第3話 退魔師
学園を走り出て、急ぎ連絡を受けていた場所に向かう。
高校生であるがフリーの退魔師、所謂『個人事業主』だ。
クライアントの指定した時間に到着するのは当然だ。こんな些細なことで信頼を落とせば次の仕事がなくなりかねない。
俺は学園を出て、5分ほど走り、待ち合わせの大通りに到着した。ふうっ、とりあえずはセーフだな。
大通りには車の往来が激しい。まあ、5時から6時の時間帯だから帰宅ラッシュの時間だからだろうか。
俺が車の動きを観察していると、一台の車がスピードを落とし、ウインカーを点灯させた。車の助手席側のウインドウが降りてきて、声が聞こえてきた。
「すいません、風魔さん。急にお呼びだてしてしまって」
「いえ、構いません」
「どうぞ、乗ってください。状況は向かいながら、ご説明します」
俺は車に乗り込み、シートベルトを締めると、それを見届けてから、車が走り出す。
俺は車が走り出してすぐに、話を切り出した。
「先程電話で言っていた件ですが、本当なんですか?」
「‥‥ええ、少々厄介なことになりました」
車を走らせながら眉間にしわを寄せながら、男は答える。
男の人の名は四島 南次郎(しじま なんじろう)。
職業は警察官、年齢は24だったはずだ。
「しかし、中級妖魔が現出ですか‥‥」
妖魔にも強さに応じて階級分けがされている。
最下級、下級、中級、上級、最上級の5段階に分けられている。
俺が今朝倒したのが、最下級に位置している。
最下級は退魔師に成りたてでも、倒せることが出来る程に弱い。だが、これが一段上に上がると強さの桁が跳ね上がる。
最下級を1とするなら、下級は10、中級は100とドンドンと強くなっていく。
あくまで目安だが、今朝倒した妖魔を100体まとめて消し飛ばすほどの力が無ければ、中級妖魔は倒せない、ということになる。
「ええ、私も寝耳に水の話で全容はまだ把握出来ていませんが‥‥」
四島さんから情報を整理すると、まず今回の一件は妖魔の封印が解かれたのが発端だそうだ。解いたのは退魔師でもないただの一般人だそうで、イラついて蹴り飛ばしたら封印が解けたそうだ。
「なんすか、そのお粗末な封印は?」
「経年劣化というものです。術式を見せてもらいましたが、封印の文字が大分煤けていました。定期的に補修しなければならない封印だったようですが、それの仕方が途絶えたのかもしれません。聞けば数百年前に封印し、現代まで続けてきたそうですが、先代が先の大戦にて戦死なさって以降、口伝が途絶えていたそうです」
「‥‥‥‥はぁ、また大戦の影響、ですか」
大戦が終わり10年が経った。大戦時の影響が表舞台には、ほぼ出なかった。だが、大戦の終焉後に影響が出だした。多くの退魔師が死んだことで妖魔の対応に手が足りなくなった。その結果、妖魔の存在さえも一般人にも確認されるようになった。
影響はそれだけじゃない。退魔師が代々引き継いできた技法、術式等の多くも失われた。その結果、封印された妖魔が出てくる事態も発生してきている。
おかげで、最近の仕事には事欠かないが命あっての物種だ。出来れば、安心安全にくらしていきたいもんだ。
車はその後、十数分走り続け、目的地に到着した。
「さて、風魔さん。よろしくお願いします」
「ええ、分かりました」
俺は車から降りて周囲を伺う。
辿り着いたのは廃工場、周囲には邪気が感じ取れた。
「‥‥ふう、『索敵』開始」
俺の持つ力は『風』。『風魔一族』に連なるモノなら誰もが使えた。俺も気づくと『風』と共にいた。
『風』を呼ぶには、『風』を意のまま操るには、『力』が必要だ。その力を俺は、いや俺達退魔師は持っていた。その力を『魔力』と呼んだ。
俺は自身の魔力を糧に周囲に風を起こし、その風を通し、世界を調べる。
「‥‥敵は11体。下級が10体、それよりもずっと強いのが1体‥‥これが中級か」
「そうですか、ありがとうございます。やれやれ、中級妖魔という事しか聞いてませんでしたが、まさか他にも複数の妖魔がいたとは‥‥全く、報告は正確にしてもらわないと困るんですが‥‥」
「どうします? この場で出てくるのを待ちますか、それとも中に入りますか」
「おびき出すことは出来そうですか?」
「1,2体を倒せるかどうかですが、それでも良ければ」
「よろしくお願いします」
四島さんはその場でスーツの上着を脱いで、運転席に放り込む。
俺もポケットから手裏剣を取り出し、臨戦態勢に入る。
「では、行きます。『自由なる風よ、我にその力をかしたまえ』」
俺の言葉に呼応して、風が周囲に集まってくる。
俺は魔力を声を通じて、世界に送る。そうすることで世界に更に魔力を浸透させ、己の世界を実現させる。
さあ、俺の魔力を糧に集まってくれ、盟友たちよ。
「『風よ、我が意志に従い、その力を刃と変え、悪しきものを斬り裂け』」
風は何処にだってある。廃工場の中でも風はある。俺はその風を刃に変え、妖魔の周囲に発生させる。そして、風の刃はカマイタチの様に妖魔に斬りかからせる。
妖魔の体を風の刃が斬りつけるが、それで仕留めるには至らない。
やっぱり、力が足りないか。でも、こちらに来てくれるようだ。とりあえずは作戦通り、といったところか。
「妖魔が正面から出てきます。3‥‥2‥‥1‥‥0!」
勢いよく飛び出してくる、妖魔達。その数は9体、全て下級だ。そして全てが人の姿をしている。
「どうやら、落ち武者の亡骸に憑依した様ですね。おそらく妖魔と共に封じられ、封印が解かれた影響で妖魔となったのでしょう。事ここに至っては彼らを救うことは出来ませんね。さて、ではここからは私の仕事です」
四島さんが俺の前に歩み出る。
俺と組んで戦う場合、四島さんが前衛で俺が後衛を担当する。
俺達の能力の適性上最適な組み合わせであるが、それ以上に四島さんの立場もあり、こういう形で落ち着いている。
俺は退魔師であるが警察機構に属している訳ではないため『民間人』という位置づけになる。そのため警察官が民間人を矢面に立たせ、その上、怪我でもさせようものならマスコミからのバッシングは免れない。双方納得済みであったとしても、国家権力、いや公務員に対しての格好の攻撃材料になる。そのため、民間人が警察との連携を行う際は民間人に被害が出ない様に配慮しなくてはならない。
だが、退魔師の中には近距離主体の術師もいる。そういった術師は完全にフリーでやるか、目の前の人の様に警察機構に自ら飛び込むことになる。‥‥まあ、自ら、ってわけじゃないそうだが、確か兄の尻ぬぐいだったらしいが、詳しく聞こうとはしなかった。
まあ、とにかく目の前の妖魔の相手でもしますかね。
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