橋の端と端(3)
そびえ立つ真っ青なタワーは、近くで見るとガラスでもなくて、かといって金属やアルミとかでもなくて、表面が青いのかと思ったらそれは青い空を反射してたんだ……ってポカンと見上げてしまってた。
『口が開いている』
「知ってるし」
私は意を決した。
今こうしてドンドン私を追い越して行くこの人たちの流れに続いて、目の前の巨大な青い柱の中に一歩足を踏み出せばいい。それぐらい自分に思い込みさせなきゃ
入り口は虹色に反射する光のカーテンの自動扉、そこから中に一歩足を踏み入れたなら、私は自分がピクセル化されたアバターなんじゃないかって勘違いするくらいデジタル空間に溶け込んでる。私の肌に反射する光のモノグラムが細かく動いて
これもまたSFの一部だってことにしないと、とてもじゃないけど落ち着きを保てないと思った。このバーチャルな世界に吸い込まれそうな自分を何とか真っ直ぐ立たせてる。
さっきからずっと自分の世界には存在しない未知の存在を目の当たりにする度に、頭の中の自分をどうにかして
私が見慣れないものや未知のものを自分で納得させるには、SFやフィクションの世界に当てはめることしかできないんだ。だからテーマパークの乗り物や、おとぎ話の世界観に例えようとするんだ。無意識に頭の中が防御してる。ただそれだけのことだった。
それでも
『どんな気分だ』
「これはさすがに夢見る空想ガールでもキツイかな」
『そこまで深く考える必要はないのではないだろうか』
「守護神って時々すごく
『状況と事実から判断したアドバイスと評価されたいな』
「もはやそれが無理だから」
『つまり君の本当の居場所はここではなく、ここでの君はミッション達成までの仮の姿だという思考だ』
「初めからそう言ってよ、もう」
守護神の言う通りだと納得させられた。
余計なことは考えなくていい。私は自分の目的のためだけにこの空間を利用してるだけなんだって、うまく切り替えられた。
とは言っても、何もかも不思議な状況は止まらない。
液晶パネルとかスクリーンとかないのに映像が宙に浮かんでるし、モバイル端末も何も持ってない人たちが、空中を手や指でなぞってる。たぶん本人には何か見えていて操作してるんだよね、きっとそうだ。
「もう私、いちいち何でも分析して理解しようとすることやめる……きりがないから」
『ではそろそろ上の階へ進んでみてはどうかな』
巨大な円柱型のタワーの構造はシンプルで、
塔の中央の巨大なパイプはエレベーターっぽいけど、信じられない速さで動いてる。あんなの乗ったら気絶しそうなんだけど……。
「この通路にそって建ち並ぶショップは何屋さんなんだろう」
『何かを売っているのだ』
「るのだ」
『上に進もう』
「たぶんこの時代の人に売れるモノなんでしょうね。きっとアレよね、駅や空港には必ずお土産屋さんがいっぱいあるみたいな」
よーく見たら何となく予想できそうだけど、入る勇気はないかな。
でもどのショップも面白そうで気になる!修学旅行だったら一日ずっと退屈しなさそう!私は寄り道したくなる気持ちでいっぱいになって、心はウキウキ浮かれてた。
「お待ちしておりました」
予期せぬ突然の事態に思わず息を
橋のたもとで少女に声を掛けられた時も油断してたけど、今度は雰囲気が違う。待っていた?前ジャンプした私を知ってる者はいないハズでしょ?
「えっと、人違いじゃありませんか?」
とりあえず
私の正面に立つ女性は、小麦色の肌に切れ長の目をした長身のパリコレモデルみたいな人だった。
「エリス様がこちらにおいでになると伺っておりましたもので、お迎えにあがろうかと」
エリス……!!前に聞いた名前!!
《やあやあエリス、久しぶりじゃないか!探したんだよエリス、さあ僕らと一緒に戻ろう!忘れたのかい?あんなに楽しかった空想世界を》
あの亀の集団だ……。アイツらが私をそう呼んでた。
だとしたらマズイ。この女性がその仲間だったら私はどうなる?
守護神は……今は他人が目の前にいて声を出せないでいる。
どうする?いや、ちょっと待って。この世界では私は別人、もしもこの世界での私がエリスという別人なのだとしたら、これはきっとチャンスなんじゃない?
よし、やってやる。
「ああ、えっと、たしかあなたは……」
「申し遅れました私、キョコと申します。これよりエリス様をご案内させていただきます」
「そうですか、それは助かります、お願いします」
「それではこちらへ」
私はこのキョコと名乗るこの女性に、エリスとしてしばらく付き合うことにした。
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