思ったらリッカが
「報酬としてうちの武器庫から好きなだけ装備品を持って帰って良い。ってのはどうかしら? 自分の店を持ちたいんでしょ?」
装備品を持ち帰っても良いだと! しかも好きなだけ!! 迷宮探索者まがいの事をして常に危険に晒される事もなく安全に装備品を調達出来るのは魅力的な話しなんじゃないのか? ぬるくなった紅茶を見つめながら考えていると更にリッカが
「うちにはそれなりに貴重なレア装備を複数所持してるわ。それに関しての持ち出しは家の者との相談になるけど、街でもあまり売りに出されていないようなレア装備も沢山あるわよ」
貴重なレア装備だと! しかもあまり売りに出されていないようなレア装備が沢山だって!! 諦めかけていた自分の店を持つという夢がリッカを家まで送り届けることで叶うかもしれない!!
俺は右手を差し出し
「リッカを家まで送り届ける依頼を引き受けるよ」
リッカが右手を握って
「交渉成立ね。私を家まで連れてってね」
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