2章 私達、結婚しました!

第5話 結婚初日・そして初夜

「あー、疲れた……」


 まだロクに物も置かれていないリビングに俺は寝っ転がる。


 4月2日。俺の誕生日であり、かつ、古織こおりと籍を入れた日。

 そして、新居に引っ越しをした日でもある。


「お疲れ様、みーくん。はい、お茶♪」


 俺の近くに来てしゃがんだ古織が、ペットボトルのお茶を渡してくる。

 その動きとともに、彼女自慢の髪がふわふわと揺れ動く。

 小ぶりな胸も少しだけ揺れる。


 んく、んく。渡されたお茶を一気飲みする。


「ぷはー。引っ越しをして、その後役所に行って籍入れて……めっちゃ疲れた」


 古織たっての希望で、引っ越しと籍を入れるのを同時にやったのだが、疲れる。


「古織は平然としてるよな」


 見上げると、古織はニコニコ笑顔で俺の方をクリクリとした瞳で見つめてくる。


「だって、今日から私はお嫁さんだもん。そう考えたら、嬉しくって、嬉しくって!」


 古織は今にも小躍りしそうな声色で話す。でも、


「そう思ってくれたのなら、俺も疲れた甲斐はあったよ」


 愛する人がこうして笑顔で居てくれるのは嬉しい。


「うん。お疲れ様、旦那様♪」


 そう言ったかと思うと、古織はかがんだまま覆いかぶさるようにして、俺に口づけをしてくる。

 上気した頬、潤んだ瞳。さっきまでの疲れが嘘のように、身体が興奮してくる。


「ぷはぁ。じゃあ、お返しな」


 今度は、俺の方からキスの雨を降らせる。そして、今度は舌まで入れてみる。


「ん……」


 しばし、お互いに舌を絡めあって感触を楽しむ。

 と思ったら、古織が俺を思いっきり押し倒してきた。


「お、おい。古織?」

「もう、我慢できない」

「おいおい。俺の方から襲いたいくらいだったのに、お前からするかよ」

「ちっちっち。みーくん。エッチしたいのが男の人だけだと思ったら、大間違いだよ!」


 「ちっちっち」は古織の好きな言葉だ。しかし、それはともかく。

 だが、この体勢だと身体のあちこちが触れ合って、非常に心臓に悪い。


「お前が俺を襲いたいのはわかったけどさ。今は、背中が痛い……」


 なんせ、まだ絨毯も敷いていないリビングだ。


「みーくんは、据え膳食わぬはなんとやらってことわざを知らないの?」


 よく知られたことわざを確信犯的に誤用して来やがった。


「なんで俺が据え膳なんだよ。逆だろ、逆」


 古織がここまで肉食系女子だとは思ってもみなかった。


「私だって、この日まで色々我慢して来たんだから!」

「自信満々に言うなよ。マジでこの体勢は勘弁。ほんと、背中痛い」

「むぅ。わかった。続きはお風呂入った後でね」


 そう言って、古織の奴は風呂場に去っていった。

 俺としては、嬉し恥ずかしの古織を優しく押し倒すのが理想だったんだが……。

 なんであっちの方が食う気満々なんだ。


 少しして、古織がシャワーを浴びている音が聞こえてくる。


(普段なら、こんなことで興奮はしないんだが……)


 これから、初めていたすのだと考えると、自然とあちこちが興奮してくる。


(そういえば、今日、誕生日だったんだよな)


 古織の奴は、毎年必ずプレゼントをくれたものだったけど、さすがに忘れたか?


 そんな事を考えたりして、待つこと約40分。


(やけに遅いな……)


 ひょっとして、シャワーじゃなくて、ゆっくりお風呂にでも入ってるのか?

 にしても、水音もしない……。そう不審に思っていたところだった。


 脱衣所の向こうから、ちら、とこちらを伺う古織の顔が見える。


「どうしたんだ?」


 お風呂に入っただけとは思えない程、顔が赤くなっているような。


「あの……今日って、みーくんのお誕生日、だよね」


 さすがに長年の付き合い。忘れていなかったか。


「プレゼント忘れて気まずいとかか?気にするなって」


 と続けて、


「お前と一緒になれただけで嬉しいからさ」


 柄にもない気障な言葉を言ってみる。


「も、もう。そんな事言って恥ずかしがらそうとして……」

「いや。素直な気持ち言ったつもりだけど」

「実はね。誕生日プレゼント、出来たの」


 出来た?実は用意していた、とかじゃなくて?

 その物言いの意味を考えるより先に、脱衣所のカーテンがゆっくり開かれた。

 そこにあったのは-


「え、えーと。どうかな?」


 手をもじもじとして、顔を赤らめている様子は実に可愛らしい……じゃなくて。


「ひょっとして、誕生日プレゼントって、それか?」


 その言葉を口にしてしまうのが少しはばかられる。


「うん。さっきは、あんなこと言っちゃったけど。やっぱり、私がもらうより、私をもらって欲しいから。それに、今日は新婚初夜だから。誕生日プレゼントに、私は、どうかな、って……」


 いわゆる裸リボンという奴だ。

 漫画とかエロいお話でみるより露出度は低めだ。

 でも、リボンを巻きつけて、自分がプレゼントだと言い放つ古織はとてもかわいい。


 すっくと起き上がって、じろりと、誕生日プレゼントを見渡す。

 少し小さい胸とか他にも隠さないといけないところは隠されている。

 それでいて、ふとももとか脇とかが露出していて、男としては色々たまらない。


「え、えーと。興奮、してくれた?」


 落ち着かない様子で俺の感想を求める古織だが、俺としてはそれどころではなかった。


 包装されたプレゼントを抱きかかえて、寝室に移動して、それ……いや、その娘を横たえる。


「そんなことされたから、もう止まれそうにないんだけど、大丈夫、か?初めてだと、女の方は色々怖いとか痛いとか言うだろ?」


 布団に押し倒しておきながら、今更ながらの事を確認する。


「うん。痛いかもしれないけど、全然、怖くはないよ。みーくんとはずっと一緒だったからかな……」


 暗い寝室で見えた古織の顔は、恥ずかしそうで、でも、とても、心待ちにしていた瞬間が来た、といった風だった。


「じゃ、じゃあ。それじゃ、もらうからな」


 どうやって巻いたのかさっぱりわからないリボンを少しずつ解いていく。


「うう。凄く、ドキドキしてくる……」

「そりゃ、そうだろ。俺だって、凄いドキドキしてるよ」

「嘘!平然と脱がしてるよー」

「そりゃ、男の俺が動揺して出来なかったら恥ずかしいだろ」

「そういうところは、やっぱり男の子なんだねー」

「どういう意味だ?」

「ううん。ただ、男とか女とか考える前に一緒にいたから。それだけ」

 

 思えば、確かにそれくらい前から一緒に過ごしてきたのだった。


 そうして、リボンを完全に解いた俺たちは、初めての行為をしたのだった。


◇◇◇◇


「実はね。こういう風にピロートークするのって憧れだったんだよー」


 まさに、ピロートークの場でそんな事を言い放つ古織。


「おまえ、そういうところ夢見がちだからなー。で、感想は?」


 途中、痛がった様子も、我慢していた様子もなかったけど、どうだったんだろう。


「あれ?全然痛くない?て感じだったよ。なんか圧迫感は感じたけど」


 平然とした顔でそんな事を言ってくる。


「あ、ああ。それなら良かったよ。出来れば痛がらせたくなかったし」

「私も覚悟してたんだけど、思ってたより、呆気なかったよー」

「喜んでいいのか悩むところだな」

「喜んでくれていいと思うよ?痛かったら、またするのは……てなっちゃうし」

「それはそうだけど、男としては色々複雑なんだよ」


 俺は俺で、新婚初夜という響きに何やら幻想的なものを感じていた。

 でも、それが「あれ?」って感じで終わってしまった感はある。


「あ、でも、もちろん、嬉しかったからね」

「ああ。それは俺も同じだ」


 ベッドの中で再びお互い抱き合う。


 その後、側に愛しい人がいてくれる嬉しさを噛み締めながら、俺たちは揃って寝たのだった。

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