私と母さんとボツネタ

外伝1 「サンタクロース」

「やぁやぁ、今日は待ちに待ったクリスマスだ」


 ハイテンションにヤナエ先輩がサークルルームへと入って来る。

 先輩は冬まっさかりというのに、胸元が開いた服を着こみ、時期のものとはいえ、なぜかサンタ帽子をかぶっている。


「どうしたんですか。その恰好?」


「ん? あぁ、これかい。これは恋人がいなくて寂しんでいるであろうサークルメンバーを少しでも元気づけようという先輩からの温かい心遣いだよ」


 サンタ帽子を取りながら、猫のようにニッと笑う。


「逆に煽っていると思われて袋叩きに合いそうですけど……」


「ふむ、サンタが赤い服を着ているのは返り血をごまかす為、大きな袋は詰め込む為ってことかい? えげつない事を考えるねぇ」


「いや、そこまでは言ってないんですけど……。あぁ、サンタと言えば、先輩ってサンタさんを信じていますか?」


「何歳まで信じていたかではなく、今も信じているかって質問? さすがに今は信じてないけど、ミトちゃんは信じてるの?」


「ええ、そうなんですよ。私、未だにサンタさんって信じているんですけど、それには母さんが深く関わっていまして――」


                  ※


 あれは、私が小学2年生くらいのときだ。

 友達からサンタさんは両親なんだと衝撃の事実を告げられ、家の中でプレゼントを探していると、私の身長ではとても手が届かない場所に大きなおもちゃ屋さんの袋を発見した。


 ま、まさか……。


「う、うぅ~~んっ」


 精いっぱい背伸びをして、その袋を取ろうと手を伸ばす。けれども、届かず。次に、「うんしょ、うんしょ」と小さい台を持ってきて距離を稼ぐ。


「これで、よしっ!」


 私は勇んで台に立ったけれど……。


「た、たかいよ……」


 へにゃへにゃと屈み、台がないときより手の届く範囲が短くなる。


 そのまま、しばらく呆けていると、


「ミト、台の上に乗ってどうしたの?」


「母さん。あれ、とりたいの」


 もう私は当初の目的、サンタは両親なのかを暴くという目的も忘れ、母さんに助けを求めた。


「ふぅ、ミト、とうとう気づいてしまったのね。そうよ。あたしがサンタよ!」


 なぜか自白する母さん。


「そ、そうだったのっ!? じゃあ、サンタさんはいないの?」


「それは違うわ。サンタさんとは、セント=ニコラウスさんが日本人にはサンタクロースに聞こえたっていうところから来ているのよ。つまり、サンタさんは実在しているの。でも世界中を回るのは大変だから、サンタさんは魔法をかけたのよ」


「魔法?」


「そう、魔法。それはね。サンタさんの存在を知った親にクリスマスにプレゼントを買わせる魔法なの。だから、母さんはサンタさんの魔法でプレゼントを買って、ミトに届けているのよ」


「そうなんだっ! わかった。じゃあ、サンタさんは本当はいるんだね!!」


「まぁ、正確には亡くなっているからいたが正しいけれど、そうね、サンタさんはいるのよ!」


 私はそれで親がプレゼントを買っていることに納得したのよね。


                  ※


「へ~。なるほど、そんなことがあったんだ。さすがミツバさん、即興で作る話としてはおもしろいね」


 ヤナエ先輩は感嘆の息を漏らしながら、感想を述べた。


「いや、でも、どうなんですかね。実際問題、クリスマスのシステムを知ったら必ずそうするじゃないですか。それこそ、噛まれたら感染するゾンビものみたいに、知るだけで感染して、皆が同じ行動で子供にプレゼントを渡すなんて……。完全ホラーですよね」


「なぜ、ミトちゃんは良い話をホラーにするのかな?」


 ヤナエ先輩の呆れ声がルーム内に木霊した。

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