第6話 結婚の翌朝のバカップル
「
「みーくん。もうちょっと待って―」
玄関で、登校の準備を済ませて、古織を待つ。
そんな何気ない風景だけど、今日から
夫婦で登校。そのパワーワードに、言葉に出来ない感動が込み上げてくる。
「準備出来たよ―。ぼーっとしてどしたの?」
首を傾げてこちらを見る古織。服装は学校指定のセーラー服。
まだ衣替えの季節じゃないので、冬用の、黒地に赤いリボンのセーラー服だ。
でも、そんないつもの服装も、違って見える。
「いや、俺たち結婚したんだよなってちょっと感動してた」
「そ、そうだね。私、お嫁さんだもんね」
俺の言葉に釣られるようにして照れるお嫁さんが可愛らしい。
今が登校前じゃなかったら……っといかんいかん。
「今日は晴れ晴れ、晴れ晴れユカイー」
俺の隣で、よくわからない歌を歌う古織。
確かに、今日は晴れだけど……。
「ひょっとして、一昔前に流行ったアニソンをもじったのか?」
「せいかーい。ちょっとあまりにも晴れてるから、言ってみたくなっちゃって」
今日は雲ひとつ無い快晴だ。日付は4月6日の月曜日。高校3年生の新学期だ。
「今日から新学期なんだよな。知らない奴はビビるよな」
「名字同じだもんね。でも、驚くのを見るのも面白くない?」
「
幸太郎と雪華は、俺と古織の共通の友人だ。
「うんうん。言えてるー」
「しっかし、古織が俺の嫁さんかー。やっぱり、実感湧かないかも」
「えー?私はとっくに実感湧いてるよー。みーくんの意地悪ー」
わざとらしい拗ね方だけど、それも慣れたもの。
肩を組んで顔を寄せると、途端に機嫌がぱあっと良くなる。
「そういう手練手管ばっかり覚えるのは良くないと思うの!」
言いつつ、顔のニヤけが押さえきれて居ない。初いやつめ。
「古織も少しは手練手管覚えたらどうだ?ほれほれー」
顔を押し付けつつ、すべすべの頬をぷにぷにとする。
そして、首の辺りをこしょこしょとする。
「ちょっと、くすぐったいってば」
「でも、気持ちいいんだろ?」
「ちょ、ほんと、くすぐったい、って……」
声がだんだん艶めかしくなってきた。
なんか、俺まで変な気分になりそうだ。
「何、あのバカップル」
「あれだろ。確か、倉敷と……誰だっけ。バカップルで有名らしいぜ」
「さすがに目の毒だよな」
俺達がじゃれあっているのを横目に通り過ぎていく男子のグループ。
「ぶーぶー。別にバカップルでもいいじゃない?」
「だな。まあ、気にしないに限る」
聞く人が聞いたら恨まれそうだ。
でも、愛しい彼女……いや、嫁を愛でるのに何の遠慮をする必要があるだろうか。
そんな風にして登校した俺たちは、クラス替えの表を見ていた。
「やった。今回もみーくんと同じだね!これは奇跡だよ!」
「まあ、4クラスだから、4の3乗で1/64か。高いのか低いのか……」
「そんな妙に数学的な回答をするのはどうかと思う」
「俺も嬉しいぞ?ただ、ちょっと照れくさかっただけだ」
「なんだ。みーくんも照れてただけなんだー。素直に言ってくれればいいのにー」
と再びじゃれあいを開始する俺たち。
ともあれ、新しいクラスである3年Aクラスに向かう。
「俺は、窓側の前から3番目か」
「残念。私は通路側の前から3番めだよ」
天は、俺たちを隣の席にする程には贔屓してくれないらしい。悲しいことだ。
「相変わらずだね。バカップルのお二人さん」
声をかけて来た男の名は
長身で、中性的な顔立ちのイケメンな俺たちの友人。
その顔面偏差値に加えて、成績優秀と、人気のある要素は揃っている。
しかし、本人は、そういうのに興味がない。こいつが興味があるのは……
「それを言うならバカ夫婦だと思うわよ。幸太郎」
続いてやってきたのは、
名前に恥じない、白い粉雪のようなきめ細かい肌に、冷たさを感じさせる美貌。
幸太郎の彼女でもある。こいつらが甘々なやりとしているのは見たことがないが。
「バカップルはいいとして、バカ夫婦ってどういう意味だよ」
「既にあんたたちは夫婦みたいなもんでしょ」
「さすがに、結婚した事は伝わってなかったか」
「結婚?今度はそんなごっこ遊びやってるの?」
「いや、ほんとに結婚したんだ」
「誰と誰が?」
「俺と古織が」
その言葉に、幸太郎と雪華はしばらく固まったかと思うと。
「「ええーーーーーーーーーーー!?」」
二人して絶叫したのだった。やっぱり、驚かれるかあ。
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