第31話「アイデア!」

 長編を書く覚悟を決めたはいいものの、全然良いアイデアが出て来ない。


 かつて、母さんは私にアイデア出しを手伝わせたとき、「一人では出せるアイデアに限りがある。複数で話した方が良い物が出来上がる」と言っていた。

 そのときは、誰かに頼るいい訳じゃないかと思いつつ快諾して一緒にアイデア出しをしたことがあるんだけど、今は、その言葉の意味をしっかりと理解した。

 

 一人では超えられない壁も、みんなでなら超えられるとっ!!


「はいっ! という訳で、私の為に集まってくださり、ありがとうございます!」


 今、私の部屋には、マンガ家デビューを果たした、いーちゃんとヤナエ先輩が座っている。

 二人は初対面なので、若干気まずい感じを出しているけど、そこは追々。


「まずは自己紹介からしていきましょうか」


 私は二人の紹介をしてから、本題へと入る。


「さて、それで今日はなんの集まりかというと、ここにいる3人には共通点があります。それは、プロット及び作品のアイデア出しに困っているということです。そこで、三人寄れば文殊の知恵とも言いますし、アイデアを出し合っていきませんか?」


「えっと、ミトちゃん、主旨は分かったけど、そう上手く行くかな?」


「ヤナエ先輩、とりあえずやってみることも人生には必要だと思いませんか?」


「まさか後輩から人生を諭されるとはっ。でも、ミトちゃんの言う事も一理ある」


 ヤナエ先輩が納得したところで、本題へ。


「では、早速、私から行きましょう! お二方も、人のプロットを作ることによって目覚ましい成長をするかもしれませんし!」


「なんか、ミトちゃん、ボクらをいいように使おうとしてない?」


 ジト目で見てくるヤナエ先輩に、私はすかさず反論する。


「そんなことないですよ。これはまず私が実験台となることにより、その後の二人のプロットをより良いものにしようという老婆心からの行動ですよ」


「こういうときに老婆心とか使うのは、逆にかなりウソっぽいけど、まぁ、いいや。確かにボクらにも利がありそうだしね。で、ミトちゃんはどんなジャンルで書こうと思ってるんだい? サークルのときみたいにホラーかコメディかい?」


「う~ん、私ってどんなのだったら長編書けると思います?」


 そこでバッと手が挙がる。


「やっぱ主流の異世界転生ものじゃない!」


「それ、ヤナエ先輩の趣味ですよね?」


「まぁね。でも、それだけじゃないよ。ボクが一番協力できるジャンルだからね。ほら、後輩が困っていたら助けるのが先輩の務めだろ」


 ヤナエ先輩はキメ顔でそう言った。


「ヤバイっ! 先輩カッコイイ!! でも、私、実は異世界ジャンル小説は全然読んだ事ないので却下です」


 私は満面の笑みで伝えた。


「この流れで、ナンデッ!!」


 そこで、すっといーちゃんから手が挙がる。


「わたしは、ミトちゃんは、ツッコミ良くしてるし、コメディがいいんじゃないかなって……」


「コメディ……、コメディかぁ。母さんは、コメディ難しいって言ってるんだよね。って」


「なんで?」


 ヤナエ先輩は首を傾げながら訪ねる。


「ほら、泣かせるポイントって決まってるじゃないですか。苦難を乗り越えたとき、感動の再会を果たしたとき、悲しい別れとか、それで泣くかは個人差ありますけど、泣ける話だって思うのは共通ですよね。でも、笑える話って共有できるものがないんですよね。私には爆笑の話でも別の人には全然笑えない話ってよくあるじゃないですか」


「なるほどね。言われてみれば確かに……」


「でも、コメディか。短編でやったときはヤナエ先輩から結構批評もらいましたね」


 苦笑いを浮かべながら、ヤナエ先輩の方を見ると、眼鏡をキラリと輝かせる。


「まぁね。でも、あれはツッコミ不在だったのが一番の原因だからね。そこを意識すればミトちゃんのコメディはいいかもしれないね」


「ミトちゃん……、普段めちゃくちゃツッコミなのに……」


 いーちゃんのぽそりという一言が地味に効くよ。ボディブローだよ。


「そうだよね。普段のミトちゃんをキャラとして出せばいいんじゃないかな。良しっ、ジャンルはこれで決定だね。いや、良かった良かった」


 こうしていつの間にか私の書く小説のジャンルが決定されてしまった。

 って、いやいや、ダメだよ。ただのコメディじゃ、カクドコンはダメなんだった!


「あの、すご~く言いづらいんですが、私がやるカクドコンはコメディってジャンルがないんですよね。だから、そこにプラス何か付けないといけないので、現代ファンタジーなんてどうかなって」


「いいんじゃない。というかやっぱり、実はミトちゃん書きたいものがあったんでしょ?」


 ヤナエ先輩はやれやれと肩をすくめる。


「ボクも一応女子だから分かるけど、最後の一押しってやつが欲しいときってあるよね。ボク自身もミトちゃんのコメディテイストの現代ファンタジーは読んでみたいから、頑張ってよ!」


「わたしも。応援してる」


「先輩······。いーちゃん……」


 うっ、泣くのはまだよミト! 泣いていいのは全部やり切った時だけなんだからっ!


 そうよね。ここまで言われたら腹をくくるしかないわねっ! なんとか10万文字を目指すわよ!! となれば次はプロットよ。プロット!!

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