第29話「お箸の持ち方」
我が家は、マナーには特に厳しくないのだけど、私自身、母さんに連れられてそこそこのお店に入ったりするから、周りに合わせてそこそこにマナーが分かる人には見られていたはずだ。
事実、友達からは何度か、食べ方キレイとか所作が丁寧とか言われたりしてるし、先生からも育ちが良いという評価が多かった。
ただ、そんな私にも1つだけ、明らかに変なところがあるのだが、それももちろん母さんに注意されることはなかったのだ。今までは……。
「ミト、ちょっと手が上手く描けないからモデルになって」
私は記者会見で結婚指輪を見せびらかす女優さんのように手を挙げた。
「この私の手タレにも負けない細くてキレイな指を存分にモデルにしていいよっ」
「じゃあ、お箸で適当に何か持って」
母さんからお箸を渡され、その辺にあったお煎餅を個包装の袋ごと掴む。
「……んんっ? ミト、あんたお箸の持ち方、変じゃない?」
「ああ、そうかも。でも、これで不便なくお箸使えてるしいいじゃん」
「ダメよ! マンガで描くんだからしっかりした持ち方にしなさいっ!! マンガは誰かの記憶に一生残るかもしれないものなんだから、妥協は無しよ!」
いままで、持ち方とか一度も言われたことがなかったのに、マンガの為、急遽お箸の持ち方を学ぶことになった。
「お箸はこう持つのよっ!」
とりあえず母さんが持つ持ち方をそのまま行い、その姿をスケッチされた。
それからは、普段から持ち方に気をつけ、時折持ち方が分からなくなるとユーチューブで確認しつつ行う。
「あっ、今まで持ってたところに何かを挟んで強制的に使えないようにすると自然と正しい持ち方になるっ!」
それに気づいてからの上達は目覚ましく、すぐに正しい持ち方が出来るようになった。
「おっ、ちゃんとした持ち方になったわね。様になってるわよ。これでいつあたしが手の描き方に悩んでも大丈夫ね!」
「でも、初めて母さんにマナー的なこと言われたよね」
「うちはそんなに厳しくないしね。それにあんた割とマナーとか好きみたいで知ると勝手にやってるじゃない。だけど、お箸の持ち方は、仕事で必要だったからね。そこは厳密にいくわよ」
「それって、もしかして仕事に必要だったら、他にも何かやらされる可能性があるってこと?」
「……いや~、どうだろ。ほら、あたしのマンガってそこまでハードなのないし」
「それって、つまり、させられるかもってことね。そういえば、カルメ焼き作ったりしたよね。すでに! それくらいならいいけど、ハードなのは絶対イヤだからね。ゲテモノとか! あとは怖い系もっ!!」
「その辺りは、想像で描くから大丈夫よ。……たぶん」
「こっちちゃんと見て言ってくれるかなぁ!!」
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