第4話 固定費を見直しながらイチャつく俺たち

 結局、選んだのは、千葉県は市川いちかわ駅が最寄り駅な2LDKの家屋。

 俺たちの通う学校は総武線市ヶ谷いちがやにある。

 総武沿線で家賃が安くて、通いやすいところを探したらそうなったのだ。

 家賃が安くて広いためか、駅からはバスで15分と少し遠い。

 これで、家賃は共益費込みでピッタリ8万円。


 そして、4月29日現在。残金1000円。

 最初の方にやたら豪勢な手料理を作ったりなどが重なって、こうなってしまった。

 これからは真面目に節約していくか。


「まずは、お金の使い方を見直してみよう」

「でも、今月は家計簿つけてないよ?」

「固定費……毎月必ず使うお金は、ある程度わかるだろ」


 固定費は、毎月の暮らしの上で必ず必要になる固定の費用だ。

 電気、ガス、水道、スマホ代、ネット代などがそれに当たる。


 というわけで、スマホの通信料金などの領収書を取り出す。


「まず、スマホの料金……二人合わせて8000円。これ、使いすぎだろ」

「でも……ソフトバンクの普通のプランだよ?」


 ソフトバンクは、日本の大手通信キャリアの1社だ。

 CMもバンバン打っているので、知名度はやたら高い。ただ……


「ソフトバンクのは、意外と高くつくんだ」

「そういえば、みーくんの料金は……月額2000円!?」

「SIMフリーの格安スマホに、格安SIMカードの組み合わせだからな。安く付く」

「私は、6000円もしてる。全然違うんだー」

「そういうこと。節約したいなら、まず、ここらへんからだな」

「でも、ギガが足りないとか心配だよ」

「家に居るときはWi-Fiワイファイ使えば、3ギガのプランでも十分過ぎる」


 あと、学校に居る時は、そんなに重い動画みないしな。


「そういえば、ここって光回線通ってるんだよねー」

 

 この物件の売りの一つが、光回線開通済みで、家賃にそれが含まれていること。


「そうそう。使えるものは使って節約するのが賢いぞ」


 家に高速回線があるのに、わざわざ通信料金をかけるのはもったいない。


「私は、iPhoneだけど、別のSIMカード入れられるの?」

「そのままだと無理だな。店頭でSIMロック解除ってのしてもらえればいける」

「ふーん。じゃあ、SIMロック解除っていうの、してもらえばいいんだね」

「そうそう。どっちみち、俺たち、だいたいラインの無料通話使うだろ?」

「うんうん。友達とはいっつもラインの無料通話だよね」

「だから、ソフトバンクが無料通話あるとか言ってもあんまり意味ないんだよな」


 というわけで、古織は格安SIMに変える事で決定。

 これで、4000円近くは節約出来ることになる。


「電気代、ガス代、水道代、合わせて1万円か。どうしたもんかな」

「水道も電気もガスも無駄遣いはしてるつもりはないけど……」

「だな。ここら辺は必要経費と割り切るしかないか。もうちょっと削りたいけど」


 あとは……


「古織。結構、スマホゲーやってるよな。月額課金のないか?」

「最近やってないけど、月額500円のが2つあったと思う」

「もしプレイしないなら、解約してくれると助かるんだが」

「うーん、わかった!」


 早速、スマホの画面を操作して解約を済ませている模様。


「無理はしなくていいからな?やりたいのまで我慢したらアレだし」 

「ううん。私達のことでしょ?少しくらい我慢しないと」


 どうにも古織は、熱が入るとやり過ぎるきらいがあるから少し心配だ。


「あ!俺も、ユーチューブミュージック課金してたんだった」


 古織に言っておいて、自分も無駄に課金していたのを思い出した。


「みーくん、結構音楽聴いてなかった?無理しなくてもいいのに」

「古織が我慢してるんだ。俺も少しは我慢しないとな」


 というわけで、ユーチューブミュージックも解約。

 これで、月額980円、だいたい1000円の節約だ。


「あとは、固定費で削れるところは……そういえば、お小遣いがあったか」

「それ削っちゃうと、好きなお洋服も買えなくなっちゃうよ」


 少し悲しそうに言う古織を見て、失言を悟る。


「それもそうか。男だから、服とか適当でいいやってなっちゃうんだよな。すまん」

「ううん、いいよ。でも、お小遣いもこれからはきちんと使わないと」

「俺も、適当にコンビニでジュース買ったりするからなあ」

「コンビニのジュースは高いよ。ダイエーとかで買うようにしたら?」


 ダイエーは市川駅の近くにある大手スーパーだ。

 学校の帰りに、買い出しのためによく寄る。


「ま、その辺は脇道だけど、固定費はそこそこ削れそうだな」


 合わせて、4000 + 500 * 2 + 1000 = 6000円の節約だ。


「私達、意外と、知らないところで無駄遣いしてたんだねー」

「俺も、以前調べたことがあるくらいだけどな」


 お金の事でトラウマを負った俺は、節約について色々調べていたりする。

 古織には言っていないけど、いざという時に使えるお金は30万円程ある。


「でも、私、みーくんが居てくれなかったら、結構駄目駄目だねー」


 固定費の見直しをし終えたところで、ふと、妙に凹んだ感じの古織。


「そんなこと言うなよ。古織が家事とか色々やってくれてるから、こうして過ごせるんだぞ?」


 言いながら、古織の背中に手を回してぎゅうっと抱きしめる。

 こうして、古織の体温を感じるのが、俺はたまらなく好きだ。


「みーくん、「ぎゅっ」てするの好きだよね」


 くすぐったそうな古織の声。


「古織は嫌いか?」


 答えがわかっていながら、問い返してみる。


「ううん。大好き。でも……」


 抱きしめ合いながら、顔を上に向けて、目を閉じる古織。

 頬が少し上気していて、とても可愛らしい。


「んぅ……」


 お互い唇を合わせて、深いキスをして、お互いの感触を楽しむ。


「なんだか、こういうキスすると、私達、夫婦なんだなーって実感できちゃう」

「なんだよ。キスしないと実感出来ないのかよ?俺はいつも実感してるぞ」

「あ、みーくん、そこが大きくなってる!」

「ちょ。そこは気づいてても言わないでくれよ」

睦事むつごと、する?」


 お義父さんから聞いた時はわからないと言っていた言葉。

 そんな言葉を耳元で囁かれると、誘惑されているようでゾクっとしてしまう。


 気がつくと、夕日が外に沈もうとしている。


「じゃ、じゃあ。するぞ?いいのか?」


 初めて古織とエッチな事をしたのが、結婚したその夜。

 妙に夢見る乙女なこいつは、「結婚するまでは駄目!」と言って譲らなかったのだ。


「みーくん、目が獣みたいになってる……」


 俺の目を見ながらも、笑って言う古織。


「そりゃ、古織が可愛いから、食べたくもなるぞ」

「こうして、私は、みーくんに食べられてしまうのでした。まる」

「なんだよ、それ?」

「ちょっと、食べられる私の心境を実況してみただけ」


 相変わらず笑いながら、そんな事を言ってくれる古織。


「でも……やっぱり、身体、綺麗だな」


 服を少しずつ脱がしながら、話しかける。


「そうかな?気を遣ってはいるけど」

「ほんとだって、背中もすべすべだし」


 脱がしながら、露出した背中を撫でる。


「ん……ちょっとゾクっと来ちゃう」

「背中、弱いよな、お前」

「わかってるなら、言わないでよぅ」


 弱々しい声でいうこいつが可愛すぎる。

 そのまま、最後まで脱がしてしまう。


「ん……まだ、少しドキドキするかも」


 一糸まとわぬ姿になった古織は、頬を赤らめて俺を見つめてくる。


「それくらいの方が俺は嬉しいな」

 

 そう言って、俺たちは行為に更けるのだった……。


 こんな風にして、休日の一日は過ぎていく。

 お金に余裕はないけど、とても幸福な時間。


◇◇◇◇


睦事むつごとした後の、お風呂ってなんかいいよね」


 やや狭い浴槽に向かい合って浸かりながらの古織の言葉。


「ああ。なんか、一汗かいた後の一杯って感じだよな」


 照れくさくて茶化してみる。


「そうやってすぐ茶化すんだから。ふん!」


 古織はすねてしまった。そんな様子もそそるのだけど。


「まあ、ちょっと照れくさかっただけだって」


 どうにも甘ったるい言葉を吐き続けるのが苦手なのだ。


「じゃあ、これはどう?ぎゅっ」


 そう言って、裸のままで抱きしめられる。


「ちょっと。さすがにこれは恥ずいんだが」


 幸い、この体勢だと顔は見られていないか。


「みーくんは、「ぎゅっ」が好きだと思ったんだけど?」


 悪戯めいた言葉。


「そりゃ、好きだけどさ。裸だと照れるだろ。お前は照れないのか?」


 言いながら、背中をつーと撫でてみる。


「……!もう!」


 古織は古織で恥ずかしかったらしい。

 しかし、お風呂でイチャイチャ、いいよな。


◇◇◇◇


 お風呂上がりの寝室にて。


「しかし、コンドーム代も馬鹿にならないよな」


 ふと思い出したことを言ってみる。


「さすがにそこを削るのはナシだよぉ!」


 割と肉食系な古織としてはそこは譲れないらしい。

 まあ、俺もそれじゃ困るが。


(結婚直後は、色々お気楽だったよなあ……)


 俺達が結婚した日、つまり、4月2日の事の事を思い返す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る