外伝7「サバVSクモ」

 私がうとうとと眠りにつこうとしていると、ドタドタという音と共に母さんが戸を開いてきた。


「ん~、どうしたの母さん?」


「クモっ!! ミト!! 捕まえて!!」


 なんか、クモに私を捕まえるように命令しているように聞こえるけど、こういうときの母さんに冗談は通じない。ようするにクモが出たから捕まえるようにってことね。


 私は眠い目をこすりながら起きると、母さんに状況を確認した。


「どこにクモが居たの? 大きさは?」


「あたしの部屋。奥の壁。3センチくらいの大きさ」


「3センチか。ずいぶん小さいね」


「小さくてもクモはクモよっ!! 一寸の虫にも五分の魂って言うじゃない。小さくても怖いものは怖いのよ!!」


 うん、その例えは絶対に違うけど、今の母さんにそんな的確なツッコミは通じない。


 私は慎重な足取りで母さんの部屋へと向かう。

 部屋のドアをゆっくりと開けて、中へと入るが……。


「ん~、どこにもいないよ」


「もっとちゃんと探してっ!!」


 そうは言っても……。

 私は母さんの部屋を改めて見回す。

 手前には寝室でも仕事が出来るようテーブルとペン一式が置かれている。 

 そこから視界をクモが居たという壁の方へ。

 そこにはフランスベッドが部屋の奥に位置し、枕元にはクマやイヌのぬいぐるみが置かれている。あれって、限定版とかで意外といい値段だったのよね。

 2人で頑張って手に入れた日々を一瞬だけ思い出し、すぐにクモへと意識を移す。

 ベッドの足元の壁際には小さな扉付きの本棚。アキラとかゴンとかマイケルとか母さんのお気に入りの本なのだが、謎のラインナップだ。


 しかし、どれだけ探しても見つからない。


「う~ん、やっぱり居ないよぉ!!」


 すでに部屋の外へ避難している母さんに聞こえるよう声を張り上げる。


「そんなはずないからっ!! 絶対どこかにいるからっ!!」


 あ~、これは軟禁コースのやつね。

 私は長期戦を早々に覚悟していると、


「ミーッ!!」


 シュパッとサバが母さんの部屋へ飛び込んで来た。


「そうかっ! 野生の力で見つけてくれるのね! やるじゃないサバっ!」


 この最強タッグならたかが3センチ程度のクモ、余裕ね。


 サバはトテトテとベッドの方へ向かい、ベッドへジャンプ。

 母さんがクモがいると言っていた方へ一直線だ。

 そして、ベッドを横切らず、そのまま横になった。

 ごろんごろんとベットの上で転がり、「どう? 可愛いでしょ」とでも言いたげなくりくりの瞳で見つめてくる。


「…………いや、可愛いけど、今、その可愛さは誰も求めてないよサバ」


 そのとき、私の視界の端で黒いものが動いた。


「いたっ!!」


 ベッドの手前の床に3センチくらいのクモが走っている。

 私よりサバの方が近い。もしかすると、サバに先に狩られてしまうかもしれない。


 不殺ころさずでクモを外へ放りだそうと思っていたが、サバにやられてはどうしようもできないと考えていると、クモを見たサバは優雅に見送った。


「…………野生は!? えっ? こんなお手頃な獲物が居て飛び掛からないとかどういうことっ!?」


 ま、まぁ、でもおかげで生け捕りに出来るからいいわね。


 私はいつもの装備、カップと下敷きを持ってクモをロックオンする。


「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ」


 息を整え、気配を消し、そぉ~とクモに近づくが、気取られたようで、クモは壁を登ると、


 ピョン!! と跳ねた。サバが……。


「えぇ、ネコなのに、こんな小さなクモにビビるの」


 背後にきゅうりを置かれたネコの動画ばりに跳ねていた。


「う~ん、邪魔」


 私はサバを掴むと部屋の外へ出し、クモと対峙した。

 サバもおらず、姿をあらわにしたクモは敵ではなく容易に捕獲できた。


「なんか、どっと疲れた~~」


 クモを外へ逃がしながら思わず愚痴を夜の闇の中に吐き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る