第2話 大きくなったらお嫁さんになる!
「おおきくなったらおよめさんになる!」
そんな言葉を幼稚園児くらいの頃に言った人は、意外にいるらしい。
しかし、そんなものは幼児の戯言。
普通は成長していくと「そんなこともあったね」と振り返る程度になる。
幸か不幸か、俺たちはそうはならなかった。
なぜなら、幼稚園児の頃から付き合っているからだ-
◆◆◆◆
「あたし、大きくなったら、みーくんのおよめさんになるー!」
幼稚園児だった、僕、
それに、彼女、
僕らは仲が良くて、僕のアパートで一緒に遊んでいた。
そんな中で出た古織の無邪気な一言。そんな彼女に、
「こおりちゃん。およめさんのまえに、こいびとにならないといけないよ?」
僕は、聞きかじった知識をつい言ってしまった。
「こいびと?」
不思議そうな顔で問い返してくる古織。
「おとこのこと、おんなのこが、いっしょにいるんだって、やくそくするってこと」
「こいびとって、およめさんとどうちがうの?」
「ぼくもわからないけど、おとなじゃなくても、こいびとはいいんだって」
大人にならなくても、恋人にはなれるとだけ理解していた。
それがきっかけ。
「じゃあ、きょうから、みーくんのこいびとになりたいー!」
「うん。ぼくもこおりちゃんのこいびとになる!」
こうして、僕達は幼稚園の内に「こいびと」になったのだった。
でも、幼稚園児のうちは、おままごとの延長線上。
単に、お手々つないで歩きましょうがせいぜい。
◇◇◇◇
小学校に上がっても、僕たちの、無邪気な「こいびと」関係は続いた。
「みーくん、あそぼ♪」
「うん、こおりちゃん」
僕は古織にべったりで、古織も僕にべったりだった。
僕たちはいつも一緒に登下校をしたし、よく2人で遊んでいた。
理由はわからないけど、相性が良かったのかもしれない。
無邪気な「こいびと」関係が少し変わったのが、小学校4年生の頃。
まだまだ、男女間のお付き合いというのはよくわかっていなかった年頃。
お互いに少年少女向け漫画誌で「キス」という事を覚えたのがきっかけだった。
「ねえ、みーくんー」
「なあに、古織ちゃん」
「私、キス、してみたいの。恋人だとキスするんでしょ?」
古織が何気なく、そんな事を言って来た。
僕も、漫画で見る「キス」に興味があった。だから、
「うん。僕もしてみたい」
そんな風に無邪気に返した。
僕たちは、じゃれ合いの延長線上で、何気なくキスを交わしてしまった。
「ぷはぁ。みーくん、キスって、すっごく気持ちいいね!」
「うん。こおりちゃん!だから、恋人同士ってキスするんだ!」
無邪気にはしゃいだ僕たち。
そんな僕たちは、事あるごとにキスをするのが普通になったのだった。
今考えても甘酸っぱい思い出だと思う。
◇◇◇◇
無邪気な「こいびと」関係はさらに続いた。
他の友達よりも二人で一緒に遊ぶ、そんな幸せな生活。
僕たちの関係が再び変わったのが、小学校5年の頃。
僕の父さんは、当時、フリーランスでデザイナーをしていた。
有名な広告のデザインもしたことがあるらしい。
でも、父さんは、僕や母さんが知らない内に多額の借金を抱えていた。
そして、ある日突然蒸発。
「隠していてすまない」
そんな手紙だけを残して。
残された母さんは、僕を女手一人で養おうと必死で働いていた。
でも、父さんが居なくなったせいで、生活苦に耐えられなくなった。
「ごめんなさい」
と手紙だけを残して、やはり蒸発した。
相次いで父さんと母さんと失った僕は、呆然自失。
なんで、どうして、とひたすら疑問に思っていた。
古織のお父さんが僕を引き取ってくれたことで、僕は救われた。
この頃の話は、思い出したくない程苦い出来事。
でも、僕と古織の関係が無邪気な「こいびと」から変わったきっかけだった。
僕を引き取った倉敷家は、「倉敷工業株式会社」を経営していた。
古織のお爺さんが社長、お父さんが次期社長になるのが決まっていた。
僕は、会社が何をしているのか知らなかった。
でも、親権者として僕を引き取れるだけの財力。
それに、3階建ての豪邸に、僕を何不自由なく生活させてくれるだけのお金。
両親が逃げ出した僕の家と違って裕福なのは子ども心にわかっていた。
それを見て、僕は
「ああ、世の中、結局、お金が全てなんだ」
と、斜めに構えた風に物事を見るようになった。そして、人間不信になった。
引き取ってくれた、古織の両親だけでなく、「こいびと」の古織にさえも。
そんな僕を変えてくれたのが当時の古織だった。
ある日、人間不信が発展してプチ家出をかました僕に、
「みーくんがどうなっても。お金がなくても。私だけは一生みーくんと一緒にいる」
と、誓ってくれたのだった。
そんな言葉をかけてくれた古織に僕は恋をした。
それから今までにも増して古織とは仲良くなっていった。
一つ屋根の下だから、一緒に遊んだことも悩みを共有したこともたくさんあった。
◇◇◇◇
中学に進学した俺たちは、以前にも増してべったりとするようになった。
あまりにも当然のように一緒にいるから、周りから
「お前ら、デキてんの?」
なんて聞かれるようになった。
この頃になると、幼稚園の頃から「こいびと」というのが変なのは自覚していた。 だから、
「最近、古織の事が気になって、告白したんだ」
とお茶を濁すようになった。
俺も古織も第二次性徴が始まっていたし、
「性的なもの」に興味を持つようになっていた年頃。
その頃から、少しキスの意味合いも変わっていた。
ある日、放課後の教室で、古織と何気なくキスをした後のこと。
「なんだか、今日は、胸がドキドキする……。それに、身体が、熱い……」
目の前には、上気した表情の古織。なんだかとても艶かしく感じた。
「俺も、なんだか興奮する。これが好きっていうことなのかな」
俺たちは、恋人として好き、というのがよくわかっていなかった。
でも、この胸の高鳴りがが恋なのだと、漠然と理解するようになった。
「私も、みーくんの顔見るとドキドキする。これが、恋、なんだ……」
お互いにキスをして感情を確認しあった、変わった関係。
それからの俺たちは、お互いの愛情を確認しあうために、よくキスをした。
放課後の教室。
二人きりの部屋。
他に人が見ていない登下校の途中。
それ以外にもいろいろな場所で、俺たちはキスをした。
「キスってほんとに気持ちいい。どんどんハマっちゃいそう……」
「ああ。俺も、いつでもキスしていたいな」
キスするたびにそんな言葉を囁きあっていた。
そして、デートをした後は、いつも最後にキスをするのがお決まりだった。
◇◇◇◇
キスをして愛情を確認しあう関係も高校になったらまた少し変わった。
この頃になれば、付き合い始めたクラスメートも多くなってきた。
やたらキスをしたりスキンシップをする男女も珍しくなくなってきた。
ある日、デートが終わって家に帰った後、俺たちは、ある行為に及んだ。
「ね、ねえ。みーくん。ちょっと、胸、触れてみて欲しい……」
顔を真っ赤にしながらの古織からのおねだり。
俺はといえば、その言葉に身体も顔も真っ赤になる勢いだった。
「え、ええと。いいのか、古織?」
「あ、もちろんエッチまでは駄目だけど。触れるくらいなら」
「じゃ、じゃあ触れるな」
そんな、性行為までは行かないまでも、その寸前みたいな行為。
また、それ以外にも、
「ねえ、みーくん。背中、撫でて欲しい」
「ああ。こんな感じでいいか?」
「うん。あ、気持ちいい」
そんな感じで、色々なスキンシップをした。
ともあれ、カップルが普通の光景になると、俺達の見方も変わってくる。
ちょっとスキンシップ過剰な俺たちを見る周りの目も、
「こいつらバカップル過ぎねえ?」
「すっごい熱々だよね」
などと、少し呆れられる程度になっていた。
お互い側にいるのが自然だから、バカップルなんて気にならなかったけど。
◇◇◇◇
そして、高校3年生になる前の冬に、彼女からプロポーズを受けたのだった。
プロポーズのシチュエーションはちょっぴり可笑しなものだった。
だから、俺は少しだけ戸惑ったけど、プロポーズを受けることにした。
一緒に生きていくという誓いを忘れたことはなかったし、好きだったから。
ただ、少しだけ問題があった。
それが古織の両親の許可だ。
未成年である俺と古織が結婚するのには、古織の両親の許可が必要だった。
父親である、
高校2年生の冬のある日。俺たちは、浩彦さんと花恵さんを前に、こう言ったのだった。
「お義父さん、お義母さん、古織を俺にください!」
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