外伝6 「くっつかないフライパン」

 講義が急になくなり、お弁当を買って家へとお昼に戻ると、ちょうど料理番組が掛かっていた。


 そこでは錦糸玉子を作っているところだった。

 卵液をフライパンに流し込み、薄く玉子を焼くと、それを簡単に取り出しお皿の上へあげる。

 それを見ていた母さんは、


「こういうのって絶対フライパンが良いように見えるわよね」


「そうだよね。普通の玉子焼きとかやってもフライパンにくっついちゃうもんね」


「あとは習字の上手い子の筆とか特別なものに見えたわね」


 母さんは昔を思い出しながらしみじみと言う。


「えっ? 母さん字上手いじゃん」


「いや、あたしのはボールペンとかなら上手くかけるけど、習字で書く様な達筆な字は苦手なのよね。上手い子が使うあの筆って、他の筆より墨を吸い取らない気がしない?」


「わかる。わかる。私は字自体下手だから全体の仕上がりに疑問はないけど、ただの点を打つだけでも違いが出るの解せないのよね」


 母さんはウンウンと頷き、


「もしくは半紙が違うか、墨が違うかって思うのよね?」


「墨は一緒じゃない?」


「いや、擦り方とか」


「擦る? 墨汁って容器から直接入れない?」


 こう醤油差しじゃないけど、あのボトルからすずりに入れるし、そこで差は出ないと思うけど。


「昔は墨は固形墨を擦って墨汁を作って使ってたのよ。ドラマとかで書道家が出ると、硯に何か石みたいなの擦ってるじゃない」


「ああっ! あれって墨汁を作る作業だったんだ!?」


 墨汁でいい気がするけど、やっぱりプロだと、墨の色とか色々こだわりがあるのね。きっと。


「そうそう。それから、絵の上手い子の色えんぴつとかも特別な気がしたわね。あたしは普通の色えんぴつだったから憧れたわね」


「いや、他の子たちからしたら母さんが絵の上手い子じゃん!!」

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