04_発熱が抑止にならない

 タイトルで語り尽くされている気もするけれど、「発熱程度じゃ私は文字書きを休まない」という話だけではない。実際そういう面があるのは全く否定できないものの、予想の範疇だと思うので此方についての詳細は控えよう。

 まずは私の体質の話をさせてほしい。特別な病気ではないが、私はとても熱を出しやすい。月に一、二回は熱を出す。風邪の諸症状が一切無いこともあって、私はこれを『オーバーヒート』と呼んでいる。知恵熱にも近い。ただ疲れが出るだけだ。大したことではない。ちょっと熱で怠く、頭が痛かったり、身体の節々が痛かったりするような、普通の熱だ。高熱と呼ぶほどでもなく、三十八度まではほとんど行かない。一日から二日で下がる。忙しくて中々休息が取れない場合は一週間ほど続くこともあるが、それは年に一度あるかないかという頻度。そんなにひどく困っている体質でもない。

 勿論、私の『文字書き依存症』も、多少なりとこの発熱の要因になっているとは思う。自分でも引くほど書くような期間だとか、少し睡眠時間を削ってしまった時には、どうしても疲れが溜まる。仕事の忙しさと重なれば、熱を出してもおかしくはないだろう。ただ、書いている間、私は発熱していても全く自覚できないことが多い。その為、発熱するほど疲れが溜まったところで、それが全く抑止にならないのだ。身体が不調を訴えるのは、休息を求めているからだと思うのに、その声を私が聞いてやれることは非常に少ない。何の為の訴えなのだろうか。申し訳ないと思っても、どうしようもない。冒頭に述べた「熱があるのは分かっているが無理をしている」のとこの場合は違う。私は発熱していることを全く気付いていないのだから。

 ならばどのタイミングで発熱していたことを知るのかと言うと、眠る直前だ。身体をベッドに横たえて、スマートフォンで続きを書いたり推敲したりするのも終えて、目を閉じて身体の力を抜く。ふうと一息吐いた時に、身体の感覚がずんと重いのを気付く。おや、と一度気付いたら、段々自覚する。身体の節々が痛い、呼吸が少し熱い気がすると。仕方なく再び身体を起こし、熱を測って、またやってしまったのだと理解する。

 このような場合は面倒と思いながらもそのままにせず、きちんと服薬する。解熱鎮痛剤では誤魔化すだけなので、夜は葛根湯が多い。翌日の日中も熱が続いてしまう日は仕方なく解熱で誤魔化して仕事をするが、私は私なりに自分の身体を気遣っているのだ。解熱鎮痛剤のような強い薬を高い頻度で飲むのは避けている。すぐに熱を出す体質からも分かるように、無理が通せるほど丈夫にも生まれていない。周りが思うほどに無茶をしているとも、したいとも思っていないつもりだ。

 ただ、既に読んでいてお気付きの方も居るだろうと思うが、この症状を防ぐ方法が全く無いわけではない。確かに私の知らないところで身体はSOSを出し、私は全く受け取れぬままに発熱してしまっている。しかし、発熱は数値で出るものだ。自覚する前に、定期的に測る習慣を付けてしまえばいいだけの話だ。勿論、測った後に熱が上がることもあるのだろうけれど、全てではなくとも拾える場合はあるだろう。そんな簡単なことに気付かなかったわけがなく、それでも一度もそんな習慣を付けたことは無い。結局、熱を確認すれば書かないで休むかと言えば、休まない。これが冒頭の話だ。誰もが予想通りだと思うけれど、熱があっても間違いなく私は文字を書く。それを分かっているから、敢えて面倒な習慣を付けようと思えなかった。

 それは無茶をしたいと言うのとは大きく違う。ただ、多過ぎるのだ。私は月に一、二回は熱を出す。長い時は一週間続く。私が手を止めていられる頻度でも、期間でもない。全く耐えられない。気付かないのは初日だけ。翌日以降は自覚している。それでも、文字書きの時間を大きく削れたことは無い。一時間程度ならいつもより早く休むこともあるけれど、今日は書かずに寝ようという判断はまるで出来ない。

 つまるところ、「発熱を気付けない」上に、「気付いても止められない」せいで、発熱は私の『文字書き依存症』を抑える効果が全く無いのだ。

 なお、大体もうお分かりのことと思うが、発熱だけではない。前にも述べたが、腱鞘炎が出ていても文字書きを止めることは無いし、他の不調もまた然りだ。以前、左手の薬指の先を酷く怪我して包帯でぐるぐるになっていたことがあったが、左手の薬指を使わずキーボードを叩くのに慣れるまでは二日程度だった。止めようとは全く思わなかった。私は片腕が落ちたとしてもキーボードを叩くのだろうなと思う。

 机に座って、ただキーボードを叩くだけの依存症であって幸いだったかもしれない。もっと酷く身体に負荷を掛けるような趣味に依存してしまっていた場合、全く笑い話にならなかったのだろう。だから問題ないとは、流石に言うつもりは無いけれど。

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