外伝5 「ネコのご利益?」

「みぃ~~」


 飼い猫サバの弱々しい声が早朝の居間から微かに聞こえてきた。

 少ししてからよろよろとした足取りでテーブルの下から出てくる。


「クシュン……、クシュン……」


 くしゃみを頻繁にし、明らかに体調が悪そうである。


「えぇ、サバどうしたの? 大丈夫?」


 大丈夫と聞いている時点であまり大丈夫そうではないのだけど、思わず聞いてしまう。

 

「みぃ~」


 弱々しい返事に、勝手に、「大丈夫じゃない」と翻訳して、私は母さんを呼びに行く。


「母さん、サバの体調が悪そうなんだけど」


 母さんはどれどれっとサバの鼻の頭に触れる。


「か、乾燥している……。これは何かの病気!?」


「鼻の頭が乾燥してると病気って迷信らしいよ」


「そうなの? まぁ、どのみち体調が悪いのは見て分かるわよね」


 母さんは慣れた手つきでスマートフォンで病院に電話を掛ける。

 少しの会話の後、


「獣医さんがお昼頃来てくれるって」


                ※


 12時過ぎになるとインターホンが鳴った。


 獣医さんが診察した結果、猫インフルエンザということらしい。

 今のところ命に別状はないが、これから定期的に注射をするということだ。

 今日も一本注射をして帰って行ったのだが支払いは全てが終わった後でとのことだった。


「ふぅ、とりあえず、大丈夫そうだね」


 私が額を拭いながら言うと、


「そ、そうね。命が一番大事なんだけど、いったいいくら掛かるのかしら……」


 動物病院の料金は獣医側が自由に値段設定出来る為、安全が確認されると、ついで気になるのが金額というのは分かる。

 一応いつも見てもらっている信頼できる獣医さんではあるのだけど、いつもと違う薬の注射だしね。


「きっと、ご利益があるって!」


 そのとき、母さんのスマートフォンが着信を告げた。


「はい。河林さんですか。えっ、少しだけど重版が決まった!? ありがとうございます!」


 電話を切ると、2500部程重版が決まったと母さんが告げる。


「だいたい12万円くらいの不労所得ね。ちょうど良くサバの病院代になりそうね。12万で収まれば……だけど」


「い、一応、ご利益あったじゃん。12万で収まればだけど……」

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