第33.5話「いーちゃんとヤナエ先輩」

 私のプロットが終わると、次にヤナエ先輩の番となったのだが、未だにどうにもいーちゃんとヤナエ先輩がぎこちないような気がした私はここで一芝居うって出ることにした。


「すみません。ちょっとお手洗いに行って来ますね。二人で適当に雑談でもしててください」


 そう言って部屋を出てから、私はトイレへとはいかず、中の様子を観察する。


「…………」


 気まずい沈黙が流れる。


「あ~、えっと……」


 先に口を開いたのはヤナエ先輩。


「ご趣味は?」


 言うに事欠いて、このセリフっ!! 

 私は、「お見合いかっ!」とツッコみたくなるのを堪えて、見守る。


「……マンガかな」


 うん、マンガ家だし、当然の反応よね。


「ボクもマンガ好きだけど、どういうジャンルが好きなんですか?」


「少女マンガ全般かな……」


「ほうほう。なら、『隣のモンスター君』とか『僕と貴方の大切な会話』とか分かったりします?」


「もちろん。両方同じ作者。わたしも大好き」


「じゃあ、超マイナーどころで、『アンデッド屋』とかは?」


 いーちゃんは一瞬押し黙り、次の瞬間。


「……超好き」


「まさか、こんな近くに知っている人がいるだなんて」


 二人は固い握手を交わす。

 好きなマンガが好きな2人には、壁なんて存在せず、気まずそうな空気は一転。少女マンガの話題で盛り上がる。


 うん、うん、良かった、良かった。好きな本が一緒っていうのは心の国境を超えるのねっ!!

 私は影ながら涙を拭う振りを見せる。


 ただ、1つ問題が……。私は2人が話している作品については知らないのよね。タイトルくらいは聞いたことあるけど。

 空気が一変したのは良い事だけど、今度は私がこの部屋に入りづらいんですけど。

 好きな本が違うっていうのは、心の溝を作るようね……。

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