外伝3 「映画鑑賞」
「…………いや、確かに評価通り良作だったね」
私と母さんは居間のテレビの前で映画のDVDを見ていた。
「そうね……」
映画は少し前にやや話題になった作品で、その評判にたがわず面白かった。
「なんていうか、特に言う事がないわね」
「そうなんだよね。ストーリーもしっかりしてるし、普通に面白かったよね。映画館で1800円だしても損したって思わないくらいだし」
そこで、私と母さんの会話は終わる。
そうこうしていると、お昼のロードショーがテレビに映し出され始めた。
今週はモンスター特集らしく、これから始まる映画の予告として、あからさまなCGで作られたヘビが画面内に踊る。
「全く知らない映画だし、役者も有名な人がいないね」
始まる前から否定的な意見から入り、そのまま、なんとなく見始める。
『おいおい。何ビビッてるんだよ』
冒頭、森の中で大きな音がしたら警戒するのは当然なのに、無警戒に進んでヘビの被害にあうモブキャラ。
『な、なんて大きさだ』
予算の関係なのか頭部しか見えないヘビに対して大きさの感想を言う主人公。
『追いつかれる! お前が囮になれっ!!』
明らかに遠くにいるヘビに対し恐れおののき、主人公を転ばすライバル的な登場人物。
『みんなで協力して倒すのよ!』
そう言った直後に個別行動を取るヒロイン。
この辺りなんてまだまだ序の口なB級パニック映画をなぜかそのまま全部見てしまう。
ストーリーもそうとう破綻して、結局なんで主人公たちはヘビに襲われているのかも分からず、最終的に一番怖いのは人間みたいなオチでもあったりで、最後はライバルとの殴り合いでヘビは放置だったし。
あと、犬は無条件で無事だった。
「…………」
母さんと私は無言の時間を十秒程共有すると、
「さて――」
母さんはテーブルの上に肘をつき、手を組むと口を開いた。
「まず、この作品のダメなところは、予算うんぬんではなく、ストーリーにあると思うのよね」
「そうだね。ヘビの怖さを出すならもっと徹底的にやってほしかったし、人間VSヘビの構図にするならヘビをちゃんと悪役にしてくれないとね」
「あたし、なんてむしろヘビの方に感情移入しちゃうわよ。住処に先に踏み込んだのは人間だし、その人間同士でも戦うなら完全にヘビ被害者じゃない!」
「パニック映画でよくあるよね。私もその意見には賛成なんだけど、他の人はあんまりモンスター側に感情移入ってしないのかな?」
母さんは少し考えてから、
「シャチが復讐する映画はたぶん多くの人がモンスター側に感情移入したと思うから、世代によるかもしれないわね」
「そういったところだけじゃなくても、このヘビ映画他にも主人公たちの行動に一貫性がないよね。私だったらあそこは――」
そうして映画の感想というか、改善点を言い合う。大御所マンガ家と小説家志望の素人がお互い意見を出し合った結果、名作になりそうな作品が生まれたところで感想会が終わった。
「ふぅ、なんやかんやで1時間以上話してたわね。映画の感想って、超名作ならともかく、良作くらいなら、駄作の方がそのあとの話って盛り上がるわよね。いつまでもB級映画が無くならないのはその為かもしれないわね」
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