第5話世界のイロハ

僕がこの世界に来て2日が経過した。

この世界についての情報を得る為に彼女達と情報交換をした。

分かった事は

1、この世界は無限に存在する並行世界の1つである事。

2、彼女達は人間であって人間ではない事。

3、この世界には魔術と呼ばれる独自のテクノロジーがある事。

4、僕が彼女達の主人になった事。

この4点が挙げられる。

僕が1番驚いたのは4だった。

優はあの問い掛けが契約の呪文だった事を知らされていなかったのだ。

何故か2人がニマニマしてるのか優には分からなかったが理由が分かると少し気分が下がっていく。

「「もう何も聞きたい事は無い?」」

2人は語り疲れた顔をして聞いてきた。

大体の世界について知れたので礼を言った優だったが、2人に最後の質問を投げた。

「2人の名前が知りたいな」と。

質問を聞いた2人は照れながらも答えてくれた。

「私は海石榴」と碧眼の少女。

「私は香那」と紅眼の少女。

しかしあの問い掛けが契約の呪文だなんて雰囲気が出てないと優は思ったのだろう。

「頼むよ!やっぱりただの会話が契約の呪文ってなんか嫌だ!もう一回最初からさせてくれ!」

優は2人に再契約を望んだ。

「はぁ……分かったわ。だけどそうしたのは「貴方」なのよ?それだけは理解して!!」

2人はしぶしぶ受託してくれた。

「呪文なんて聞いてないけど何を言えばいいのかな?海石榴?」

「別に優の心の底から出て来た文章を言葉にすれば良いの」

「そんなもので良いの?」

「あと、右手を前に出す事も大切。正直分かりやすく認識する為にやる事だから良いの。私達もそれに従うから。ね?香那?」

「えぇ、その流れになるわね」

契約なんて形だけのものなんだと思うと少しガッカリする優だった。

「じゃあ、言うよ」

覚悟を決めた優は右手を前に突き出し告げた。


「─夢幻の世界は儚く交じり、境界線を破却する。

世は混沌に交じり果て、時は一筋の光と為りて

循環せよ。

我はこの世、この理から外れし異端者なり。

去れど汝らは我を咎めぬ共犯者なり」


これは心の奥底から思いついた取り留めの無い言葉の集まりで、呪文とするには奢がましい。

しかし、彼女達はそんな取り留めのない言霊を真剣に聞いてくれている。

優はそう考えながら呪文を唱え続けた。

「─汝らは我を縛りし抑止なり。

我は汝ら全てを求め、使役せし罪人なり。

この言の葉、この心意に惹かれし者は答えよ。

我はこの世に安寧を与えし者なり。

我はこの世に悪を蔓延させし者なり。

無辜なる境界より出でよ、我を守りし者よ」

優が呪文を唱え終えると2人が惹かれる様に応じた。

「「─我は汝の剣であり盾である咎人なり。

混沌の世界から産まれ落ちた咎人なり。

汝は絡炎の花を愛でし異端者なり。

去れど汝に罪は無く、受けるべき罰も無し。

死の花を愛でし汝を我らが主人と認めん」」

呪文を唱え終えると2人の身体が光り出した。

あの問い掛けに呼応する様に瞬いている。

光が消えると2人に変化が訪れた。

ゴキ、バキ、メキョ、ゴリ、と骨格が破壊される音を連れて。

「クウゥゥううううアアァァァア‼︎」

「ぐううぐぐううぐうぅクウゥゥ‼︎」

2人共、叫び声を上げながらも懸命に痛みに耐えている。 優は音に恐怖を覚え2人から目を閉じて耳も塞ぎ体を反らす。

「「もう良いわ、こっちを見て優。」」2人の声を聞いて安心した優は2人の方に目を向けると、驚くべきことに気付いた。

9歳程度だった2人の背が優と同程度に伸び始

め、女性らしさが垣間見える肉体に成長した。

海石榴は、男が夢に見る程の恵まれた肉体に。

香那は、ファッションモデルの様なスレンダーな肉体に。

「2人共どうしたの?身体が成長してるけど。失敗したの?」

「違うわ。私達が《成長》したのよ。私達はオーブの中でも特別で、主人との心の距離がが近くなる程その人の年齢に近付くの」

「あぁ。これでボクも本来の喋り方で喋れるね。固苦しかった。だって海石榴が「少しの間私の喋り方を真似なさい!」って怒ってたからさ。優もこの喋り方の方が良いよね?」

「まあその方が良いけど、じゃあさっきまでは僕を2人は信用してなかったの?」

「厭、違うわ。姿を戻して優の負担を軽減させてたの」

「その方が優、君の為だとボク達は思ってたのさ。気を害したなら謝る」

2人は僕の誤解を解く様に言い放つ。

2人が嘘をついてないと分かったから優は黙った。

オーブとは、クリスタルに魔物やら動物やらを封じて、使役する魔道具らしい。

オーブのレア度と強さを表している[メイジカラー]と呼ばれるモノが存在する。

[暗黒]、[黒]、[灰]、[白]、[純白]の5つに分類される。

黒系が従い易く、能力が低い汎用型で[ウルフ]

などが分類される。

白系が従い難く、能力が高い専用型で人間型が分類される。

この分類を凌駕するオーブが存在する。

そのオーブこそ彼女達なのだ。

色は[7色]で存在していたとされ、数多の伝承で語り継がれている伝説のオーブ。

その名は[絡炎の花]。別名[失われた感情]。

7色と言われるだけあって7人居るらしく、海石榴は「赤」香那は「緑」になるらしい。

彼女達は互いに険悪の仲らしいが、仲が良い組み合わせがあるのだとか。

海石榴と香那がその例だ。

彼女達の能力は「規格外」だ。

その言葉でしか表せない。

例えるなら、目に映る線をなぞれば死ぬとか。自分の世界を展開して、相手の生命力が枯渇したりとか。避けた筈なのに刺さる槍とかそんなチャチなモノじゃなくて、見ていた人にも説明出来るもんじゃないすごいモノだ。

形式で表すのなら、海石榴は[無]、香那は[傷]らしい。

主人になった優は今後の方針について悩んでいた。

そんな時、2人が優に語り掛けた。

「「主人(優)。そろそろ時を戻そう。再び相見える明日まで。」」

優の意識はその言葉を聞いた瞬間、海に溺れるようにゆったりと落ちていった。

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