橋の端と端(2)

【三賀山旅客ターミナル駅】

「へ?」

 時代は巡っても駅名の看板は日本語なんだねぇって、のん気な天然キャラじゃない私だからこそ、疑問はソコじゃない。

「どゆこと?旅客ターミナル駅って?」

『ターミナル駅、ということはあの橋の先は交通機関のゲートということになる』

「三賀山が?」

『そう書いてある』

「このド田舎が?」

『時代は巡るものなのだな』

「信じられない」

 たしかに旅客ターミナル駅に到着したであろう人々は、奥の連絡通路らしき動く歩道上をスイスイとキャリーバッグを滑らせてこちら側へ出て行く。

『3泊4日というところであろうか』

「守護神テキトーすぎ」

推察すいさつではあるが』

「当たり前だけどみんな大人ばかりだね」

『梓と同世代は……いそうにないな』

「まあ想定内だよ」

 とは言ったものの、女子中学生がバックパックひとつ担いだだけで、あとは胸に神像なんか挟みこんで旅客ターミナル駅からどこへ旅立つのかって怪しまれないか超不安になってきた。

『梓はひとまず堂々と、あのタワーへの橋を渡ってみてはどうだ』

「さっきから守護神テキトーすぎじゃない?自分は私の服に挟まってるだけだから楽チンだろうけど、ここが旅客ターミナルってヒントしかないこの状況で、どんなターミナルでどこかでお金が必要なのかとか、どんなシステムでみんな手続きしてて、どんなルールで旅立つのかも知らないこの田舎者の少女には負担が大きすぎでしょ?」

 フツブツと不満を守護神にぶつけながら、ズンズンと橋の方へ歩く私は、自分が思うよりかなり上をいくアブナイ独り言ブツブツ少女だったに違いない。だって周りの知らない人たちからは、私に話し相手がいるようには見えないのでしょうから。

「えーっと、切符とかカードとかいらないよね」

『どうなのだろう』

 ちょっと挙動不審だったかも知れない。かといって違反行為とか法律で禁止されてるとかなければ、まだ私は何も怪しいことはないハズなんだけど……。


「どこへいくの?」

 小さな女の子だった。つぶらな瞳にリカちゃん人形みたいな髪、キュートすぎて抱きしめたくなっちゃいそうだけど……。

 でもこんな小さな子がこんな所で一人ってことはないと思うんだけど、この子のママや保護者らしい人は周りにいない気がする。

「お姉さんね、この橋を渡ろうと思って。あなたのママはどこかにいる?」

「なぜそちらへいくの?」

「うん、ちょっと用事があって。どうして?」

「いつもどってくるの?」

「どうしたの?そんなに気になる?」

「なにがあるの?」

「いやいや、なんでもないから気にしない、で」

 違う!!ちょっと待って!!この感じ!!

 前に見たことある気がする……デジャブ?なぜか知ってる。いや、あれだ!!おばあちゃんの本!!でも読んだことのある本の内容が、今この場で何だって言うの?!

 私にどうすれと言っているの?

 そのとたんに私は、そのつぶらな瞳に見つめられて声が出せないでいた。特にこれといって自分に身の危険が迫っている状況ってわけではなく、ただ質問されてるだけ。なのになぜなのか、この小さな女の子に自分の心の中を見透みすかされてるような、私がこの時代の人間じゃないことがバレてしまっているのでは?!と戸惑っていた。

『惑わされるな』

 小さく守護神が言った。

 そうだ、思い出した。あの時に読んだ本のエピソードでは、たしか嘘を言っちゃいけないとされていたと思う。嘘を言えば苦労せずに事が進んでも、最後はゴールにたどり着けない。

 もうこなったら正直に。


「あのね私、大切なものを守るために行かなきゃならないの」


 私の大切な宝物。

 ただそれだけ。

「そっかぁがんばってね、おねいさん」

 それだけ言って、女の子はあっさり走って行ってしまった。

 この心臓の鼓動はきっと私の心臓に一番近い守護神に伝わってる。そしてこの私の弱い心も守護神は知ってる。

『大丈夫だったか?』

「うん、ありがとう守護神」

『忘れているぞ』

「え?」

『ここでは君は別人なのだからな』

 忘れてた。

 私は別人なんだ。

「私はあの女の子を知らない……けど」

『相手は君を知っていても不思議じゃない』

「そんなこと、どう対処すればいいのか分かんないよ」

『信じろ、こたえは君の中にある』

「うん」


 遠く高くそびえる青いタワーへ通じるこの橋も、左右両サイドが動く歩道だった。

 でもなぜか今は、自分の足で進んでみたかった。堂々と中央を歩いて進んで行きたかった。守護神に堂々としろって言われたからとかじゃなくって、自分のやりたいことを胸を張ってやり切ってやるんだ!って言ったことのない自分だから、今はカッコよく思ったから。

『どうかしたのか?』

「ううん、どうもしないよ」

 立ち止まって後ろを振り返った私を守護神は不思議に感じたのかな。

 でも見てみたくなったの。

 あの断崖絶壁の露頭が、なぜかこの時代でも地層面だけはコンクリートで整備されてなくって、むき出しのまま昔のままにされてたから。

 それだけ見ただけで、不思議と勇気が出たの。

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