第6話世界の連結(1)

目が醒めると、見覚えのある天井が目に映えた。

瞼を擦って目を凝らして見ると、自室の天井だった。

身体は丁寧にベッドに収まっている。

やはり今までの出来事は夢で、自分は3日間眠り続けていた?僕はそう考えた。

がしかし、この優の考えはすぐに掻き消された。

自分の身体を起こし、停まっていた日常を始めようとしたその時、優の耳が聞こえない筈の音を拾ったのだ。

その音とは「寝息」である。

すぅ…すぅ…と短めの耳に触らない程度の小さな音だった。

自室のベッドは一つしか無いので、優本人しか寝息を立て寝る時以外に出る音ではない。

だが、今優は起床しているのだ。

ならば別の人物が優に添い寝している以外の可能性しか無い。

僕には姉が1人いるが、姉は向かいの部屋で寝るので可能性が無い。

慌てて被っていた毛布をめくり上げると、あの夢に出てきた少女達が幸福を噛み締める様な笑顔で寝入っていた。

海石榴が微睡みながら優の腕にくっついて来た。

優は2人を起こす為に彼女達の頰を軽くつついた。

2人は目を醒ますと欠伸をしながら腕を伸ばして意識を覚醒させた。

優は夢の世界の人物と思っていた彼女達が登場した事に困惑していた。

「な、なんで2人が僕のベッドで寝てるんだ?!ここは現実だろう?君達何でここに居るんだ?」

優は朝一番の発声にも関わらず荒々しく声を上げる。

「朝から騒がしいわね!もう少し声を下げて頂戴。耳に響くわ」

「うぅん。優、もう少し優しく起こしてよ。少し、耳がキーンてするよ。キーンて」

「ご、ごめん。じゃなくて!!何で君達が出てくるんだ!?」

優の発言に対し、2人は「「付いて来た」」の一言、ただそれだけだった。

優は2人の話を聞いているヒマが無い程に遅刻へのカウントダウンが刻々と刻まれていることを時計を見て知る。

「優、今日はどうする?一緒に二度寝する?」

「優、この世界について聞かせて頂戴」

2人は僕の都合に合わせないマイペースな会話を出している。

2人に構っているヒマが無いことに気づいた優は身仕度を瞬時に済ませ、2人を部屋に残して学校へと向かった。

学校に着くと遅刻まで残り2分辺りだった。

2人には申し訳ないと思うが理由は帰宅してから説明して貰おうと、優がそう考えた矢先。SHRが始まり、「ズキッ。」っと頭に鋭い痛みが走る。

そして、脳裏に声が響く。

「─チカラが欲しいか?

…彼女達のチカラを共に願望する者か?」

その声は聞いたことの無いはずだったのに心の何処かで懐かしさを感じる声だった。

思考回路を巡らせて思い出そうとするが出てくる気配すらない。

謎は深まる一方である。

しかし、声が低いので男と仮定した。

僕は少し黙って考えた。そして、

「うん。欲しいし望むかな。どんな能力かは理解出来ないけど」

優は愚直にその声に答えた。

声は驚いたのか呆気に取られたような声で、

「そうだろうな、彼女達のチカラを望むわけが無いってえぇ!?望むって言った!?ぅ嘘に決まってるわ!あの[優]では無いはずなのに、って事は私も望まれているって事!!??[世界の連結]は済んでいないはずなのに!?」

野太い声が甲高い声に変わっていく。

その声はあの時の2人の様な幼さがあるものの、少し大人びていた。

「君は誰で、何故僕に問い掛けて来るのかは解らないけど、僕はあの娘達と契約したんだ。そして、何よりも僕が、僕自身が決めた事だ。それを曲げる事は選びたくない。それが選ぶという事じゃないのかな?少なくとも僕自身はそうだろうなと想っているよ」

優は自分自身の考えを声に語った。

すると、声が場の空気を変える様に咳払いをして「莫迦だな。しかしその愚直さは優本人に間違いなさそうだ。よし、あの2人に[睡蓮]に会ったと話せ。そうすれば己が望む路が開かれるだろう。また会おう。我が愛しの人よ」

その返答を最後に謎の声と頭痛が無くなった。

そして、聞き慣れた声に意識を覚醒させられた。

「〜ぅ。ゅう。優。優!起きなさいってば!優!!」

「〜ぅん?遥?おはよう。SHR終わった?」

「はぁ?あんた何言ってんの?もう帰宅時間だよ。今日一日中寝てたけど何かあったの?」

その声の主は幼馴染の安藤 遥だった。

遥が一応起こしてくれた様で、起こしがてらに飛んで来た質問に優は答える。

「別に何もないけど。強いて言えば妙にリアルな夢と言うか何と言うか。そんな感じのものはあったけど。特には。ありがと、起こしてくれて。今日は急いでるんだった。また明日」

「ま、まぁまた明日。明日はちゃんと授業受けてよね?!」

そんな他愛もない会話を終え、2人はそれぞれの帰路に着く。

そして時は進み、時間は普段帰宅している時間となっている。

帰宅すると、家には踏み入るだけで刺突痕が出来そうな程の重く、鋭く、痛々しい雰囲気が漂っていた。

「た……ただいま」

そんな空気の中でも挨拶はしなければなるまいと考えた優はそう言葉にして廊下を通って居間のドアを開ける。

すると、そこには母の唯、姉の於菟(おと)、海石榴、香那といった順の対面する形で居間に座っていた。

「優、お帰り。ちょっと其処に座りなさい。話があるのよ。話したい事、解るわよね?」

「優〜、取り敢えず是か否で答えな?!お前には拒否権と黙秘権は無いと思いなさい!!」

「…………あ、はい」

優は死を悟りながら即座にその場で跪き2人の言葉に返事をした。

その言葉を聞いて直ぐ、2人は「「この2人は誰?!なんで優(あんた)の部屋にいたの?!」」

両人は、優の自室にいた2人の事を追及して来た。

うわぁ、思った通りの展開になったなと心底思った優。

とっさに思いついた「方便」を2人に語った。

「父さんに用があったみたいなんだけど、見つからないまま。偶然見つけた僕を訪ねて来たみたいでさ。話を聞くと泊まる所がないって事態になって2人を僕の部屋に泊めてたんだよ」

この答えに対して、母と姉が話を裂くように声を被せて来た。

「「まさか、そんな事がある訳な………」」いとは言い切れ無いだろうな。

と思った通り、両者共々、最後の言葉は出ずにいて、母に至ってはおずおずと考え込み始める。

僕の父は仕事と趣味の都合上、外国を転々としている人だ。

そんな人に外国人の知り合いが居ない訳がない。

姉はぐうの音も出ないような表情で黙り込んだ。

しかし、母は姉と違って食い下がって来た。

「それは良いとして、それで海石榴さん?と香那さん?だったかしら。貴女達は何故拓也を訪ねに来たのかしら?」

2人に質問を投げて来た。

「母さん!2人はここに来たばっかりで疲れてるんだ。少し落ち着いt」

「優は黙ってなさい!!」

まさかのフォローの断絶までして来るとは。

「で、海石榴さんと香那さん。私は貴女達にきいているんだけど?」

流石にあの2人にはハッタリに口裏を合わせてくれる程の器用さが無いと思っていた矢先。

「えぇ、そうよ」

「うん、そうだね」

「私(ボク)達に優を守るようにと。頼まれた(のよ)(んだ)」

「「例え私(ボク)が命を失おうとも、優だけは絶対に守り抜く!!それが私(ボク)の目的であり、切望しているものだから」

………あったようだ。

正直に言って彼女達はプログラムされた機械の様に、事前に伝えた事しか行動してくれないと思っていたのでこれは嬉しい誤算だった。

しかし、その言葉を発した時の彼女達の表情に偽りは無く、ただそう決意したのだと言わんばかりの面構えだった。

この言葉を聞いた母は、嵐が起こる前の様な静けさをもたらした。

母が黙り込んで10分程度経った時、遂にその口から言葉が織り出された。

「良いわ。そのでまかせを信じましょう。ちょっと付いて来なさい。あ、於菟は来なくて良いわよ。付いて来たら、貴女が大切にしてる、

[コレクション]を燃やすけどその覚悟があるならいらっしゃい?」

於菟はその声を聞いて、「イッテラッシャイオカアサン。ツイテクルキハマッタクナイデス」と感情が消えた声色と、死んだ魚の様な生気を失った目で唯に答えた。

唯に言われるがまま優達は唯に付いて行くと、そこには大きな祠があった。

例えるなら諏訪大社の様な堂々として歴史を感じさせる祠。

その祠の扉を前にして唯はそっと手を触れて叫ぶ。

「─我、[絶]の名を継ぎ、語る代行者。世に遍く神秘の秘匿者。為れど、世界に撒かれた悪を己が身に寄し者なり。」

すると、ゴゴォと重々しい音を立てながら祠の扉が開かれる。

扉が開くと同時に、地下にある筈の祠の中から眩しい光が差して来る。その光はあの時と同じかそれ以上の強さがあるものの、日の光の様な温かさが感じられる優しい光だった。

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