最終話「最終選考 カクドコン終了」
私のスマホにカク・ド・クハからツイートが飛んできた。
5月の下旬。この頃に来るツイートと言えば、あれしかなかった。
そうカク・ド・クハコンテストの受賞発表だ。
「とうとう、来たか……」
私は思い指をなんとか動かし、ツイート先に貼られているリンクを押す。
受賞者発表のページで一度止め、母さんに報告しに行く。
「母さん、今から受賞者の発表を見るけど、たぶん、落ちてると思う」
「そうね。もし受かってたらなにかしら連絡が来てるでしょうからね。あたしの時代なら電話だったけど、今はメール?」
「うん。そう。ネットの噂だと発表の2週間くらい前には連絡くるみたい」
「へぇ、意外と悠長なのね。マンガだと他の編集部に取られるといけないから、すぐに連絡が来てたけど」
「受賞した人しか知らないやつだね。でもそうだよね。普通すぐに来るよね。私1週間前からメールすら見られずにいるけど、1週間程度じゃダメだよね。たぶん受賞している人にはメール来てるよね」
「たぶんね。でも、落ちて元々なら、気は楽なんじゃない?」
「ま、そうだね」
私はその勢いのまま、ページをスクロールさせていく。が、やはり、そこに私の名前は無かった。
「あ~、やっぱりダメだったよ。まぁ、いきなりでここまでこれただけスゴイってもんよ! はははっ」
無理矢理笑みを作って、そのまま、逃げるように自室へと籠った。
ベッドへダイブすると、勢いに任せて拳を枕に打ち付けた。
悔しいっ!! 受賞できるとは思ってなかったけど、でも、それでも、どこかで期待していたっ! 母さんに近づけるんじゃないかって! マンガ家の娘じゃなく、ミトっていう名前のあるキャラになれるんじゃないかって!
これじゃあ、こんなんじゃあ、母さんについて行くことなんてっ!
私はサブキャラですらない、モブキャラ止まりなのっ!?
悔しいっ! でも、涙すらなぜか出ない。もう、何か、決定的な何かが無くなってしまったような、そんな絶望的な感覚に囚われていると。
「ミト! 立ちなさいっ!」
母さんの声が響く。
「か、母さん……?」
私が呆けていると、母さんは構わず口を開いた。
その口から発せられた言葉は私の予想を裏切るものだった。
「次は、どんな小説を書くの?」
叱咤激励でもなく、慰めの言葉でもなく、母さんは次回作の案を聞いてきたのだった。
「わかんない……、それに、今回書いたのは私が書いた中で最高傑作だったの。でも、それでもダメだった……。もうこれ以上は書ける気がしないよ」
「そう? 確かに最高傑作って思う作品を描けるときは良くあるわね。でも、続けて描いてると、それを超える作品も絶対描けるものなのよね。描いて、描いて、描き続けているのに成長しないなんてことはないっ! その最高傑作は今自分が書ける最高の作品というだけよ。未来の自分はさらに素晴らしいものが書けるはずなのよ」
「そうかな……、でも、長編を書くのってすごく大変だった。3か月ずっと小説のことだけ考えて書いてたよ。それで、この結果じゃあ……」
「ん? あんた、もしかして、今回の結果が大失敗とか完全敗北とか思っちゃってるわけ?」
「いや、最終選考まで残ったからそこまでは思ってないけど……、でも最終選考まで残ったからこそ辛いというか」
「ミト、あんたは編集者のことを分かってないわね。編集者ってのは最終選考に残るような人はチェックしてるのよ。それで、何度も何度も最終選考に残るような名前は意識してくれるものなのよ。だから、無駄なことなんて1つもないわ。これが仮に最終選考に残らなかった作品だったとしても、長編を書けたという経験は積み重なるし、今回は最終までいったから、きっとミトの作品を覚えている編集さんが出来たはずよ。
どんな努力も、無駄になんてならないわっ!!
これがスタート、最終選考にまで残るような作品を何度も書いて、それでやっと作家への第一歩が踏み出せるのよ! 今回のコンテストはジャブをお見舞いしてやったくらいに思っとくのがいいわね」
母さんはそう言い放つが、次の言葉では、
「でも、趣味なのだから辞めるのも自由よ。本当に辛い思いをしてまで書く必要はないのだもの」
そんな風に言われたら、余計辞めるなんて選択肢、なくなるじゃないっ!!
「ううん。大丈夫。続けるよ。書くのはなんだかんだ楽しいし。それに私は母さんの娘だよ。受け継いだ才能とか何かしらありそうじゃない? まぁ、100回くらい落ちたら才能が実は無かったって落ち込むことにするよ」
「本当に続けるのね。趣味を仕事にするってかなり大変なのよ。趣味のままにしておけば良かったって思うわよ」
「いや、母さんは続けさせたいの、辞めさせたいのっ!? 母さんはマンガ家になったこと後悔してるの?」
「いいえ、全然。好きでなったんだから後悔するはずないでしょ。後悔してたらこんなに続けてないし、続いてないわよ」
「だよね!」
私はニッと心から笑みを作ると、アイデア帳とペンを掴んだ。
「さ~て、次のアイデア考えないとね!」
「それなら未来から来たネコ型ロボットの話とかは?」
「有名過ぎて誰もパクッてないから、逆にいいかも。って絶対ボツだから!!」
これからも母さんの迷言に振り回されながら、私は小説を書いていくと思う。
諦めなければいつかきっと、母さんの隣に立てるような、せめて名前ある脇役くらいには成れると信じて……。
了
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