第4話 初戦闘
四島さんが半身の体勢で左手を前に突き出し、右手は腰ぐらいの位置まで引き絞る。両手は薄っすらと光って見え、その状態で静止し、妖魔が来るのを待つ。
妖魔達は四島さんが待ち構える中、一斉に襲い掛かる。
迫りくる妖魔の攻撃を左手でいなし、右手の拳を叩き込む。すると、妖魔は霧散していく。
四島さんは即座に同じ構えを取り、後続の妖魔に備える。
後続の妖魔が二体同時に襲い掛かるが、それもうまくいなし、的確に右の拳を叩き込む。
妖魔の追撃が来なくなると、突き出した左手の掌を上に向け、指先をクイッ、クイッと軽く曲げる。挑発している、そのことが分かる程度には妖魔に知性はあるようだ。妖魔は怒ったような形相を浮かべ、更に押しかかる。
一体、また一体と的確に処理していく。数を4体まで減らしたところで、妖魔は左右に2体ずつ別れ、一斉に飛び掛かる。
「『疾風』二連!!」
俺は左右に持った手裏剣を投げつける。その手裏剣は風を纏い、回転速度を上げていく。手裏剣は高密度を風を纏い、風の刃が可視化できる程に強力に成っていく。
妖魔はそのことに気付いたが、時すでに遅しだった。風の刃が左右から迫る妖魔2体ずつ、合計4体を纏めて斬り裂いた。
「お見事」
「どうも」
体を斬り裂かれた妖魔は力尽き、消滅した。
これで下級10体は完了だ。さて、お次は‥‥‥‥
「グオオオオオオオオオ!!!!」
大きな雄たけびと共に姿を現す中級妖魔、体は3mくらいで体は赤く、口からは牙が見え、頭部には角が生えている。
「鬼種、ですか‥‥」
中級妖魔は鬼に属するモノだった。
日本の昔話で有名な鬼、その存在は過去の日本でも頻繁に登場している。日本の三大妖怪の内、鬼が二体いる程、日本では有名な妖魔の種族だ。
「これは骨が折れますね。風魔さん、引き続き後方支援をお願いします」
「はい。『疾風』二連!」
俺は再び手裏剣を左右の手から放つ。風の刃を纏い、勢いを増し、鬼に迫る。先程、下級妖魔4体を纏めて斬り裂いた風の刃、その切れ味ならば鬼であったとしても損傷は免れない、はず‥‥‥‥
確かに俺の『疾風』は鬼の体を斬り裂いた。だが、あくまで切り傷程度の損傷でしかなかった。
「チッ!」
思わず舌打ちが出た。
鬼に与えた損傷から見て、おそらく『疾風』では有効打に成り得ない。何発も連続で斬りつけでもしない限り、鬼の体は斬れないだろう。
「グアアアアアッ!!」
雄たけびを上げた鬼は勢いよく地を蹴り、向かってくる。
俺はその場から飛び退き、距離を取る。四島さんは鬼の懐に潜り込む様に距離を詰める。
「ハアッ!!」
距離を詰めた四島さんは右の拳を鬼の腹に叩き込む。
ドスンッ、という重い音が響く。鬼はたたらを踏むが、直ぐに落ち着いた。
「なるほど、これは厄介だ」
四島さんは呟いた。その声が風に乗って俺の耳に入る。
それに四島さんの右手にも影響があったようで、右手を小さく小刻みに振っている。どうやら、ダメージがあったのは四島さんの方も同じようだ。
「硬いですか、やっぱり‥‥」
「ええ、相当な硬さです。多少のダメージはあったと思いますが、私も拳を少し痛めました。痛み分け、と言うには少し分が悪いところです」
これは困った、俺の攻撃も四島さんの攻撃も鬼にはダメージが通りにくい。斬撃では薄く体皮に傷が出来た程度、打撃は多少ふらつく程度、総合すると大したダメージを与える手段がない、と言うことになる。
さて、どうするか‥‥‥‥切り札がない訳ではないが‥‥‥‥
「やむを得ません。この場は私が治めますので、風魔さんは少し御下がりください」
「え?」
俺が切り札を切るか否かを悩んでいる中、四島さんは俺に下がれと言った。
「いやいや、俺が下がって四島さん一人だけでアイツとやる気ですか?」
「ええ、これでも公務員ですので民間人は守らなければなりません‥‥‥‥それに‥‥」
「それに?」
「‥‥‥‥奥の手を切るならば、私からでしょう」
四島さんが両の掌を合わせる。すると両手が薄っすらと輝いていた光が更に強く、赤くなっていく。
「炎装『爆拳』、これでダメージは通るでしょう」
高密度の炎を両手に集めた、それが良く分かった。熱く、猛々しいはずの炎が両手を覆う様にコーティングされている。それでいて、自身の手を傷つける事などないようだ。炎は完全なコントロール下に置いているようだ。
四島さんは再び構え、鬼に対峙する。それを見て鬼は危険だと判断したのか、顔を引き締め対峙した。
「グオオオオオオオオオ!!!!」
鬼が大きな腕を振り上げ、勢いよく四島さん目掛けて振り下ろす。
四島さんは‥‥‥‥動かない。振り下ろされる腕をじっくりと見ているように微動だにしない。
まずい、と思った俺は風の刃を放とうとした。正直、間に合わない、と思った。それにこの程度の攻撃では鬼の腕を逸らすことなど出来ないのは分かっていた。それでもやらないと、と思った‥‥‥‥だが、
『ドガァァァン!!!』
爆音が響いた。そして、何かが飛んできた。
飛んできたのは‥‥‥‥鬼の右腕だった。
その後も爆音は断続的に響き渡る。爆音のする方を見れば、腕を失った鬼と追い打ちを掛ける四島さんがそこにあった。
腕を失いながらも、もう一方の腕を振り回している鬼とその攻撃を淡々と躱し、攻撃を仕掛ける四島さん。四島さんの攻撃が鬼に当たるたびに強烈な爆音が響き、鬼の腕がボロボロになっていく。
凄い破壊力だ、素直にそう思った。
炎を己の拳に纏わせることで熱を帯びているのは分かる。だが、ただ炎を纏わせるだけであんな破壊力が出るとは思えない。おそらく、相当に高密度に炎を圧縮しているんだろう。それを相手にぶつけた際にその破壊力を発揮するように術式を組んだと見える。そうでなければ、あの破壊力は相手だけではなく、自身さえも傷つけかねない。
四島さんと共に2か月程、妖魔退治を行ってきた。その間、退治してきた妖魔は下級止まりだ。だから俺も四島さんも全力で戦うことはなかった。正直、俺も奥の手を使えば、あの鬼を倒せる。でも、奥の手は酷く力を消耗する。一度使えば、一週間はまともに風が使えなくなる。だから出来るなら使用は避けたかった。
まあ、折角下がっていい、と言われたことだし、ここは任せて楽をさせてもらおう。
四島さんは鬼の攻撃を躱し、的確に反撃を行い、ダメージを蓄積していく。
このまま行けば問題なく討伐出来る事だろう。そう‥‥‥‥何事もなければ、だ。
「ウオオオオオオオオオ!!!」
鬼が吠えた。
鬼の眼には怒りが溢れている。
自身より小さな存在に翻弄され、痛めつけられ、自身の存在を脅かされていることに怒りを覚えたんだろう。
鬼の攻撃が苛烈さを増した。
残った腕を振り回し、叩きつけ、只管に攻撃をし始めた。
巨木なような足で踏みつけ、地を揺らす。
自身のダメージなど、彼方に吹っ飛んで行ったかのように、怒りのままに暴れ出す。怒りに支配された鬼はスキだらけだ。四島さんはスキだらけの鬼の腹に攻撃を叩き込む。
「ウオオオオオオオオオ!!!」
鬼はそんな攻撃など効かない、と言わんばかりに反撃をする。
鬼の攻撃は四島さんに当たらない、だが、四島さんは距離を取った。
「‥‥‥‥厄介ですね」
「どうしました?」
「体が硬くなっています。怒りの負の感情で妖力が増し、その結果、鬼の戦闘力が向上した、と考えるべきでしょうか」
鬼は再び雄たけびを上げる。
これは困った、俺の攻撃も四島さんの攻撃も鬼にはダメージが通りにくい。斬撃では薄く体皮に傷が出来た程度、打撃は多少ふらつく程度、総合すると大したダメージを与える手段がない、と言うことになる。
さて、どうするか‥‥‥‥
「あらあら、お困りの様ですね」
背後から聞こえてきたのは女の声だった。それも、ついさっき聞いた声だ。
「どうしてお前がこんなところにいる‥‥‥‥炎城寺」
風で探知しなくても、その存在が分かった。
「ふふ、大変そうですので、お手伝いをさせていただきますね」
現れた炎城寺は先程まで一緒に居た時と同じ制服を着込んでいるが、その手には見慣れないモノがあった。
黒の長筒、彼女はそれを中ほどで持ちながら、持ち手を掴み、引き抜いた。
「おいおい‥‥‥‥そんな物騒なモン、堂々とよく出せるな」
彼女が持つのは真剣―――日本刀と呼ばれる代物―――だ。
現代社会で時代錯誤も甚だしい、骨董品だ。
「私の‥‥いえ、私達、炎城寺一族の族長だけが持つことが許された神剣、所謂アーティファクトです。大昔は帯刀していてもおかしくなかったそうですが、確かに現代ですと持ち歩いていると逮捕されかねませんね。‥‥ですが、この場においては仕方がありませんよね」
彼女は刀を構えると、周囲の熱が刀身に集まっていく。その熱は徐々に彼女自身にも伝わっていくかのように、明るく、輝く様に熱を身に纏う。赤い、紅い、朱い太陽の化身の様な彼女がそこにあった。
「さあ、行きますわよ『朱雀』!!」
炎城寺は刀を右手に持ち、勢いよく鬼に向かって駆けていく。
鬼も彼女の存在に気付き、応戦の構えを取る。
「ハアアアアッ!!」
「ガアアアアッ!!」
鬼の腕と炎城寺の刀が触れ合い、鬼と炎城寺が交差し、互いの位置が入れ替わる。
炎城寺には特に異変はない。だが、鬼の方は‥‥‥‥腕が斬り落とされていた。
斬り落とされた腕は炎に包まれ、燃え尽きた。
「ガアアアアアアア!?」
鬼は自身に起こったことが信じられないのか、狼狽え、戸惑う。
「燃え尽きなさい。『飛炎斬!!』」
炎城寺は振り返り、刀を再度振り下ろす。
刀身に宿った炎が飛来し、鬼を斬り裂く。
「ッアアアアアアアア!?」
鬼は断末魔の叫びを上げる。
炎が鬼の体を焼いていき、そして、燃え尽きた。
「ふぅ‥‥退魔完了」
炎城寺は鬼の最後を見届け、刀を鞘に納める。
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